ペットショップ勤務 上田洋一郎さんの話
じゃあ話していきますけど、わけわかんない内容なんですよ。
しかも子どもの頃のことだから、もしかしたら白昼夢みたいなもの
かもしれません、それでよければ。あれは、俺が小学校4年のときのこと
でしたね。当時、市営団地に住んでたんです。うちは母親が離婚して、
シングルマザーで俺を育ててて、お金がなかったんですよ。
その市営団地にはいい思い出はないです。それで、俺、小さいときから
生き物が好きだったんだけど、市営団地だからもちろんペットは
禁止です。けどね、ハムスターをプラケースで飼ってました。
まあ、それくらいは大目に見られるんです。あと金魚とかも。
でね、たしか日曜日の朝、餌をやろうとして見たら死んでたんです。
ハムスターはずっと寝てばかりだけど、それとは様子が違う。

ショックはショックでした。けど、寿命だと思いました。
ハムスターってネズミだから、せいぜい2、3年しか生きられないんです。
小2から飼ってましたしね。その日は母親が仕事に出てなかったんで、
死んだハムスターを手のひらに乗せて、どうすればいいか聞いたんです。
そしたら、団地の自転車置き場の後ろの草地にでも埋めてこいって。
でね、とぼとぼ階段を下りて外に出、自転車置き場に近づいたら、
「あんたそれ、まさか埋めるんじゃないでしょうね」ってキツイ声がして。
1階に住んでる嫌なオバサンでした。1日中家にいて、
ホウキ持ってゴミ置き場の前とか掃除してるんだけど、
団地の住人の行動にいちいちケチをつけるんです。
「そんなの埋めたら、カラスがほじくりにくるか、でなきゃ虫がたかって

しょうがない。ダメだよ、団地内に埋めちゃ。そうだね、川に流しといで」
歩いて5分くらいのとこに、そこそこ大きな川があったんです。
このオバサンに見つかった以上、埋めるのは無理そうなんで、
ハムスター持ったまま橋まで行きました。日曜の朝7時くらいだから、
いつもと違ってあんま車は通ってなかったです。橋の上から川に投げ込むのは
さすがにかわいそうな気がしたんで、土手からコンクリで護岸されたとこを
下りていきました。川原は葦が生い茂って、あちこち蚊柱が立ってました。
なんとか水面が見えるとこに出て、ハムスターに「さよなら」って言って
投げようとしたとき、横の草むらがガサガサいって、急に人が出てきたんです。
びっくりしましたよ。でね、それ、誰だったと思います?
さっきのイジワルオバサンだったんです。けど、子どもでもさすがに

ありえないって思いました。だって、俺はけっこう急いできたし、
オバサン足が悪かったんです。オバサンの顔は真っ白で、額に筋が浮いてました。
俺が思わず後退ると、オバサンはいつもと違うかん高い声で、
「そのネズミ、わたしにちょうだいよ」って言ったんです。
「どうするんですか?」って聞いても、無表情のまま、ただ「ちょうだい」って。
そのときね、なんか腹が立ったんですよ。それで「嫌です」って言って、
ハムスターを大きく水面に放りました。そしたら、オバサン、
べたっと草の上に這いつくばり、そのままずるっと川に入ってったんです。
「!?」 オバサンの姿は消え、かなり大きい青大将が一匹、
すーっと泳いで、たぶん俺が投げたハムスターを咥え、対岸に向かって
ったんです。いや、怖くなって、走って土手まで上りました。

草に隠れてて、土手の上からは何も見えなかったです。それで、
団地に戻るとオバサンがいたんですよ。いつものようにコンクリの上を掃く
ふりをしてました。「さっき川にいましたか」とか聞けば
よかったのかもしれませんが、気味が悪くて何も言えませんでした。
オバサンのほうを見ないようにして部屋まで戻ったんです。うーん、ここでね、
オバサンの口の端にハムスターの足が見えたとか、「おいしかったよ」
とか言ったのなら、怪談としてはいいのかもしれませんが、
そんなことはなかったです。でね、俺は高校在学中にバイトしてた
チェーンのペットショップに就職して今にいたるんですけど、
たぶんこのときのことがトラウマになってて、蛇が苦手なんです。
店長にはだらしないぞって言われるんですが、この話はしてません。

特殊清掃業 山根秀次さんの話
あ、特殊清掃をしてる山根と申します。よろしくお願いします。
特殊清掃はご存じですよね。いわゆる汚部屋やゴミ屋敷の片づけもやりますし、
孤独死された方の部屋の清掃もします。でね、これ、誤解されてることが
多いんですけど、私らはご遺体の処理はやらないんです。
死体を処理するのはまず警察、事件性があるとみたら、解剖するには
警察署まで運ばなきゃいけないしね。あとは葬儀屋です。
彼らはドロッドロになった死体も運びます。それに比べれば、私らの仕事は
まあ楽といえば楽で。ただ、遺体が長期間発見されず放置されると、
体液が布団を通して畳から床板にまで染み込みます。で、ウジが無数に
わいてたり。あとね、カミソリで頸動脈を切って自殺した人とか。
その場合、血が天井から壁から飛び散ってスゴイですよ。

あ、すみません。こんな話、嫌ですよね。・・・よくね、飲みに行って
何の仕事してるか言うと、みな内容を聞きたがるんです。けど、
自分らから求めたくせに、こういう話をすると顔をしかめるんですよねえ。
あ、すみません。そのときはね、市営団地の1階に住んでた60代の女性の
部屋を片づけました。いや、死後3日程度で発見されたので、
そんなに汚れてるってことはなかったです。これ、後から耳にした話ですけど、
故人には身寄りがなく、市のほうで無縁墓地に葬ったってことでした。
団地内で嫌われてたらしく、火葬のときに誰も来なかったって。
それでね、部屋はわりに片づいてたんです。ゴミらしいゴミもなく、
そもそも物がほとんどなかったです。で、台所に入ると、
ここもきれいだったんですが、大きなゴミバケツがあったんです。

60Lくらい入るやつが2つ。片方はゴロタ石が蓋の上に載せられてました。
もちろんゴミも片づけるんで、まず石のないほうのフタをとったら、
中のゴミ袋に・・・最初、魚だと思ったんですよ。太刀魚とかああいう細長い。
けどね、ウロコとか違うし模様がついてる。それ、蛇だったんです。
太い蛇が何匹分かなあ、とにかくバケツ半分くらいまでブツ切りで入ってました。
いや、食べたのかどうかはわかりません。骨とかになってるのはなかったです。
あと、フタとのついてるほう、すごい嫌な予感がしたんです。
そんときは2人組で行ってたので、若いやつに「お前、ちょっと見てみろ」
って言って、そいつが石をどけ、おそるおそるフタを少しずらして、
「うわっ」ってのけぞったんです。「蛇、生きた蛇がいます。大量に」
・・・仕事ですからね、それももちろん処理しました。

〇〇市役所道路河川管理課 仁科雄平さんの話
ああ、あの川のことですか。たしかに苦情は来てます。蛇が多いっていう。
ですけど、害獣なんかと違って駆除はできませんよね。
蛇を駆除する業者なんて ここらにはいないし、そもそもきりがありません。
ある地域を駆除したって、別のとこから移ってくるだけでしょう。
だから、対策としては、とにかく草を刈るしかなかったです。
草がなければ蛇は住みにくいし、川原に降りた人も、もし蛇がいても
すぐに発見できます。あとは、これは市の管轄じゃなく国土交通省ですけど、
土の部分をできるだけなくして、コンクリで護岸する。
それでですね、秋に入ったあたりの頃に、大々的に川原の草刈りを
計画したんです。そしたら・・・ええ、蛇は大量にいたんですが、
それとは別に、人骨が4体出てきたんです。

もちろん警察で身元を調べましたが、4体ともいまだに該当者は見つかって
ません。行方不明者と照合したんですが、わからなかったみたいです。
この市の人ではないんだと思いますよ。あと、骨だけなんですが、
傷や骨折痕などはありませんでした。だから、警察は事件には
しないでしょうね。それでね、そのときの作業員から話を聞いたら、
4体とも、肋骨の中に無数の蛇が玉になってうごめいてたんだそうです。
・・・嫌ですよねえ。そんなの見たら、とうぶん夢に出てきそうです。
で、草刈りをして2日後です。市のあちこちで目撃者が出て、
役所にも電話が何件もきました。え、何を見たかって? それが、数百、
数千の蛇が、川面を埋めつくすように泳いで下流に向かって泳いでいった
って話で。ま、この市から出ていってくれたのなら、ありがたいことですけど。