今回はこういうお題でいきます。手は人間にとって、かかすことが
できない体の部分ですよね。それは、もし両手がなくなってしまったら
と考えてみればわかります。日常生活のほとんどのことに
不自由してしまうでしょう。

さて、手のオカルトとして最も有名なのは「栄光の手」
なんじゃないでしょうか。かの『ハリー・ポッター』シリーズでも、
ノクターン横丁の闇の魔法道具を売る店先に飾られていました。
栄光の手はまた、「輝きの手」とも言われます。

『ハリー・ポッター』シリーズに登場する「輝きの手」


これは西洋魔術のカテゴリに入る話です。そのつくり方には諸説ありますが、
基本的には、絞首刑にされてまだぶら下がっている罪人から
その右手を切り取らなくてはならないとされます。ヨーロッパ中世の魔導書には、
中に残っている血をすべて絞り出し、塩・唐辛子・胡椒・硝石・水の混合液の
入った壺に2週間ほど漬け込むなどの制作法が書かれています。

それからさらに乾燥させた手は、屍蝋化します。そして不思議な力を持つ
ようになるんですね。特に、泥棒にとっては必須のアイテムと言われます。
栄光の手を持って目的の家に侵入し、指先に火をつける。
すると、家の中の人々を一瞬にして眠りに落とす、
あるいは全身麻痺にさせることができるとされました。

イギリス、ダービシャー州カッスルトンで発見された「栄光の手」
ssssd (5)

実際に使用されたと言われる栄光の手が、何本か見つかっています。
ただこれ、語呂合わせからできたものだという説もあるんですね。
栄光の手は英語で「Hand of Glory」ですが、もともとの語源は、
フランス語の「main de gloire」。「マンドレイク」と言えば、
聞いたことがある方もおられるでしょう。

マンドレイクは実際にある植物で、古くから薬草として用いられましたが、
魔術や錬金術の原料として登場します。根茎が人の手足に見えるような形の
ものもあります。神経毒が根に含まれており、幻覚や幻聴を起こしたり、
死ぬ場合があるとも言われます。このマンドレイクが、フランスから
イギリスに伝わる過程で、栄光の手と誤解されて広まったのかもしれません。

魔導書に描かれた「栄光の手」
ssssd (6)

マンドレイクにも、絞首刑になった罪人の男性が、激痛から射精した精液が
落ちた地面から生まれるとういう、似たような点があります。
この栄光の手は、19世紀のヨーロッパで大流行した心霊主義の
降霊会でも使われていたという話がありますが、
貴重なものですので、毎回用意されていたというわけでもないようです。

ただ、降霊会において、参加者の手はきわめて重要視されました。
降霊会の参加者は、お互いに手を握り合わせることが多かったんですが、
これはパワーを高めるためと説明されました。また、霊媒師が
暗闇の中で手を使ってインチキしているのではないという
証明にもなっていたんです。

降霊会の様子
ssssd (2)

ただ、当時の霊媒師はみな初歩的な手品をこころえていました。
膝関節を鳴らして音を出したり、膝でテーブルを持ち上げたり、
糸を足先で操って楽器を動かし、音を出したり、
握っていた手を一瞬離して、自分の両隣の人が手を握り合うように
させるなどのテクニックを持っていたんですね。

もしかしたらそのとき、栄光の手のようなものが使用された可能性があります。
また、降霊会で出現した霊の手の型をロウでとったなんて話も
残っています。1919年、フランスの心霊研究家ギュスターブ・ジュレは、
ポーランドの物理霊媒、フラネク・クルスキーをパリの研究所に招き、
エクトプラズムの物質化現象の実験を行いました。

物質化しようとするエクトプラズムの手
ssssd (4)

当時の降霊会では、エクトプラズムを物質化させるのが流行していましたが、
人の全身が現れる場合はきわめて少なく、たいがいは顔や手足などの
身体の一部が現れることが多かったんです。そこで、溶融パラフィンロウを
円形の容器に入れ、その容器を温水の上に浮かべて溶かし、
型を取る方法を考案しました。

もし、普通の人間が薄いロウの手形を作ろうとすれば、握った手を開いたり
手を抜こうとするうちに破れてしまうはずである。
これがエクトプラズムであれば、手を抜くときに物質化を解除すれば、
薄いロウを破ることなく抜くことができると考えられたんですね。

そしてこの実験は成功し、手や足の型を取ることができたんです。
このときの手は「クルスキーの手型」と呼ばれて、エクトプラズムが実在する
証拠とされました。ただ、1997年になって、
イタリアの懐疑論者マッシモ・ポリドーロらが同様の実験で作製に成功し、
やはりトリックではなかったか、との声明を出しています。

「クルスキーの手型」
ssssd (3)

まあ、真相はわかりません。空中浮揚など、この心霊主義の時代におきた
数々の不可思議な出来事は、もはや検証が不可能で、
ただ逸話だけが残っている状態なんです。日本でも、これらのことを
スピリチュアリズムの歴史としてまとめているサイトがあります。

さてさて、手をあつかった短編ホラー小説として、イギリスの小説家
W・W・ジェイコブズの『猿の手』はあまりに有名ですよね。
一見みすぼらしい猿の前足のミイラですが、持ち主の願い事を三つ叶えて
くれるという魔力を持っています。それをゆずり受けた一家は
ささやかな額のお金を望むのですが・・・

筋を書かなくてもみなさんご存知でしょう。この猿の手なんかも、
ここまで書いてきた栄光の手のバリエーションなのかもしれません。
手のオカルトについて、指で結ぶ印の、西洋と東洋の違いなんて
話もしようと考えてたんですが、そこまでいきませんでした。
では、今回はこのへんで。

ssssd (1)