zxcfg (4)
江戸の長屋

今回はこういうお題でいきます。ほとんどオカルトとは関係ない
話ですが、最後のほうで少しだけ出したいと思います。
前にも少し書きましたが、自分は鳥山石燕の妖怪画を研究していまして、
あの絵のそれぞれは、何か洒落や隠された意味が込められた
判じ物になっていて、なかなか謎解きできない。

これはなんでかと考えると、自分に江戸の知識がないからなんですね。
それで悔しいなと思いまして、少し江戸学の勉強をしてるんです。
といっても、市民講座を受けたり、大学の聴講生になったりとか、
そういうことではなく、まあ、本屋に行って、
江戸時代に関する新書が目につけば買うくらいです。

江戸古川柳というのがありますよね。連歌の前句付けが独立したもので、
俳句と同じ五・七・五ですが、季語はありません。
季語がないので自然をよんだ句は少なく、世相や風俗が題材になって
いるものがほとんどですが、これが難解なんですねえ。

zxcfg (3)

一度読んだだけではまったく意味がつかめず、謎解きをしなくては
ならないものが多く、石燕の妖怪画と共通点があるんです。
江戸当時の商売や物の値段、作法やしきたり、それから、吉原遊廓などの
色ごとに関するもの、時事的な事件、それらについての知識が必要です。

例えば現在でも、少しだけ流行した言葉とか、一発屋で
消えた芸人なんかは、もし100年後にそれをよんだ川柳が
残っていたとしても、おそらく未来の人はすぐには意味がつかめないと
思います。同じことが、現代から見た江戸古川柳にも言えるわけです。

さて、ではここからは、少し難解句をご紹介していきたいと思います。
「こりゃ喜助 小便所までは 何里ある」
まず理解は不可能ですが、ヒントは吉原をよんだもので、
喜助というのは、遊郭で雑用をしている老人のことらしいです。

江戸の職業 リサイクルが発達していました
zxcfg (6)

これはふられた男のことですね。首尾よく遊女と布団に入ったのはいいが、
女は小便に行くと言い残して逃げてしまう。よほど嫌われたんでしょう。
それで残された男がしびれをきらして、小間使いの爺さんを呼んだ。
・・・まあ、ふられたことがわからないほどの野暮ってことなんでしょう。

これもまず無理ですが、少し考えてみてください。
「大家から 鉄砲玉が 十五くる」 ヒントは15という数です。
江戸の町人はほとんどが長屋に住んでいて、「大家といえば親も同然」と
言われていました。で、大家は地主の代理として家賃を集めるかわりに、
住人の世話をなにくれと焼いたものです。

正月には餅、十五夜には団子を配るなどしましたが、大家にも金がない。
そこで月見団子が、当時の丸い鉄砲玉くらいの大きさになった・・・
わかんないですよねえ。次も大家と店子もので、
「店中の 尻で大家は 餅をつき」わかったらすごいです。

吉原の花魁
zxcfg (5)

ヒントは、尻=ウンコです。江戸の長屋は共同井戸、共同便所でしたが、
長屋の住人が出したものは、権利として大家が下肥取りに売っていました。
野菜栽培などの肥料として使われるんですね。で、大晦日にその
支払いをもらって、大家がやっと正月の餅つきができる。
あと、「尻もち」と言葉が掛けてありますね。

『南総里見八犬伝』を書いた宝井馬琴は、何でも日記につけていましたが、
自宅の下肥の代金にナス250本をもらい、「一人50本なのに
足りないぞ」と文句をつけています。すると下肥取りが、
「15歳以下は一人と数えません」と言い返す。
・・・落語みたいですが、本当にあった話です。

あとは職業ですね。江戸には多種多様な職業があって、これをよんだ
ものもわからない。「焼接屋 夫婦喧嘩の わけを聞き」
さあどうでしょう。焼継屋というのは割れた瀬戸物を鉛ガラスで
接着する仕事で、街中を流していました。

zxcfg (2)

で、ある長屋の家で夫婦喧嘩があって茶碗を投げて割れた。しかたなく、
その仲裁をしようとするところなんですね。次は世相・事件に関するもの。
「お妾の おつな病は 寝小便」小便組という詐欺行為があって、
田舎侍や大店の商家に妾に入った女が、わざと毎晩寝小便をして
暇を出され、支度金をだまし取る手口で評判になりました。

おっと、まだいくらでもあるんですが、そろそろ字数が尽きてきたので、
オカルト川柳に移ります。「幽霊に なると平家も 源氏なり」
これはわかりやすいでしょう。平家は赤旗が軍の印でしたが、
幽霊になると白装束なので、白旗がシンボルだった源氏と変わらない。

「幽霊は みな俗名で あらわれる」 『四谷怪談』のお岩さんというのは
もちろん俗名で、戒名で出てくることはない。成仏していないからですね。
「幽霊に 応挙画筆の 水を向け」これは足のない幽霊画を描いたと
言われる円山応挙のところに幽霊が出たので、
絵筆に使う水を手向けがわりにしたということでしょう。

さてさて、ということで、自分が難しいなあと思った川柳の
ほんの一部だけですがご紹介してみました。なかなか面白いと思いませんか。
江戸学って深いんです。いつ石燕の絵までたどりつけるかわかりません。
では、今回はこのへんで。

幽霊画
zxcfg (1)