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今回はこういうお題でいきます。仏教の話で、オカルト論ですね。
さて、殺生戒は正式には「不殺生戒」で、字のとおり生き物を
殺してはいけないという戒律です。仏教では五戒と言って、
在家信者が守らなくてはならない重要な戒律が5つあり、
そのうちの一つです。

ここで注意しなくてはならないのは、在家信者とあることです。
僧侶は当然ですが、一般の職業についている信者が守るべき
ものなんです。ちなみに五戒の残りは、不偸盗戒、不邪婬戒、
不妄語戒、不飲酒戒です。これら一つ一つについては、
今回はふれません。

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不殺生戒は、「生き物を故意に殺してはならない」です。故意で
なければしかたのないこともありますよね。例えば道を歩いていて
小さな虫を踏み殺してしまうなど。高徳の僧侶の中には、
それも避けようと弟子に自分の通る道を掃かせたという逸話も
ありますが、弟子が踏み殺してるんじゃないでしょうか。

ただ、不殺生は難しいですよね。完全な菜食主義になってしまいます。
そこで日本では、四足の動物以外の魚や鳥は食べられていました。
肉食でしか摂れない必須アミノ酸もありますし、いたしかた
ありません。で、これが厳密に守られていたかというとそうでもなく、

畜生道
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ウサギは「匹 ひき」と数えずに「羽 わ」としますが、これは
四足の動物ではないという方便なんです。また、鹿が紅葉、
猪が牡丹などの隠語を使って、けっこう食べられていました。
これらは害獣で、田畑を荒らしますからねえ。

さて、次は畜生道の話にうつります。仏教において、衆生がその業の
結果として輪廻転生する六つの世界である六道の一つです。
その中でも特に、地獄道、餓鬼道、畜生道を三悪趣と言います。
畜生道は、親が子を食べ、兄弟同士が交合する世界とされます。
で、上記の不殺生戒は畜生道と深い関係があるんです。

寒山拾得
キャプチャsssd

『沙石集』という仏教説話集があります。鎌倉時代に、無住道暁
という僧が編纂したもので、題名は「沙から金を、石から玉を引き出す」
つまり、日常的な瑣事から仏教の教義を説くといった意味です。
たしか全部で150くらいの話があったと思います。

その中にこういうのが出てきます。中国、唐の時代の僧である寒山
(かんざん)と拾得(じっとく)が、在家の金持ち信者から接待を
受けました。ところが、人々が酒を飲み肉を食べていると
2人はしきりに笑って料理に箸をつけようとしない。
そのため、饗応した主人は気分を害してしまった。

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後日、2人が師匠に説明するには、「彼らが食べていた肉は、
畜生道に落ちた親の肉であり、私たちはそれを知らず楽しんでいる
彼らを哀れんで泣いていたのだが、彼らの目には笑っているように
見えたのだろう」・・・こんな内容でした。あと、道教的な話に
変えられていますが、芥川龍之介が書いた『杜子春』では、

師の命令で言葉を発しない杜子春に怒った閻魔大王が、畜生道に
落ちた杜子春の両親を連れて来させると、彼の前で鬼たちに
めった打ちにさせ、杜子春はついに「お母さん」と言葉をもらして
しまいます。最後は師が、「あそこで言葉を出さなければ、私が
お前を殺していた」で終わります。

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また、上田秋成の『雨月物語』に、「夢応の鯉魚」という話があり、
興義という高僧がいて、鯉の絵を描くのが大変上手だった。
あるとき病気になり息絶えてしまったが、少しだけ体が温かかった。
そこで火葬せずそのままにしていると、3日たって生き返った。
そして「自分は鯉になって大きな池を自在に泳いでいたが、

漁師に釣り上げられてしまった。その漁師は檀家の平の助という
人に鯉を売り、膾に料理されてしまった。今、宴会をしてるだろうから
見てこい」と弟子に言った・・・出家した僧は本来、魚も
不殺生戒で食べることができず、精進料理が発達したわけです。
現在のお坊さんはどうでしょうか。

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さて、最後にオカルト話を。昔の見世物に「親の因果が子に
報い・・・」という口上があり、蛇捕りをしていた男に娘が
生まれたが、体に鱗のある蛇女になったなどの話が語られます。
親が犯した殺生の罪が、子どもにまで影響を与える。

で、これ、妖怪?の「牛女」と関係があるんです。件(くだん)
という妖怪は、体が牛で顔が人間、生まれ出ると人語を話し、
近い将来に起きる凶事を予言するとされました。その逆、
体が人間で頭が牛というのが牛女なんですが、太平洋戦争末期、
兵庫県、六甲山の近くで焼け跡をあさっているのが目撃された

これは牛女ではなく件 この話は現代の神戸ビーフまでつながってます
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という怪談があります。じつは差別に関わる内容で、あまり
取り上げにくいものなんですね。西宮にあった牛馬の屠殺業者
の家に牛頭の娘が生まれ、座敷牢に入れられていたが空襲で
逃げ出した。そういうたちの悪い噂に、件の予言の話が混ざって
できたものだろうと自分は推測しています。

さてさて、ということで、不殺生戒と畜生道の関係について
見てきました。このあたりのことは、現代の仏教僧では、
ただのお話としてしかとらえてない人が多いんですよね。
では、今回はこのへんで。