あの、中学2年生なんです。今年の学校祭のことだから9月の話です。
わたしたちの学校では、文化部以外の生徒はいろんな部門に
わかれて活動するんですけど、わたしと美佳と留衣は同じバレー部で、
しめし合わせて部門も古本バザーにしたんです。
やる前はわりとヒマかなと思ってたけど、はりきって声かけしたせいか、
予想よりたくさん本が集まったんです。生徒もそうだけど、
PTAと先生方がたくさん出してくれました。それで、計画では展示販売は
一つの教室だったんだけど、せっかく集まった本だから、積まないで
きれいに並べたいと思って、もう一室借りられないかって考えたんですけど、
両隣の教室も展示するものが決まってて、空けてもらえないんです。
でも、うちの学校は少子化で生徒が少なくなっていて、何の展示もない
教室がけっこうあったんです。だから3人で校内をぶらぶら見て回ってました。

2教室が続いて空いてるとこは見つかりませんでした。でも古本バザーを
やるのはB棟の2階で、その一番向かって右端の教室は空いてるみたいでした。
だから、そこの隣の教室でやる喫茶室とわたしたちの場所を代わってもらえば、
2教室でできるかなあと思ったんです。端の教室はもともと生徒が出入りする

とこじゃなく、運動部がもらってきたトロフィーで飾りきれないのをしまっておく

ような場所でした。学校祭の準備期間は、先生がたがやったんだと思うけど、

前後の出入り口に「立ち入り禁止」の札がかけられてて、
戸の前に机が置かれて入られないようになってました。
でも、もともとは普通教室だから、鍵はかけることができないんです。
美佳が、「ちょっと中見てみて、簡単に片付けられそうだったら、
ここ貸してもらうよう、先生に交渉してみようよ」こう言ったので、

机をどけて中に入ってみました。電気をつけたら、机やイスはいっさいなくて、
黒板と反対側の壁にケースがいくつもあって、そこにトロフィー類が
並べられてるだけでした。「チョーいいじゃない。この教室遊ばせておくの
もったいないよ。◯◯先生に話しにいこ」
留衣がそう言ったんですが、わたしはちょっと嫌な気がしました。
というのも、そこに入ったときすぐヒヤッとした感じがしたからです。
はい、霊感っていうのかな。そういうのがわりとあるほうみたいなんです。
子どもの頃からいろいろとあったんです。あ、それもよかったら後で話しますよ。
でも、美佳も留衣もまったく気にならないみたいだったから、
私も調子を合わせたんです。そうしてるときに、
急に私たちが机をよせた入り口から人が入ってきて、
「こら、あなたたち、ここ立ち入り禁止でしょ」って大声を出したんです。

そっちを見たら、☓☓先生だったんです。☓☓先生は40代くらいの女性で、
その年に赴任してきたばかりでしたが、生徒にはあまり好かれてませんでした。
口うるさいし、授業も、どのクラスでもあまりうまくいってなかったんです。
国語の先生でしたが、生徒に発表させず、先生が一方的にしゃべるばかりで、
飽きた子が居眠りしたり、ノートにイラストを書いたりするとすごく怒ったんです。
「あ、すみません。でも、私たち、ここ使えないかどうか見てたんです」
私がそう言い、2人もうなずきました。でも☓☓先生は、
「使えないところだから、立入禁止にしてるんでしょ。さあ、早く出なさい」
そう命令口調で強く言ったので、カチンときた留衣が、「でもここ、物の移動も
ないのにどうして使えないんですか?」と食い下がりました。☓☓先生は、
それには答えず「出ないなら、あんたたちの担当の先生に さぼってたって

報告するから」 さらに怒ったので、美佳が留衣の制服を引っぱって、
とりあえず出ようとしたんです。そのとき、窓の外で騒ぐ声が聞こえました。
B棟全体が学校の裏の通りに面していて、
その道でおそらく女子が大きな声で話しているようでした。
☓☓先生は声のする側の窓に近寄りカーテンを開けました。それから窓も開け、
「あんたたち何部? 何の部門? 大声で立ち話しないで早く帰りなさい!」
そう下に向かって怒鳴りました。私たちも窓に近づいていくと、たぶん
2年生の女子テニスの生徒が数人、自転車に乗ってこっちを見上げていました。
裏通りは人通りが少ないので、部活帰りの生徒が溜まって立ち話をしてるのは、
近所からの苦情もあり、前からやめるように注意されてたんです。5時半を
過ぎてたので、外は暗くなっていて あまりはっきりはわかりませんでしたが、

その子たちの一人がこちらを指差して何か言ってるようでした。
「そこで立ち話しないように言われてるでしょ。すぐ帰りなさい!」☓☓先生は
ますます怒って声を張り上げたので、その子たちはパーッと走り出しましたが、
そのうち何人かは、自転車に乗りながらまだこっちを指差していたんです。
☓☓先生は興奮した様子で窓とカーテンを閉め、
私たちはひとしきり怒られてから、自分たちの教室に戻ったんです。担当の
先生に2教室を使いたいということを話したら、はじめから1教室でやる計画だし、
端の部屋は使わないことにしてるので無理だけど、展示用の机を増やして
もらえるよう交渉すると言われ、それで納得してその日は終わったんです。翌日、
テニス部の子が寄ってきて、「きのうの帰り、B棟の端の教室に☓☓先生といた

でしょ」と聞いてきたので、「あのときわたしたちも怒られてたの」と答えたら、

「☓☓のやつウザいよね。・・・それより、☓☓の横に真っ赤な女が立ってたよね。
あれ何?」でも、何と言われても何のことかわかりませんでした。「赤い女って? 

赤い服を着た人ってこと?」  「うーんそうじゃなく、窓から見えた
上半身が、ライトで照らされたように赤いの。それが☓☓のすぐ横にいて、
それで怖くなっちゃって。みんな見たし、帰る途中ずっとその話してた」
でも、その場には☓☓先生とわたしたちしかいなかったのは確かだし・・・
怪談みたいなものだろうかとも思いましたが、そんな話は聞いたことがなかったん

です。ソフト部の子たちは、この話をあちこちでしたらしく、「☓☓先生が呪われ

てる」みたいな噂になって、わたしたちのところに戻ってきました。☓☓先生は、

学校祭では担当の部門がなかったみたいで、あちこち回って歩き、生徒を

見とがめては怒ってばかりいたので、その腹いせもあるのかと思っていました。

それで、いよいよ明日が学校祭という前の日、集まってきた古本を人気や
本の痛み具合などで分け、きれいに並べて値札をつけたりしていたので、
かなり遅くなってしまいました。その日は「塾がある ごめんね」と言って
美佳は先に抜けたので、7時過ぎに、留衣といっしょに自転車で
帰ったんです。自転車小屋を出ると学校の裏の通りで、B棟が見えるんです。
私は前のことを思い出して校舎を見上げたら、端の教室にだけ明かりが
ついてました。留衣もそっちを見てて、「あれ、☓☓先生じゃない?」って
言いました。窓際に誰か人が立っていて、それは確かに☓☓先生に見えました。
「あの先生、呪われたんだよね」 「まさか、あのときわたしたち同じ教室に
いたじゃない」そのときです。☓☓先生の背後から何かが出てきました。
それはぼうっと赤く、ライトに照らされたように光っていたんです。

「あ、あ」女の人の輪郭のようでしたが、顔形はわかりませんでした。
☓☓先生はまったくそれの存在には気がついていないみたいでした。
赤いものは先生のすぐ隣にいましたが、だんだんに☓☓先生に重なるようにして、
先生自体が赤く光り始めたんです。「これ、ヤバイんじゃない?」 「帰ろ、
あっち回って帰ろ」遠回りでしたが、私たちは明るい通りに出て家に戻ったんです。
学校祭では、バザーにたくさん人が来てくれて本も予想以上に売れました。
お祭りが終わって学校は通常の授業に戻ったんですが、☓☓先生は前以上に
授業で怒るようになりました。それに比例するように、☓☓が呪われてる、
という噂も広まっていったんです。☓☓先生は学校をたびたび休むようになり、
ある日の授業で、居眠りしていた男子生徒を怒ったら反抗的な態度をとられ、
持っていた出席簿でその子の頭を叩いてケガをさせ、いろいろあって、
それから学校に来なくなってしまったんです。