先々週の日曜のことだよ。男だけ3人でドライブに行ったんだ。
あ、気色悪い? そうじゃなくてよ、ダチの一人が車買ったんだ。
ランエボのファイナルエディションてやつ。わかるか?
ラリーで名を馳せた車なんだが、生産終了になる。もう造らないんだ。
それでそのダチが、男気の5年ローン組んで買ったんだよ。
それが届いたんで、乗せてもらおうと思ったわけ。
俺ら車好きだから、高速で運転代わったりもした。だからよ、
10時ころに出かけて、夜までの間の90%以上が運転だったんだ。
いや・・・車は確かに速かったけどよ。何ていうか、
高級感があって、昔のブン回すって感じにはなれなかったな。
高度なコンピュータ制御で曲がっていくんだよ。

ああ、車の話はもういいか。スマンな。
それで、昼飯時には高速を降りて、城址公園みたいなとこで
メシを食った。そこには神社もあって、皆でお参りしたんだよ。
いやほら、新車買ったダチが交通安全のお守りを買いたいって
言ったから。俺ら、そういうのはけっこう験をかつぐんだ。
だってよ、車の事故ってのは、いくら自分が気をつけてても、
もらうときはもらっちまうからな。でよ、3人でお御籤も引いた。
これは信じるとかいうより、賭けをしたんだ。
お御籤には末吉とか大吉ってのがあるだろ。
あれで、一番悪かったやつがみなの昼飯代を払うってことで。
えーと、籤はあのよくあるガラガラを使うやつだったな。
でよ、どういう結果が出たと思う?

まずランエボのオーナー、これが大凶。次俺が引いてやっぱ大凶 (笑)。
最後もう一人のダチが引いたら、これが変なのが出てきたんだ。
普通、お御籤ってのは最初に和歌が書いてあって、
その後に、金銭運とか恋愛運とか細かく書かれてるだろ。ところが、
あの折りたたんだ紙を開くと、ほとんど真っ白で、

ど真ん中に小さい活字で一文字だけ「空」って書いてあったんだよ。さあな、

なんて読むかわからんかった。「くう」 「そら」 「から」・・・ さすがに

「空(あ)き」じゃないよな。「から」かもしれないと俺は思ったが、わからん。
でよ、これが大凶より強いのか弱いのか判定ができないじゃないか。それで
神社の人に聞いてみたんだよ。「この、空ってのはどういうもんなんだ」って。
したら神主が紙を見て呆けたような顔をして、何も答えなかったんだ。

さらに強く聞くと、「これは何かの間違いで紛れ込んだものですから、
無料でいいですので、もう一回お引きください」ときた。
でな、引き直した結果、そのダチもやっぱ大凶だったんだ。
笑うだろ。全員が大凶で引き分けだったんで、割り勘で天そば食ったんだよ。
それからまた高速に乗って・・・来た道とは反対側のほうを帰ることにした。
でよ、あるインターが近くなったときに、「空」引いたやつが、
下に降りようって言い出した。近くだから「○○屋敷」に寄ろうって。
ああ、「〇〇屋敷」といってもわからんだろうな。
けっこう有名な廃墟スポットなんだよ。俺らは心霊系の話も好きで、
そこを取り上げたDVDを最近見たばっかだったんだ。
時間は5時近くなってたが、まだそんな暗くはなかった。

でな、下の県道に入って、20分も流すと、その○○屋敷が見えてきた。
これは廃墟といっても、大きな建物じゃなく民家なんだ。
藁葺ではないけど、でかい昔風の農家の平屋なんだ。
そこの住人の主婦が台所のガスコンロで焼身自殺したなんて話もある。
ああ、知ってるのかあんたら。なら話が早いわ。
松の木が繁った岡の中腹にでーんと建ってたんだよ。
むろんスポットに入る準備はしてきてなかったが、車の懐中電灯一本と、
スマホの明かりがあれば十分だろうと思った。そんな長居するつもりは
なかったんだ。ざっと中を見て回って、DVDと同じなのを確認するぐらい。
下の砂利道に車を置いて、少し上ると、腐れかけた生垣に出た。
その破れ目から庭に入ると、雑草がぼうぼうで、そん中に三輪車があったな。

まあね、不気味は不気味だったけど、ああいうコンビニ売りの
DVDとかって、内容はほとんどフカシだろ。嘘とかホラって意味。
縁側のサッシは、投石されたのかほとんど割れてて、
そっから廊下に入った。平屋だけど、10部屋近くあるんだよ。
映像で見た通りの仏間があって、位牌も遺影も残ってた。
あと、昭和40年代あたりまでの生活用品が散乱してた。
そこも有名な場所だから、いろんなやつが見にきてるんだろうけど、
ああいうのって、誰ももってかないし、あんまり散らかしたりしないんだよな。
まあ、金になるもんじゃねえから持ってくやつはいないか。
それとスプレー缶の落書きもほとんどなかった。
まあ工場跡とかじゃないから、広い平らな壁もないんだけど、

やっぱ、生活感が染みついてるんで、そういうのはためらわれるん
だろうな。俺もなんか、他人の家に土足で入り込んだような感じで、
落ち着かないのはそうだったよ。有名な台所も見入った。
確かにガスコンロが残ってて、周りと天井に焼け焦げの跡があった。
それ見たときはさすがにゾーッと背筋が寒くなったよ。
なあ、あれって本当の話なのか? あんたら知ってるんだろ。
え、ライターが書いた作り話だって・・・そうなんだろうなあ。
でもよ、オカルトっていうか、わけのわかんないことってのは
本当にあるんだよ。俺らこの後に体験したから・・・一通り見て回って、
もう戻ろうかってときに、台所に残ってたダチの一人、「空」のやつだよ、
が「うわっ」って声をあげて、床に片膝をついた。

床板が腐ってて、片足を踏み抜いたんだよ。
そのままぱたっと両手を前の床についたら、そこも板が3枚くらい、
一緒になってはがれた。つまりそいつの顔の前にぽっかり
穴が開いたんだ。「おい、大丈夫か?」って2人で駆け寄ったら、
そいつがえずき始めた。「おえっ、おえええっ」って。
両脇から立たせようとしたが、片足が腿まで落ちてるせいか、
うまくいかない。「げええええっ」ひときわ大きくえずいたとき、
そいつの口から何かが出てきたんだ。うっすらと光る桃色の・・・
最初は蛇かと思ったがそうじゃない。何と言えばわかりやすいか・・・
そいつの体が大きいピンクの絵具のチューブで、
にゅるにゅるって絵具が口からしぼりだされるような感じで。

そのピンクのは、全部開いた穴から床下に落ちていった。俺ともう一人の
ダチが穴を覗き込むと、暗い中に、黒光りのするヒルみたいな虫が、
うじゃうじゃと玉になってたんだ。そうだな1匹が3cmくらいか、
そういうのが何万もいた。で、ダチの口から落ちてくるピンクのものに
群がって、たぶん食ってたんだ。信じられねえ気色悪さだった。
俺が足で床板をガンガン踏んで、ダチが落ちてる穴を広げた。
ケするかもしれなかったが、そんなこと言ってられなかった。
両脇からダチを抱え上げて、車まで走ったんだよ。
すごく体が軽く感じられたが、これは2人で担いだせいかもしれねえ。
ダチは担がれながらもピンクのものを吐いてたよ。それは草の上に
落ちると消えたから、実体のあるもんじゃなかったみたいだ。

そのまま近くの総合病院の救急外来に運び込んだんだが、
原因不明の体調不良・・・食事ができないのと低体温で今も入院中だ。
見舞いにいっても口がきけないし、俺が誰だかもわからないみたいだった。
で・・・おとといのことだよ。家の便所で小便してたら、
小の便器の底に、廃墟の床下で見た黒いヒル?がいたように思えた。
それはするするっと小穴にもぐり込んでったみたいだったが、
見間違いかもしれないとうか、見間違いであってほしいよ。・・・この一連の
出来事で何が悪かったのか、俺なりに考えてみた。やっぱ、安易な
気持ちで心霊スポットとかに行ったのがいけなかったんだろううが、
あのお御籤のことが腑に落ちねえ。神社にいたときは、スポットに
いくつもりはなかったんだ。・・・もうお御籤引くのは怖くてできねえよ。