今回はこのお題でいきます。自分の本業は占星術師ですので、
(実際は、それ以外の収入のほうが多いんですが)これは、
自分の職業に深く関わった内容ということになります。さて、みなさんは、
運命というものについて、どのようにお考えになるでしょうか?

「運命論 fatalism」は「宿命論」とも言います。また、「決定論」とも
かなりの部分で重なっているんですが、微妙な違いもあります。
ここでは、それについて詳しくは触れませんが、どちらかというと、
運命論はギリシア・ローマ哲学的、決定論のほうは
キリスト教神学的な内容を多く含んでいるように思います。

運命論を簡単に言うと、「未来のことはすべてあらかじめ決まっていて、
人間の力ではどうやっても変えることができないものだ」
こんな感じになります。これ、じつは、
人間にとってかなり厳しい考え方なんですよね。

 



例えば、みなさんが生まれたとき(あるいは生まれる前)から、
何年後の何月何日に死ぬかは決まっている。幸福になるか、不幸になるか、
それもすでに決まっている。そして、不幸になる運命ならば、
どうあがいたところで、それを変えることはできない。
つまり、運命論は、人間の自助努力の完全な否定ということになります。

運命について、ローマの哲学者キケロは、こんなことを書いています。
「友人が病気になり、医者を呼んでくれと言ったので、私はこう答えた。
君が助かる運命なら、私が医者を呼ばなくても助かるだろうし、君が死ぬ

運命なら、医者を呼んでも死ぬだろう。だから、私は医者を呼ばない。」

マルクス・トゥッリウス・キケロ


ここまで読まれて、「何か変だな?」と思われませんか。
もし、すべてのことが運命で決まっているのなら、友人が病気になったとき、
キケロしかそばにおらず、医者を呼んでくれないのも、また、
あらかじめ決まった運命だったということになるんじゃないでしょうか。

さて、ネットの占いブログなどを覗いていると、じつに様々なものがあります。
それらを分類してみると、以下のような感じになるように思います。
「非運命論的な立場」
① 未来はまったく決まっていない。自分で好きなように変えることができる。
② 運命はある程度まで決まっているが、
  特別な行為をすることで変えることができる。


パワーストーン


①の立場はそんなに多くはありません。②はかなり多いですね。
例えば、開運グッズやパワーストーンなどを売っているところは②の考え方です。
また、自己啓発セミナーなんかもそうですよね。自分をよりよく変えることで、
より輝かしい未来を引き寄せることができるという。

次に、「運命論的な立場」を見てみましょう。
③ 運命はどうやっても変えることはできない。
   それは人間の限界を越えたことだ。
④ 運命は変えることはできないが、未来を覗き見ることはできる。


アガスティアの葉


③は、「因果応報」を説く、輪廻のある宗教なんかがこの立場です。
前世で悪いことをしたせいで、今、その罰を受けて貧しく悲惨な暮らしを
しているのだ、みたいな感じ。ただ、それだと、前世で悪いことをしたのも、
運命で決まってたことなんじゃないの、とツッコミを入れたくなりますよね。
この、永遠に続く輪廻の鎖から解き放たれようと考えたのが、お釈迦様です。

④は、例えば、「アガスティアの葉」なんかがそうですね。
オカルト好きの方はご存知でしょうが、いちおう説明すると、
紀元前3000年頃に実在したとされる、インドの聖者アガスティアの
残した予言を伝えるとされる葉で、すべての個人の運命がそれに書いてあります。
みなさんがインド旅行をして、自分の運命が書いてある葉をもらうことができます。

あと、水晶占いをはじめ、昔は、占いの多くはそういうものでした。
ですが、将来に不幸が見えていて、それをどうやっても避けられないというのでは、
占う意味がないような気もします。ですから、最近は、
①②に比べて、③④の考え方はあまり人気がありません。



で、このごろは、また別の考え方が出てきました。これは前に何度か書きましたが、
量子力学における「多世界解釈」を援用したものです。
つまり、みなさんが何かを選択したとき、世界はその可能性の数だけ分岐する。
この設定は映画なんかでも多いですよね。

例えば、あなたがAさんとBさん両方にプロポーズされていて、
迷いに迷ったあげくAさんのほうを選んだ。このときに、世界は2つに分かれます。
そしてあなたはAさんと結婚した世界に残り、別のあなたは別の世界で
Bさんと結婚生活を送っている、というわけです。

 

アガスティアの葉



そして、そのようなことは、選択の機会があるたびに発生します。
これは、一見して運命論ではないように思えますが、そうではなく、
あなたがAさんを選ぶのは運命として決まっていて、
だからこの世界にいるのだ、と解釈することもできます。
どちらかといえば、運命論に近いと考えられているんです。

さてさて、じゃあ、お前の占いはどうなんだ? と思われるでしょうが、
答えは、「職業上の秘密で、お教えすることはできません。」(笑)
ただ、上記の④に、きわめて近いものであることだけは書いておきましょう。
なんか舌足らずな内容になってしまいましたが、これは重要なことなので、
また触れる機会もあるでしょう。今回は、このへんで。

『ファイナルデスティネーション5』