この間、高校の同級生と飲む機会がありまして、そのときに聞いた話です。
ただしこれも、また聞きのまた聞きなので真偽のほどは保証しかねます。
自分は関東某県の出身なんですが、今は大阪在住で、
そいつらと飲むのはかなり久しぶりでした。その席で、「怖い話のブログ
やってるが、なかなかネタがなくて困ってる。怖い話知らんか?」
って話題を振ったら、みな「いい歳こいて何を・・・」って顔をしてましたが、
そのうちの一人、Kってやつが、「そんなに怖いわけでもないけどな、
俺の地元じゃたいがい知ってるんじゃないか」
そう言って聞かせてくれたものです。
ちなみに母校は県庁所在地にあり、Kは郡部から出てきて寮暮らしでした。
Kの地元の町には自分は行ったことがないんです。

Kが中学生のとき、夜に家族でテレビを見てたんだそうです。
ちょうど夏休みの時期で、心霊特集のような番組をやってたんですが、
どれも作りもの臭い写真や動画ばっかりで、
Kにはそういうことがあるとは思えませんでした。それで家族に、
「ねえ、こんなことって本当にあるのかなあ?」と疑問を発したんです。
そしたらKのじいさんが「うーん、死んでからのことはわからんが、
死ぬ前の夢ってのはあるらしいぞ」こう言ったんですが、
Kには意味がわかりませんでした。
「それまだ死なないうちの、危篤とか臨終って段階の話のこと?
だったらまだ死んでないんだから、夢を見るのも当然ありじゃないの?」
そしたらじいさんは「まあな、だけどそれが現実に起きたらどうする」

こうつけ加えました。ますます意味がわからなくなったKに
父親が助け舟を出して、「じいちゃんが言ってるのは、いわゆる
虫の知らせってやつのことだ。ほら、死ぬ間際で病院に寝たきりの人が、
親戚や友人など遠く離れた場所に姿を現して別れを告げるって話、
聞いたことないか?」 Kが、「ああ、それはある」と答えると、
父親は今度はじいさんに向かって、「早笑のじいさんの話だろ」って
言ったそうです。この「早笑」というのはその町の地区名で、
「さわらい」って読みます。そこに住んでいるじいさんってことですね。
当時から3年ほど前のことだったそうです。早笑のじいさんは80代後半でしたが、
長い間病気していて、市の病院で寝たきり。しかも容態が悪くなって、
今日明日かもしれないということで、家族や親戚が詰めかけていました。

それが、その早笑地区の氏神神社へ行く道で、
何人もの人がじいさんの姿を見かけたんです。
早笑のじいさんは帝国陸軍の軍服を着て、にっこにこ満面の笑顔で、
大きく手足を振り立てて、行進でもするかのように神社へ向かってたそうです。
このじいさんは、戦争で南方へ行ったそうなんですけど、
戦友がほとんど死んだ部隊から、奇跡的に生還してきたんです。
道端で農作業していた人たちが何人もその姿を目撃したんですが、
あまりの異様な様子と、あとは入院している事情を知っていたので、
誰も声をかけたりはしませんでした。ただ、一人物好きな若い衆が、
じいさんのあとをついていったんだそうです。この後は、その若い衆の話です。
じいさんは砂利道の参道までくると、急に四つん這いになり、

そのままの姿勢で、犬みたいに舌を出しながら鳥居をくぐり、拝殿の前まで
駆けていきました。若者の足でも追いつけないくらいの早さだったそうです。
で、拝殿の前へくると手水鉢のまわりを何度も回り、それから、
拝殿の鈴についた紐に飛びつくようにして、するするっと軒のあたりまで登り、
そこでぱっと消えました。若い衆が見ると、軒下には戦前に奉納された、
軍服姿の出生兵が描かれた絵馬が何枚も並んでいたんだそうです。この後は
お定まりの、じいさんがその後すぐ病院で亡くなったという知らせが届いた、
ってわけです。親戚や友人らの元へは現れなかったということでした。
おかしな行動ですが、じいさんはそういう末期の夢を見ていたんだろうって
話になったんです。この話が広まって、氏神神社の神主は得意そうな顔で、
葬式を出した寺の住職は苦い顔をしていたそうです。