友人から相談を受けました。なんでも彼氏をふくめた4人で心霊スポットに

行ったら、それ以来体の具合が悪くなったとのことでした。
それで大学でいつもオカルトチックなことを口走っている私のとこに
来たみたいなんです。そうとう体調を崩しているように見えました。
やれやれ心霊スポットなんて遊びがてらにいくもんじゃないのに、と思いながら、
目を半眼にし、体を斜めにして横目で彼女のほうを見ると、
方の後ろあたりに黒い影がうごめいていました。
ああやっぱりとり憑かれている、と思いました。しかも私がときおり

目にするものより、どす黒く禍々しい感じのする影だったのです。
これはかなりたちの悪いものだと思い、普段から懇意にしていただいている
霊能者の先生の元に連れて行くことにしました。

先生に電話で連絡して事情を話し、予約をとってから彼女とともに

事務所を訪れました。霊視の部屋に彼女と入っていくと、

すでに束帯に着替えて先生が待っておられましたが、
彼女の姿を一目見て顔をしかめられました。
「これは・・・かなりのものをもってこられましたな。体調がお悪いでしょう」
先生と向き合う形でソファに座った彼女は、「はい、あのスポットに行ってから、

ずっと肩が重いし、朝も起きられなくなったんです。
無理に起きるとめまいと耳鳴りがするので、
それ以学校もバイトも休んでるんです」と答えました。
「そうでしょうな。これは・・・はっきり言って命にかかわります」
「ええっ、そんな困ります。なんとかできませんか、祓う方法ってないんですか」


「・・・あることはありますが、ひじょうに困難です。はたしてあなたが

耐えられるかどうか」 「でも、何もしないでいると死ぬかもしれないんでしょう。

何でもやります、どうか教えてください。お金もできるだけお支払いしますから」
彼女は必死になって声を張り上げました。
「いや・・・お金の問題ではないのです」先生が厳かな声で言われました。
「このタイプの浮遊霊に効果のある方法は一つだけです。
それは悪霊の嫌がることをあなたがするのです」
「霊の嫌がること・・・どんなことでしょうか」
「まずここの帰りがけに、洋裁店にでも寄って赤い布地を買ってください」
「布ですか」 「そうです。それで金太郎の腹掛けをつくってください。
ひし形になっていて首からぶら下げるようにする腹掛けですな。


◯に金の字は入れなくてもかまいません」 「それをどうするんです」
「あなたが着るんでよ。全裸になって腹掛けを身につけます。
そして両方の鼻の穴に万点棒を刺します。万点棒ってわかりますかな。
麻雀の点数を数える棒ですが、これはなければマッチ棒でもいいです。
そのかわり鼻の頭を赤く塗ってください」 「・・・それで」
「踊るんです。その姿でザルを持って、できるだけ滑稽な格好で20分ほど

踊る。そうすればあなたも恥ずかしいでしょうが、
霊のほうも恥ずかしくなってあなたから離れていくでしょう」
「どこでやるんです。自分の部屋でもかまいませんか」
「まさか。自分の部屋でやってどこが恥ずかしいんです。
できるだけ人の多いところでですよ。ううむ、この霊のタイプだと


日暮里駅前あたりがいいと思われます。どうですかできますか?」
彼女はしばらく絶句していましたが、「・・・できません」と答えました。
先生は「いや、ぜひやってください。でないと本当に命が危ないです」
「もっと、・・・まとも、ああいえ、他の方法はないんですか」
「他の方法は、ヘビに飲まれて半分溶けたカエルとか、赤子の逆さまつげとか、
とても入手の難しい材料が必要で、しかも確実に祓えるという保証はありません。
これが唯一と言っていい方法です」 「でも・・・でも、やっぱりできません」
「そうですか。でもよく考えてください。命には代えられませんから」代金は

必要ないと言われましたので、お礼を言って彼女と先生の事務所を後にしました。
別れ際に「さっきの方法、やってみれば」と言ったら、「バカ」と返されました。
それから彼女は大学には一度も出てこず、消息不明になってしまいました。