じゃ、次は俺の番だな。いや、そんなに怖い話じゃないかもしんない。
どっちかというと変な話だな。あと、詳しいことは聞かないでくれ。
あんまり人に誇れるような世渡りはしてないんでね。
えー、2ヶ月前のことだ、ある駅の南口のロッカー前にいた。
取引でよく使うんだよ、駅とか公共施設のロッカー。
鍵はあらかじめ預かってた。とくに ここの南口のロッカースペースは
広いし奥まって陰になる部分があって重宝なんだ。
時間は夕方の7時過ぎだったな。そのあたりから俺は仕事が始まる。
鍵についている番号札でロッカーを探して、えーたしか、
上から3段目で腰のあたりの位置だった。開けて手を突っ込んでみて驚いたよ。
バッグが手にふれるはずなんだが、何もないんだ。バッグどころか、


ロッカーの底に手がつかない。側面もなくて、宙に手を伸ばしてる感じ。
変だと思って、腰をかがめてのぞきこんでさらに驚いた。
部屋なんだよ。たぶん高級なマンションのダイニングだと思った。
花を飾ったテーブルにこじゃれた食器があって晩飯の最中。
テーブルにいたのは4人だったな。
40代くらいの父親とそれよりだいぶ若い母親・・・男女の子供が二人。
いや、すぐ近くに見えるんじゃなくて3mは離れてたと思う。
で、父親が立ち上がり、こっち見て何かわめき始めた。
俺のほうを指さして。母親と中学生に見える娘が叫び声を上げて、
部屋のドアのほうに走って逃げた。出て行くのかと思ったら、
ドアの前で重なるように縮こまってこっち見てるんだよ。


あと、弟の小学校高学年くらいのガキが、ソファの上から何かを取り上げて
こっちに向けた。小さくシャッター音が聞こえた。
生意気にもスマホで俺の写真を撮りやがったんだ。
写真はマズイ、その思いが頭をかすめてロッカーの扉を閉めた。
その後・・・おそるおそるもう一度開けてみると、
中はただのロッカーで、ブツが、ああいや、バッグがちゃんと入ってた。
変な話だろ。だけどよ、俺にゃ何となく想像はつくんだよ。
こう見えても若い頃SFが好きでよく読んでたんだ。だから、

理屈はわからねえが、あのロッカー別の空間につながってたんじゃないか

って思うんだよ。・・・俺はこう見えても大学出てるんだからな。

だから、あのロッカーが時空の歪みかなんかの影響で、
たまたまあの家族の部屋とつながっちまったんじゃないかと思ってる。

でよ、しばらくして仕事仲間から変なことを言われた。
「おまえの顔、今ネットで有名になってる心霊写真に似てる」って。
さっそく検索してみたよ。画像はすぐに見つかって・・・
マンションのダイニングの食器棚と大型冷蔵庫の間の隙間に、
ぼうっと透けた顔が浮き出てる。典型的な心霊写真なんだが、
間違いなく俺の顔だった。あのクソガキがアップしたとしか考えられねえ・・・
マズイんだよこういうの、顔は見せられねえんだって!

『ゴルコンダ』ルネ・マグリット