ココココ、中学校1年の頃の話だからもう30年以上前の夏のこと。
うちは裏庭が野菜の畑になってて、その前に鶏舎があったんだ。
これは養鶏とかじゃなくて、自分ちで食べる分の卵をとるために
飼ってるやつ。卵を産まなくなれば絞めて肉も食ってた。
その裏の畑沿いに砂利の道があって、そっちから学校に通うと
近かったし、友だちも裏口から遊びにくるやつのほうが多かった。
すごく暑い夏休み中の午後だったけど、その裏口のから、
「あーそぼ」って声がした。俺は居間で宿題やってたんで、
それが聞こえて、近所に住んでる武司ってやつだと思った。
裏口は鍵なんてかけてないし、毎日いろんな友だちが入れ替わり
来てたんだ。「ちょっと待って、今片づけて行くから」


勉強道具をしまって、パンツ一丁だったんで短パンをはいてたら、
「ちょっと大変だよお、◯◯(俺のこと)来ておくれよお」と、
ばあちゃんの声がした。ばあちゃんはそのとき畑の手入れをしてたんだな。
行ってみると鶏舎の網戸が半分開いていて、その前で
武司が四つん這いになってた。その横に、ばあちゃんが
困った顔で立ってた。羽根が散らばって、鶏たちが走り回ってたな。
「おい、どうしたん?」と声をかけたら、四つん這いのまま
武司がふりむいたが、口に雌鶏の首を咥えて、
あごや首、Tシャツの胸の前が血だらけになってた。
「おい、お前!」と叫ぶと、武司は鶏の首をポロリと落とし、
「鶏舎見てたら、ココココ、こいつ俺をバカにするようなこと


しゃべったから、首食いちぎってやった。コココこれでしゃべれないだろ」

こう言った。あまりのことに、言葉が出てこなかった。
武司は成績もよかったし、こんなことするなんて考えられなかった。
騒ぎを聞きつけたじいちゃんが家から出てきて武司の肩に手をおき、
「顔と手を洗おう」とやさしく声をかけて立たせた。
それから俺に向かって、「この子の家に電話をかけて
迎えにきてもらいなさい」と言った。
武司が風呂場で体を洗われてる間に連絡網を見て電話かけたら、
近くなのですぐ武司のじいさんが軽トラでやってきた。
それから夏休み中ずっと武司は町のお寺にあずけられていたらしい。
武司のうちで鶏を弁償したいみたいな話があったが、うちでは断った。


2学期が始まって武司は普通に学校に出てきたが、
寺ですっとお経を読まされたと言ってた。
鶏のことは言うなとじいちゃんに釘を刺されてたんで
触れなかったが、覚えている感じではなかったな。
武司は勉強も部活も夏休み前と変わらずやってたが、
それから半年くらい、話をするとき言葉の中に「ココココ」という音が
混じってた。これも本人は気づいてないみたいだった。
これも夏休み中の話。前の話より前のことで、小学校4年くらい
だったと思う。自分を入れて6人で河原で石投げをしてた。
学校の裏手にある幅は広いけど浅い川で、
河原からはときどき古墳時代のものと言われる土器のかけらが出た。


そこで水切り遊びをしてたんだ。ほら、平べったい形の石を
川面すれすれに投げて、何回水面でバウンドするかってやつ。
たしか3対3のチームにわかれて、点数もつけてた気がする。
1時間以上も飽きずに遊んでたら、川上から何か白っぽいものが
流れてきた。大きいもんじゃなくて・・・ミカン箱くらい。
近づいてきて何だかわかった。あの家の上のほうに祀ってある神棚なんだ。
それが横になったり傾いたりせずに、屋根を上に向けて直立したまま
流れてきたんだ。まあ、ガキだったから変だとも不敬だとも思わず、
「よし、あれに当てたら30点な」と誰かが言って。みなで石を投げ始めた。
水切りの石じゃなくて、もっと重みのある投げやすいやつ。
距離は30mくらいじゃなかったかと思うが、みなで投げても


なかなか当たらない。神棚の周りでポシャポシャ水しぶきが上がる
だけだったんだが、ちょうど目の前を通りすぎようとしたとき、
大きめの丸い石が放物線を描いて神棚の屋根に上からガッチンと
当たったんだ。すると、ポーンという感じで神棚がはじけたように見えた。
ミカンくらいの大きさのオレンジ色の玉が数十個、空中に飛び散ったんだよ。
それらはかなりの高さまで上がり、それから落ちてきたが、
みな水面に触れるとシュッと黒い煙を出して消えた。
神棚は傷つきもせず、そのままの形で下のほうまで流れて見えなくなった。
みなはあっけにとられて、水切り遊びをやめて河原から出たんだ。
何か言っちゃいけないことのような気がしたんで大人に言ったやつは
いなかったと思うが、俺らの間では、「あれなんだったんだろう?」


って話はしばらく出てたな。誰も説明できなかったけど。
で、今思えば、あの神棚に石を当てたのが武司だったんじゃ
ないかって気がするんだ。確証はないし、このことが中学生のときの
鶏のことと関係があるのかもよくわからない。
まあ、こんな話なんだよココココ。