自分の部屋で高校受験の勉強をしてたんですよ。
そのときは数学の問題集をやっていました。図形分野です。
円周角の角度を求める問題で、わりとすらすらできてたのに、
一つの問題でひっかかってしまいました。それはステップ2の最後のやつで、
そんなに難易度は高いはずじゃなかったのに。イラッときました。
自分は数学が得意というか、文系の教科があんまり得意じゃないんで、
ここで点数を稼がなくちゃならないんです。
図形の問題というのは、図の中に補助線を引けば解けるものが多いですよね。
これもそういう問題だと思ったんですが、どう引いてもうまくいかない。
それで計算用紙に拡大して問題を書き写し、じっくりかかることにしました。
ところがわからなかったんです。考えているうちに何十分もたってしまいました。


本来なら5分くらいしかかけちゃいけない問題のはずなのに。
答えを見ちゃおうかな、と思いましたが、
そのとき紙を折ってみたらどうだろうとひらめいたんです。
・・・このあたりからもうおかしくなっていたんだと思います。
何かに操られていたというか。問題用紙を折って考えないと、
解けない図形の問題なんてあるはずがないのに。ひらめきにしたがって

複雑な形に紙を折り、その上の点を結んで定規で線を引きました。
さらにそれを開くと、折って下になってた部分は線が消えてますよね。
そこを結んでみたんです。すると円の中に奇妙な五角形ができました。
あれこの形、変だなあ、見てると目がくらくらする・・・と思ったとき、
温泉の臭いが強くしました。硫黄の臭いということですね。

イスの背中の後ろに何かがいる気配がしました。
温泉と動物園の混じった臭いがする何かが。
背筋が冷たくなりました。とてもよくないものだということが
すぐにわかったんです。怖ろしさに体が震えました。
震えた右ヒジが夜食を入れていたお盆にあたり、ココアのカップが倒れました。
ココアは図形を書いた紙の上に集中的にかかり、図形が読めなくなりました。
背後で「チッ」と舌打ちの音が聞こえたと思ったら、
「バキッ」という音が響き、右腕に激痛が走りました。
「あいててて」と声をあげながら体をよじって後ろを見ました。
そこには何もいませんでしたが、
イスの真後ろの床が、少しだけ焼け焦げたように黒くなっていました。


腕は強烈な痛みでしたが、左手を使って、
ココアのかかった計算用紙を丸めゴミ箱に捨てました。
そのあと下に降りていって、親に腕を痛めたことを知らせました。
救急病院でレントゲンを撮ると、ぽっきりと上腕骨が折れていました。
その場でギブスで固めてもらい、明日詳しい検査をするということで

家に帰りました。その後は特に変なこともなかったんですが・・・
その数学の問題はもう一度やってみたら一瞬で解けましたよ。

『五芒陣』