4月に新しくできたコンビニでバイトを始めた。
週に5日、午後10時から朝までの深夜担当で、のこりの2日は店長。
コンビニは国道沿いにあって、この時間帯は客も少なく、
せかせか働く必要はないし時給もいい。
昼夜逆転の生活になてしまうが、自分には合っていた。
6月頃になって店に誘蛾灯というのか、
あの紫外線で虫を誘ってバチッという電撃で殺す機械を取りつけた。
このチェーンでほとんどの店がつけているやつだ。
メーカーの人が来て、店の正面の左上あたりに設置していった。
ここらは郊外で虫は多いが、どのくらい効果があるかはよくわからなかった。
それから3日目ほどは特に何もなく、あの独特の音も、


店内にいれば気にならなかった。4日目・・・木曜日だったと思うけど、
深夜2時頃だな。そのときは客は一人もいなかったし、
仕入れの業者も来てなかった。売れ残ったおにぎりや弁当類を
整理していると、突然ドーンという音が外で聞こえた。
商品の棚がビリビリするようなすごい衝撃で、
何かが爆発したのだと思って、あわてて外に出てみた。
すると駐車場の端に人が倒れていたんだが、
ここからの話はたぶん信用してもらえないと思う。
その人は身長が3m以上はあって、烏帽子をつけ平安時代頃の
昔の着物を着ていた。男で仰向けに倒れていて、
ちょうど誘蛾灯の前のあたりだ。俺が驚いて入り口のところで


呆然と立っていたら、その人は倒れたまま目をしばたいていたが、
やがてむくっと起き上がった。烏帽子の先が店の屋根のずっと上に
出ていたんで、やはり普通の人間じゃないと思った。
その人はゆっくりと俺のほうに向きを変え、
俺のほうを指さして、すごい怒った目でにらみつけてきた。
そしてそのままにじむように消えた。
あまりのことに動けないでいたが、それでも何とか
その人が倒れていたところに行ってみた。何もなかった。
ただ四角い誘蛾灯の箱がひしゃげて、紫外線ランプが消えていた。
火が出ているとか特に危険な様子もなかったので電源を切り、店内に戻って
内部を確認した。一見変わった様子はなかったが仔細に調べると、


和菓子コーナーの「きんつば」だけが全部なくなっていた。
朝6時前に店長が来たので、昨夜あったことを説明した。
信じてもらえるとは思わなかったが、店長はけっこう真面目に聞いていて、
「実はこの店の土地を買ったとき、地元の人に、ここはある有名な神社と
この裏山の山頂にある社を結んだ直線上にあるから、
なにかさわりがあるかもしれないみたいなことを言われた」と話し、
「それとこのことと関係があるかどうかわからないけど、
とりあえず誘蛾灯は外すことにするよ」と続けた。
その日のうちに誘蛾灯は業者の手で外され、それ以来何も起きてはいない。
ただ毎晩店の外の誘蛾灯があった下に、
皿に入れた「きんつば」を一個お供えするようになった。


それはほとんどそのまま残っているが、月に2回ほどなくなっている
ことがあるな。子どものイタズラなのかもしれないけど。

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