私は漫画雑誌の編集者をしています。内容はホラー関係のものが多いのですが、
そのご縁で、何名か霊能者と呼ばれる方と懇意にさせていただいています。
そんな中であったお話をいくつかさせていただきたいと思います。

視線
ある女性の霊能者の先生とお会いすることになりました。
待ち合わせの場所は向こう様の指定で、
有名なホテルのロビーということになりました。
約束の時間の15分前に着いて、待っていることにしたんです。
そこに入ったのは初めてでしたが、自動ドアから一歩足を踏み入れたとたん、
異様な焦げ臭さを感じました。まるで鼻の真ん前で紙でも燃やされているほどの。

あたりを見回したんですが、他のお客さん方はまるで気にしてるふうは

なかったんです。だから私の鼻がおかしくなったのかと思い、

一度外に出てみました。すると何の臭いもしません。少し通りを歩いて、

もう一度入ってみると、やはり、ものが焦げる強い臭いがあったんです。

不思議でならなかったので、いちおうホテルの人に聞いてみようと思いました。
 

カウンターに近づこうとすると、中東の団体と思われる、カンドゥーラを着た

人たちが入ってきました。係員の人は私の言葉に少し驚いたようでしたが、

反論はせず「ご注意ありがとうございます、異常がないか、さっそく

調査いたします」というような内容のことを言いました。そのとき、背中に

視線を感じたんです。私は小さい頃から少しだけ霊感があるたちで、特に他の

人の視線には敏感なんです。顔をあげてカウンターの壁を見ました。そこは

鏡張りになってるんです。そうしたら、ロビーで見える範囲にいる人全員、

中東の団体も日本人も、私の背中を見つめていて、しかもアカンベーみたいに

舌を出していたんです。「!?」と思いふり返ってみると、みなそれぞれ

向きを変えたり、歩き始めたりしました。まるで何事もなかったようにです。

ですから、私が幻覚を見たのかと考えたくらいです。

怖くなったのでホテルの外で霊能者の方を待っていました。そしたらほどなく、

高級タクシーに乗って、そのテレビ等で顔をよく知られている霊能者の先生が

こられたんです。こちらからお声をかけたんですが、先生は私の顔を見るなり、

「このホテルは、あなたには場所が悪いですね」そう言って、
歩いて数分のところにある喫茶店に2人で入ったんです。
席に着くなり開口一番「あのホテルで何かあったのでしょう?」と尋ねられました。

それで、初対面でおかしな話をするのも恐縮だったんですが、焦げ臭い

臭いがしたこと、鏡の中でロビーの人たちがみな舌を出して私を見ていたこと、

でも自分が見た幻覚の可能性が高いだろうこと、それを話したんです。
すると先生はこともなげに、「それは実際にあったことですよ。
自分の見た物はあまり疑わないほうがいいです。
そのために、かえって調子を崩してしまう方もおりますから」

こうおっしゃったんです。さらに続けて、
「あのホテルはあなたにとって場所が悪いのでしょう。
前世に起きたことと関係があるはずです。
臭いや人々のふるまいはあなたに対する警告です。
そこにた方々一人一人に、さっき舌を出したでしょうって聞いても。

そんな馬鹿なことするはずがないって否定するでしょうね。自分では

覚えておらないと思います。そういうことってあるんですよ」と言われました。

私が「前世って、どういうことがあったんでしょうか」と聞いても、

ただ首を振られ、「二度とあのホテルには入らないほうがいいですよ」と。
その後、先生とは何度も仕事でご一緒させていただきましたが、
私とあのホテルの場所との因縁についてはお教えしていただけないままなんです。

パワースポット

ある漫画家の先生と、北陸のほうにあるパワースポットの取材に行く予定に

なっていました。翌日、午後の飛行機で出発するため、部屋で準備をして

おりましたところ、めったに使うことがない、部屋の固定電話が鳴ったんです。

これで連絡をしてくるのは実家の家族くらいのものですので、

いぶかしみながら受話器をとりました。そしたら相手は、

それまでお聞きしたことのない神社の宮司であると名のられたんです。

それはどうやら私が行くことになっている県にある神社のようでした。
こんな内容だったんです。
「あなたがこの県に来られることをご神託で知った。
しかもあのスポットに行くという話じゃないか。とんでもないことだ、
ぜひやめていただきたい。別に取材が悪いというわけではない。

あなたと場所の相性がとてもよくないんだ。
別の人に来られるのなら宣伝にもなるしまったくかまわないんだが、
あなただけはダメだ。もしそこに足を踏み入れられたら、

当地ではこの先何年も不都合が起きる。あなたの会社にも連絡を

入れてあるから、そっちからもすぐ連絡が来るはずです」

その剣幕に圧倒されてしまい、これだけ聞いてみたんです。
「私のこの番号は編集部から聞かれたのですか?」

「それもご神託に出てきた」電話は切れてしまいました。その後、編集部から、

「おかしな苦情があったので、急遽行く人を変えることになった。

わけがわからんだろうが、向こうの有力な神社からの話で

どうしようもない、スマン」こんな指示を受けたんですよ。


綿アメ
各地のお祭りの取材も夏場はけっこうあります。
私はお祭りは大好きなんですが、一つだけなぜか苦手なものがあって、
それが綿アメだったんです。いえ、味や食感が嫌いというわけではないです。
食べたことがなかったですから。ええ、見るだけでもダメでした。

震えが止まらなくなり、動悸が激しくなって、しゃがみ込んで

しまいそうになるんです。われながら不思議だと思ってましたが、どうにも

なりませんでした。ですからお祭りに行っても、ちらとでも綿アメの屋台や、
食べている子どもが見えると、目を伏せるようにしていたんです。

それでこの夏、最初にお話しした霊能者の先生と四国のお祭りを

取材に行ったとき、その話をしてみたんです。そしたら先生は、

「確かに不思議ですねえ。少し見てみましょうか」
 

そうおっしゃって、賑わっている神社の境内から外れた暗い杜のほうに

連れて行かれました。ご神木の間に入って、目をつむるように指示され、

「今、環境を整えますから自分で見てごらんなさい」と言われました。
目をつむると、横で先生がなにやら呪文のようなものを静かに唱え始めました。
数秒して、閉じたまぶたの裏に映像が浮かんできたんです。
小学校入学前くらいの女の子でした。赤い顔をして布団に寝かせられていて、
病気なのだと思いました。女の子は荒い息をしていて、

布団の横にお医者さんらしき白衣の人がいて、首を振りながら家族に

何か話しているようでした。女の子の枕元に、たたんだ浴衣と、

綿アメの袋がありました。その様子を見ているうちに、

ああ、この子は亡くなったんだな、とわかったんです。


パンと拍手の音が聞こえ、目を開けると先生がにっこりほほえんで、
私の目の前に袋から出した綿アメを差し出したんです。
「怖いですか?」先生が尋ねられましたが、ふだんあれほど怖かったのが、

そのときはまったく怖くなかったのです。むしろ欲しい、

食べたいと思ったんです。「いいえ、怖くないです」と答えると、「やはりこれも

前世にかかわることですね。理由もなく怖い、嫌いだと感じるものがある方は、

前世からの影響を受けていることが多いのです。目を閉じている間、

何を見ましたか?」こう聞かれましたので、見たことをそのまま話しました。

先生は「なるほど」とうなずかれ、「もう怖くはないでしょう。反転しましたから。
さあ食べてあげなさい。それが供養になるはずです」そうおっしゃって、
私に綿アメを手渡してよこされたんです。
 

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