イコンにみる聖母マリアと幼子イエス


今回は、キリスト教の聖遺物の中でも特に有名な
「聖杯」のお話をしてみたいと思います。
ただし、聖杯の概念はものすごく混乱していて難しいので、
どれくらいのことが書けるか、あんまり自信はないです。

聖杯については、いちおう3つのとらえ方があると思います。
① イエス・キリストが、最後の晩餐において、使徒たちに、
「これは私の血である」と言って、ブドウ酒を回し飲みさせた杯。
② イエス・キリストが十字架に架けられた際、槍で突かれた
 体から流れ出た血を受けとめた杯。

①は、現在のキリスト教の儀式で、最も重要なものの一つである
「聖体拝受」のもとになった出来事です。ブドウ酒とともに、
イエス・キリストの体に見立てられたパンも食べるんですが、
これにより、死後の復活の保証を得ることができると考えられています。

聖体拝受


また、この①と②の杯は、同じものであるという説もあります。
③ 中世ヨーロッパにおける「聖杯伝説」に出てくる杯。
一説には、魔王サタンが天から堕ちたとき、その冠から巨大なエメラルドが
外れ、それを彫ってつくられた杯とも言われます。

①と②の場合、聖杯は英語で「Holy Chalice」ですが、
③は「Holy Grail」なので、両者は違うものであると考えたほうがよさそうです。
で、③については、あまりに荒唐無稽な内容になっているので、
本項では①②について考察していきたいと思います。

さて、まず、聖杯にはどんな力があるのか? これは、触れた者の病気を治し、
精神を癒やす働きがあると考えられています。さらに、聖杯が現れるときには、
音楽が鳴り、豪華な食事がその中から出てくるなどとも言われます。
ただ、この内容は、キリスト教の神の奇跡というより、
ケルト神話の魔法に近いのではないかと思われます。



次に、聖杯はどんな形をしているのか? 「Holy Chalice」で画像検索して
みると、上図のような、黄金製だったり、宝石を散りばめたりした
きわめて豪華な杯が出てきますが、これはちょっとありえないでしょう。
貧しい大工の家に生まれたイエス・キリストが、こんな高価なものを
使用していたとは考えにくいですよね。

おそらくもっと、質素でありふれたものだったのではないかと思います。
それと、日本語では「杯」と訳されていますが、
ワインを回し飲みしたことを考えれば、杯よりも容量の大きな、
ボウルのようなものだったのかもしれません。(下図)



あと、有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』で、
テーブルの上に聖杯が描かれていないか探してみましたが、
不鮮明で、はっきりとはわからないですね。ダ・ヴィンチの
『最後の晩餐』については、最後のほうでもう一度取りあげます。

次に、聖杯はどこにあるのか? これは様々な説があります。
イタリアのジェノバ大聖堂にあるもの、スペインのバレンシア大聖堂にあるもの、
アメリカのメトロポリタン美術館にあるもの、などがその候補とされますが、
まだ見つかっていないと考えたほうがロマンがありますよね。

さて、「聖杯」をテーマにしたフィクション作品はいろいろありますが、
有名なところでは『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』です。
これは、聖杯をめぐる冒険活劇でしたが、最終的にインディが見つけたのは、
下図のような地味な形のものでした。これなんかは、
けっこう自分のイメージとも重なっています。

名称未設定 1

あと、「聖杯は器物ではない」という解釈を示したのが、
世界的に大ヒットした、ダン・ブラウンの推理小説、
『ダ・ヴィンチ・コード』です。ここでは、キリストの血脈こそが聖杯であり、
その子孫は現代にまで続いているというのが結論でした。

独身であったと考えられるイエス・キリストですが、じつは、
イエスによって悪霊を追い出してもらい、以後イエスと共に旅をしたとされる、
マグダラのマリアという女性と婚姻関係にあり、
マリアはイエスの子を宿していてたと説明されます。

上で書いた、レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』で、
イエス・キリストの右隣にいる女性的な人物は、
普通は使徒ヨハネと解釈されますが、これがマグダラのマリアであり、
イエスとマリアの構図がV字型になっているのは、
マリアの子宮に子が宿っていることを暗示するのだそうです。

『最後の晩餐』(部分)V字型の構図


さてさて、ということで、伝説の聖杯について見てきましたが、
キリスト教関係の内容は難しいですね。もしかしたら、
自分が間違えている部分もあるかもしれません。
ということで、今回はこのへんで。