変な題名だと思われるでしょうが、今回はこれでいきます。
よくあるパターンとしては3つほど考えられるでしょうか。
一つめは「語ったものが死んでしまう話」ですね。とてつもなく怖い話、
あるいはさし障りのある話があって、それを語ろうとした者は、
どうしても最後まで話せず、病気などの原因で死に至るというもの。
これで有名なのは「田中河内介の最期」です。

「大正初期、東京の京橋に「画博堂」という書画屋があり、
3階は怪談が好きな連中のたまり場になっていた。
ある日、そこに見知らぬ男がやってきて、
「田中河内介の話」をしたいと言う。田中河内介は明治維新の尊皇志士。

男は、「田中河内介が寺田屋事件の後どうなってしまったかということは、
話せばよくない事がその身に降りかかってくると言われ、誰もその話をしない。
知っている人はその名前さえ口外しないほどだ。そんなわけで、
本当のことを知っている人が、だんだん少なくなってしまって、
自分がとうとう最後の一人になってしまったから話しておきたい」と言う。

大久保利通
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大半の人々が面白がってうながすので、その男が話を始めた。
前置きを言って、いよいよ本題にはいるかと思うと、
話はいつのまにかまた前置きへもどってしまう。
男の話は要領をえず、同じことを何度もくり返しているので、

みな飽きて一人立ち二人立ちとその場を離れ、階下に降りてきて、
あの男どうかしてるんじゃないかと笑っていると、あわただしく人が
下りてきて、誰もまわりにいなくなったその部屋で、前の小机に
うつぶせになったまま、あの男が死んでしまったと言った。」

これは、国文学者の池田彌三郎氏が書いた『日本の幽霊』に載っている
内容で、池田氏の父親の実体験なんだそうです。田中河内介はもちろん
実在の人物で、明治天皇が4歳になるまで教育係を務め、大変
慕われていました。その後、河内介は京都で勤王活動に奔走するんですが、

寺田屋騒動に関連して薩摩藩に拉致され、船中で斬られて、遺体は
海に捨てられます。しかし薩摩藩では、後に無関係の河内介を
殺したことを後悔するようになります。明治維新が成った後、
明治天皇は昔の養育係を思い出し、「田中河内介はいかがいたしたか」
と臣下に尋ねられ、誰も答えられないでいると、田中と親交のあった者が

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進み出て「ここにおられる○○君等が指図して、薩摩へ護送の際に斬られ、
船中において非業の死を遂げました」と答え、その場にいた○○は赤面して
顔を上げることができなかった・・・一説には、この○○は大久保利通だった
ともされます。天皇も、ことの影響を考えて、公の席では2度とこれに
触れようとしませんでした。

つまり、河内介の最期は薩摩藩内では、すでにタブーに近いものに
なっていたのですが、さらに明治天皇と、当時の最高権力者の一人であった
大久保利通がからんできて、もはや完全に触れてはならない話題に
なってしまったわけですね。これらのことから、
上記の引用のような話ができたのかもしれません。

さて、二つめは「有名なのに誰も知らない話」です。
『牛の首』という題で、小松左京氏が書いています。「牛の首」という
とてつもなく怖い話があるという噂を聞いたある男が、内容を知っていそうな
人にかったぱしから聞いて回っても、みな、「恐ろしい」 「聞かないほうがいい」
「他の人に聞いてくれ」と言葉を濁してしまう。

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男はここで不審を抱き、じつはこの話は誰も知らないんじゃないかと考える。
男はあちこちに取材して、その話に最も詳しいだろう人物との
面会の約束を取りつける。しかし、男がその人物の元に行ってみると、
その人物は海外に出かけてしまっていた・・・

実は、この「牛の首」という怪談話は実際には存在しておらず、
「その話を聞いた者は、恐ろしさのあまり死んでしまう」
という情報が人々の好奇心をかき立て、その題名だけが広まってしまった・・・
ということなんですね。これと同じタイプのものには、掲示板「2ちゃんねる」
で有名になった「鮫島事件」があります。

さてさて、三つめは「聞いたものが呪われる、祟られる、死んでしまう話」です。
これは怪談としては定番で、「カシマさん」なんかもそうですね。
話を聞いてしまった人のもとに、3日以内の夜にカシマさんが現れる。
そこでカシマさんの質問に対して、呪いを避ける言葉を返せればいいが、
そうでないと命を取られてしまう・・・

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実話怪談でも、このタイプは紹介しきれないほどたくさん書かれていて、
「これを聞いた人は呪われるんだよ」と一番最後に知らされます。
ちょっと変わったバリエーションとしては、作家で詩人の
西條八十が1919年に発表した詩集、『砂金』に収録されている
「トミノの地獄」。黙読なら大丈夫なんですが、

これを声に出して読むと、不幸がおきる、また最悪死ぬといわれて
るんです。詩人の寺山修司は、この「トミノの地獄」を口に出して、
しばらくしてから亡くなったというエピソードがつけ加えられたりもします。
「トミノの地獄」はかなり長い詩なので、ここに引用はしませんが、
興味のある方は検索してみてください。では、このへんで。