bigbossmanです。今回はJRのある駅で、ホーム係から始めて40年近く、
最後は助役になって退職されたMさんからお話をうかがいました。
場所はいつもの大阪のホテルのバーです。
「あ、どうもこのたびはインタビューをお引き受けくださって、
ありがとうございます。もうご退職されたんですよね。現在はどう
されてるんですか?」 「再雇用の話もありましたが、お断りしまして、
今は家でのんびりしてます。貯金もいくらかはあるので、年金をもらう
までそれを取り崩しての生活です」 「悠々自適ですね」 「いやいや、
それほどのこともないんですが、私の場合、都内に親の土地がありましたので、
住宅ローンなんかも背負わずやってこれましたから」 「それは何よりで。
さっそくですが、駅で勤務されてて怖いことなどはありましたか」

「やはり飛び込みですね」 「ああ、そうでしょうね。いつ頃が多いん
ですか?」 「5月です。5月病というのと関係があるんだと思います。
でも、これもね、わかったのは長期の統計が出たからで、年間では
せいぜい1、2件あるかないかですよ」 「飛び込みがあると後処理が
大変でしょう」 「うーん、大きく分けて2つの場合があるんです。まず
最初に線路に飛び降りて、ややあって電車がきて轢かれたケース。この場合、
たいがいご遺体はバラバラになります。あの重い車輪に轢かれるわけですから。
もう一つは、空中で直接電車の車体にあたったケース、これだと大きく
跳ね飛ばされることになります」 「ははあ」 「その場合は意外に損傷は
大きくないんですが、10m以上も離れた売店にご遺体が飛び込んだり、
ホームにいた他のお客さんを直撃して怪我をされたこともありますよ」

「巻き添えですか」 「そうです。運が悪いですよね。避けようがないから。
でね、駅には飲料などの自販機がありますでしょう。あれって、必ず
取り出し口にはカバーがついてるんです。今度見てみてください。それで
ご遺体の一部が飛び込んだりするのを防いでるわけです」 「うわあ」
「それとね、電車が間近まできたときに飛び込むと、空中で運転士と
目が合うって言いますね。これから自分がぶつかる電車をどうしても見て
しまうんでしょう。運転士からすればたまったもんじゃないし、それで
ノイローゼになった者もいます。それと、ひどい場合はガラスを割って
運転席に突っ込んだり」 「大変ですね。ところで、自分は怖い話の
ブログを書いてるんですが、駅で幽霊などの話はありますか」
「うーん、じつはないこともないんですが、駅名などは出さないで

もらえますか」 「もちろんです」 「・・・電車がホームに入った後の、
足もとの隙間ってあるでしょう」 「ああ電車とホームの間の。10cm
もないですよね」 「ええ・・・ごくたまに、あそこに人の顔があったって
言う人がいるんです。でもね、電車がきてるのに人なんかいるはずがない」
「そうですよね」 「何かの見間違いだと思うんですが、そうとばかりも
思えないケースもあって」 「どういう」 「その見たって人はベルギーから
来たカトリックの神父さんだったんです。日本に来て20年以上、日本語は
ペラペラでした。そんな人が嘘を言うとも思えないし」 「どんな顔だった
んですか」 「その人が言うには、30代くらいの女性だった
んだそうです。真っ青な顔をして、上を向いて睨んでたと」 「それ、
心あたりはありますか」 「それがね、その2ヶ月前に飛び込んだ人が、

その年代の女性だったんです。そのときちらっと、その女性のことが頭を
よぎりました。でも、そんなことがあるはずはないとも思いましたが」 
「うーん、何だったんでしょう」 「わかりませんね」 「他には?」
「さっき、電車にあたって跳ね飛ばされる人がいるって言ったでしょう」 
「はい」 「あれは朝7時過ぎだったかな。通勤のサラリーマンが飛び込んだ
んですが、ドンというすごい音がするんです。みながそっちに気をとられて
たんですが、ホームに背中を押さえてうめいてる人がいたんです。
「それは?」 「立ち食いそばを食べてたんですが、その人の背中に
シャープペンシルが深々と突き立っていたんですよ」 「う」
「おそらくサラリーマンが飛び込んだときに、そのペンも跳ね飛ばされた
んでしょう。胸ポケットとかに入れてたのが」 「・・・災難ですね」

「ええ。でね、そういう自殺者って、家を出るときから覚悟を決めてたケースは
多くないんじゃないかって思うんです。多くは駅のホームに来てから衝動的に
自殺を思い立った」 「はい」 「だからね、ふっと、駅には人を自殺に
誘うような何かがいるのかもしれない、って考えたこともあるんです。ひところ、
青いライトが自殺防止に効果があるなんて言われたりもしたんですが、はっきり
した結論は出てません。まあ、ホームドアが普及するしかないんでしょう」 
「他には?」 「そうですね。よく、線路に飛び込んだ人がたしかに
いたのに、事故が起きた様子がなかったって話があるでしょう」 「はい」
「あれはたいがい、飛び込んだものの怖くなって、電車が来る前に反対側の
ホームとかに逃げちゃったんだと思います」 「まあ、そうでしょうね」
「そういうのが怪談として語られたりするんですよ」

「他には?」 「そうですね。あとは電車内のアナウンスですね。飛び込みが
あると、アナウンスで、ただ今、人身事故のために遅れが出ていますって
言うでしょう。これは聞いた話なんですが、南関東の私鉄で、アナウンスの後に
ガガガッと放送に雑音が入って、それから死にたくない!って絶叫が入ったんだ
そうです」 「それは飛び込んだ人の?」 「わかりません。まあどこまで
本当なのかも」 「他には何かありましたか」 「電車内の忘れ物で、位牌や
骨壺なんてことがあって、よく話題になりました」 「ああ」 「ほとんどは
すぐに遺失者が名乗り出てくるんですが、一度、不思議な忘れ物があったんです」
「それは?」 「縦笛ですよ。クラリネットみたいな形の。白い色をした笛が
5本ほど、まとまってふろしきに包まれてました」 「何でしょう」 「そのときは
わかりませんでした。でね、忘れものは駅で保管しておくんですが、その期間は
 
駅の規模によって違います。私らの駅では半年間でした。普通はそれを過ぎたら
廃棄されるんですが、そのときは、万が一貴重なものだったときのことを考えて、
遺失物保管室のロッカーに半年を過ぎても入れてました。でね、それがあった
期間内に、ほぼ月一人のペースで飛び込み自殺があったんです。普通は、年に
1回あるかないかなのに。それとね、これは見たものがいるんですが、夜、
終電後に消灯をすると、それが入ってるロッカーがぼうっと青白く光ることに
気がついたんです」 「それで」 「当時の駅長が気味悪がりまして、博物館に
持っていって分析させたんだそうです。そしたら、笛は人間の大腿骨でできた
骨笛だということがわかったんです。おそらくチベットあたりで作られたのだろう
ということも。ただ、何の目的で使用するのか、誰が作らせたのかは、持ち主が
名乗り出てこなかったので、それは結局わからなかったんですよ」

「それで、どうしたんですか?」 「持ち主が出てきたら返還するという条件で

その博物館に無料で寄贈したんだそうです。もし廃棄して祟りとかがあったら
怖いですからね。で、それから何十年かたっても、未だに持ち主は不明で、今も
まだそこの博物館にあると思います」 「うーん、それも不思議な話ですね。
他には?」 「まあ、これくらいです。ただ・・・これは怖い話とは言えない
かもしれませんが、駅で勤務しているとなんとなく普段の生活がせっかちなりがち
なんです。毎日通勤ラッシュを見ているせいかもしれません。だからね、家庭内が

不和になって、離婚したりする駅員は多いんです。まあ、それくらいですね」
「なるほどねえ、時間にも几帳面になるでしょうからね」 「ええ」
「いや、今晩は貴重なお話ありがとうございました。飛び込み自殺についての
知識が深まりましたよ」 「お役にたって何よりです」