※ 2019年の記事です

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今年のノーベル医学生理学賞、この記事を書いている時点では

誰が受賞したかは まだわからないんですが、
下馬評では、2012年に発表された遺伝子改変技術、
CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス・ナイン)を開発した女性研究者
2名に注目が集まっているようです。

これはひじょうに実用的な技術で、わずか数年の間に数々の画期的な
成果を上げています。例えば、イギリスではマラリアを媒介する蚊を
遺伝子操作し、集団の繁殖能力を失わせています。応用できる分野は
いくらでも考えつきますし、人類にとって大きく貢献する
可能性が高いものであるのは間違いありません。

操作も簡単で、少し慣れれば高校生でもできると思います。
特定のDNA配列を見つけ、切断し、別の配列を挿入する。
みなさんはウインドウズ・ムービーメーカーを使って動画編集を
されたことがあるでしょうか。あれとよく似てるんですね。

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また、CRISPR-Cas9は技術としては第一世代で、今後、これを改良して
使い勝手をよくした第二世代機がどんどん出てくるだろうと
思われます。ただ、以前に当ブログでも記事にしている、
世界から批判をあびた中国のヒトゲノム編集も、
このCRISPR-Cas9技術を使ってるんです。

これまで、ノーベル賞は女性の受賞者が少なく(17人)、
選考委員会に差別があるのではないかと批判を受けているので、
今回、ジェニファー・ダウドナ、エマニュエル・シャルパンティエの
両女史が受賞する可能性は高いかもしれません。

(2020年受賞しました。)

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さて、本題に入っていきますが、みなさんは何らかの健康食品や
サプリメントを利用されているでしょうか。ネット上でも、
「○○は健康によい・悪い」という情報があふれていますが、
どうやらこれ、将来は根本的に考え方が変わってきそうなんです。

例えば、コーヒーはどうでしょうか。成分として含まれている
ポリフェノールには抗酸化作用があるので、糖尿病や心臓病、
癌の予防につながると言われる一方、やはり成分であるカフェインは、
血管を収縮させて血圧を上げ、胃の粘膜を荒らすことも知られています。

DNAの2重らせん構造
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コーヒーにかぎらず、ほとんどの健康食品には、それがもたらす
プラスの作用とマイナスの作用があると考えられます。
とはいっても、コーヒーをよく飲む人、まったく飲まない人を
大人数で比較して、どちらかの群の寿命が長い、あるいは病気の
罹患率が少ないという統計的な結果を出せば、

コーヒーが体にいいかどうかはわかると思いますよね。
でも、考えてみれば、それはあくまで一般的な傾向であって、
みなさん個人にとって、コーヒーが体にいいかどうかを保証するものでは
ありません。なぜなら、個人が持つDNAの個性は、
当然ながら一人ひとり違っているからです。

アルコールの分解能力が人によって違うのはご存知だと思います。
アルコールは肝臓でアセトアルデヒドに変わりますが、
その分解能力は個人によって違います。お酒を飲んですぐ顔が
赤くなる人は、分解能が不活性なんですね。

喫煙と飲酒は相乗効果で食道癌リスクを高める
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ちなみに、日本人などの黄色人種の場合、活性型は50%程度、
不活性型が40%程度。一方、白人や黒人はほぼ100%が活性型です。
ですから、日本人はお酒に弱い人が多いなどと言われますが、
不活性型の人がお酒を習慣的に飲んでいると、食道癌などに
なりやすいことが研究でわかってきました。

で、これ、同じことがカフェインにも言えるんです。
カフェイン分解能が高い人は、コーヒーを飲むことで心筋梗塞になる
リスクが減るのに対し、低い人は逆にリスクが高まる可能性がある
という研究結果が出されています。

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このことが端的にわかるのが、スポーツ競技におけるカフェインの
使用です。カフェインは現在、アンチドーピングの禁止薬物一覧から
外されていますが、トロント大学での研究で、100人のアスリートに
同量のカフェインを摂取させてから10kmサイクリングを実施した結果、
タイムが向上する群と、悪化する群が見られたんですね。

前者では平均7%向上したのに対し、後者は14%悪化しています。
カフェインには脳に疲労を感じさせない作用と、血管を収縮させる作用が
ありますが、向上群はカフェインを素早く分解できるので、
プラスの効果だけを受けたのに対し、悪化群は血流が悪くなって酸素の
供給が滞り、筋肉疲労が強まった。

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さてさて、このカフェインの分解能を決定するのは、DNA塩基配列の
ごくわずかな部分です。もちろん、このことはカフェインだけに言える
話ではありません。みなさんが現在使用しているサプリメント、
健康食品などは、その個人にとって効果がないばかりではなく、
健康に害になる可能性すらあるんです。

ですから、まだずっと先の話でしょうが、まずはじめにゲノム解析をし、
その結果を見て、その人に効果のある成分を摂取するという形に
なっていくんでしょう。教育界では、一人ひとりの個性を尊重した
教育が重視されてきていますが、同じことが健康面でも言われるように
なるのかもしれません。では、今回はこのへんで。