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今回はこういうお題でいきます。さて、「観測」という語を

wikiで引いてみると、「自然現象を精密に観察・測定し、その変化や推移を

調べること」となっています。これだけでは、わかりにくいですね。

 

では次に、「測定」という語をWikiで引いてみると、「様々な対象の量を、
決められた一定の基準と比較し、数値と符号で表すことを指す。
人間の五感では、環境や体調、また錯視などによる不正確さから免れられず、
限界があるが、測定は機器を使うことでこれらの問題を克服し、
科学の基本となる現象の数値化を可能とする。」と出てきます。

 



かなり長い説明ですが、そのぶん正確だと思いますし、日常生活で
使うにはこれで十分でしょう。では、十分でないのはどういう場合かと
いうと、やはり量子力学における測定(観測)ということになります。
長くならないように、なるべく話を単純化して書いていきますので、
もし間違いがありましたら、コメントでご指摘いただけるとありがたいです。

思考実験として、ある1個の電子の位置を測定するとします。
ここで、電子はあらゆる位置にいる可能性があるんですが、
かりにA地点かB地点のどちらかで見つかるものとします。
量子力学では、あらかじめ電子がA、Bのどちらにいるかは、
確率的にしか言うことができません。
 

次に測定装置ですが、できるかぎり単純なものを考えます。
電子に光(光子)をあてると、雲のように広がっていた電子の存在確率は
一点に収縮します。その反射した光は光検知装置に入り、
光検出装置からは微弱な電流が流れますので、それを回路で増幅し、
ディスプレイにAまたはBの記号が表示されるようにします。

 

波の収縮のイメージ



みなさんはそれを読み取るわけですが、目で見たAの記号は、電気信号に
変えられて脳に入り、そこで意識が「ああ、電子はAにいたんだな」
と認識します。では、ここで問題です。電子の位置がAと確定したのは、
いったいどの瞬間なんでしょうか。まあ普通は、
「光が電子にあたった瞬間」と答えられる人が多いと思いますが、

光もやはり量子的な存在です。ですから、電子にあたる確率もあれば
あたらない確率もあり、はね返る確率も、はね返らない確率もあるわけです。
じゃあ、ディスプレイにAと表示された瞬間なんでしょうか。でも、
光検知装置も電流の増幅装置も、どちらも量子力学を応用してつくられていて、
光が検知されない確率も、電流が増幅されない確率も存在します。

もちろんこれは理論的な話で、装置の故障ということではありません。
次に、みなさんの体内では何が起こっているのか? 人間の目も一種の
測定装置であり、みなさんの意識に「電子の位置はA」と書き込まれる
までには、やはりさまざまな量子効果が働いているんです。

観測されたブラックホールの影
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結論としては、この一連の流れの中で、どの瞬間に電子の位置が
Aと確定したかは わかってはいないんです。ただし、大勢の人が同時に
観測して、「自分はAだと読み取った」 「自分はB」と意見が分かれることは
ないですよね。ですからまあ、大きな問題にはなりません。
でないと、人間は何もできないことになってしまいます。

上記のことを、「量子力学の観測問題 measurement problem」と言いますが、
日本では「解釈問題」という言葉が使われることも多いですね。
で、この解釈のしかたには、全部で5つの種類があると考えられています。
1つ目は、電子の波が収縮するように思えるのは、「その背後に
まだ明らかにされていない物理法則が隠されている」
というもの。

 

アルベルト・アインシュタイン



アインシュタインがこの立場でしたよね。「神はサイコロを振らない」
そう言って、量子力学の説く波の収縮には否定的でした。
一般相対性理論後のアインシュタインは生涯をかけてこの研究に没頭した
んですが、アインシュタインほどの天才でも、
わずかな手がかりすらつかめてはいないんです。

2つ目は、「測定装置のような大きなものには量子的な効果は働かない」
一見正論のように思えますが、これについても否定的な物理学者の
ほうが多いでしょう。この手の観測装置の細部は、それこそ量子的な原理で
動いてる部分が多いことを知っているからです。また、ミクロの現象が
マクロでは起きない、ということが証明されているわけでもありません。

フォン・ノイマン
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3つ目は、「人間の意識が認識した瞬間に測定結果が定まる」とするものです。
この立場を取るのは数学者のフォン・ノイマンなどで、過去には論争も
ありました。ただ、人間が介在していない場合でも波の収縮はあるんですね。
ですから、この考え方にも支持者は多くはありません。また、
ロジャー・ペンローズはこの考えを発展させ、「量子脳理論」を提唱しています。

4つ目は、「この世界はそうなっているのであり、測定値が決定する過程を
問うことは無意味である」
という立場。量子力学の創始者の一人である
ニールス・ボーアがこれでしたので、この考え方は「コペンハーゲン解釈」
と言われます。まあ、現実的ですよね。こうしないと研究を先に進める
ことができません。しかし、納得していない人は大勢います。

ニールス・ボーア
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5つ目は、「測定結果は確定しないが、人間は一つの測定結果をもたらす
世界しか認識できない」
これはご存知でしょう。ヒュー・エヴェレット3世が
唱えた「多世界解釈」です。電子存在確率の波はあいかわらず広がっているん
ですが、われわれはそれが一点に収縮した世界しか認識することができない。

つまり、あなたがA地点で電子を観測した世界、B地点で観測した世界、
C、D、E・・・と、確率がある分だけ世界は分岐し、それぞれの世界に

あなたがいる。この考え方は、多数のSF作家に大きなインスピレーションを与え、
ひところ「平行世界物」の作品が大流行しました。ただし、多世界解釈では、
分かれてしまった世界は、結果が同じになる場合をのぞいて
交わることはできません。

ヒュー・エヴェレット3世
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さてさて、だいぶ長くなってしまいました。もちろん結論の出ていない話なので、
一介の素人の自分が何かを言うのは無理なんですが、「お前はどう思うんだ」
と問い詰められたとしたら・・・多世界解釈を選びます。
世界が分岐するなんて、にわかには信じられない話ですが、
これが一番矛盾がなく、数学的にも自分は美しいと思うからです。

多世界解釈を使えば、さまざまな現象が、それほど無理をせずに
説明できてしまうんです。例えば、最初のほうで、あなたが
「電子はAにいる」と認識したとき、「いやBだ」という人がいないのは、
そこがあなたがAと観測して定まった世界だからです。

数学的に破綻がない理論というのは、いかにありえないような結果を
示唆していたとしても、結局は正しいことが多いんですね。身近なところでは、
この間その影が撮影されたブラックホールもそうでした。当初は、あくまで
アインシュタインの宇宙方程式式の解の一つであって、現実には
存在しないものと考えられていたんです。では、今回はこのへんで。



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