悪魔の手毬唄
dsr (4)

今回はこういうお題でいきます。なんだ、横溝作品は探偵小説で、
オカルトじゃないだろと言われそうです。たしかにそうなんですが、
自分は横溝先生の大フアンで、しかも横溝作品って、
下手なホラー小説よりも怖いと思うんですよね。

自分の実家に、講談社版の「横溝正史全集」があり、おどろおどろしい装丁で、
これはきっと怖いんだろうなあと思ってましたが、
中学生のころに読み始めると、やっぱり怖いんですよね。
第一巻が、『鬼火』 『真珠郎』 『蔵の中』などの、
初期の耽美的な短編を収録していたせいもあるかもしれません。

横溝正史
dsr (2)

で、続けて2巻目の『本陣殺人事件』を読み始めたんですが、これって、
機械トリックで自殺を他殺に見せかけるという話ですよね。
それで、なにか思ってたのと違うなあと感じて、
そこでいったんストップしちゃったんですね。
読むのを再開したのは高校生になってからでした。

そのころ自分は柔道をやってまして、腰を強打して椎間板ヘルニアになって
入院・手術し、病室の枕元に横溝全集を積み上げて読んでたので、
変な高校生だなあと思われたかもしれません。ちなみに腰のほうは、
医者に、もう柔道はできないと言われたんですが、リハビリを重ねて、
なんとか復帰することができました。今思うと懐かしいですね。

八つ墓村
dsr (3)

さて、横溝作品の特徴としては、まず、因果物であるということでしょうか。
過去にあった出来事が怨念を生み、それがだんだんに育ってきて、
現在の殺人が起きる・・・こういう形がほとんどだと思います。
事件が起きたのは必然のことで、それが作品に深みを与えています。

それから、本格推理の作品群はどれも長く、膨大な登場人物が
出てくるんですが、その一人ひとりの立場や性格がはっきりしているので、
読んでいて、途中で登場人物の表を見直したりしなくても大丈夫でした。
作品の骨格が綿密に組み上げられていて、
ストーリー展開に破綻がないせいもあると思います。

横溝作品は岡山の田舎や孤島を舞台にしていて、
伝奇推理などと言われたりもしますが、
ストーリーの構成はかっちりしています。これは、横溝先生が戦争中、
疎開していたときに大量に読んだ、ヴァン・ダインやエラリー・クイーンなどの
欧米の本格推理の作法を下敷きにしているからでしょう。

あと、探偵役の金田一耕助。「鳥の巣のようなボサボサ頭で、
困ったときに掻きむしるとフケが飛び散った」などのギミックはあるものの、
基本的には狂言回しの役で、犯人の犯行をとめることができません。
悲劇が全部終わってしまってから、謎解きをするための人物なんですね。
殺人を未然に防げたのは、中編で数回あるくらいのはず。

獄門島
dsr (5)

推理小説の最後の部分を、大団円などと言ったりしますが、横溝作品の場合、
事件が解決しても晴れ晴れとした感じはまったくないんですね。
この後、残された登場人物たちはどうなるんだろうと不安になるような
終わり方です。おそらくですが、横溝先生は悲劇を書きたかったんだと思います。

さて、かなり前置きが長くなってしまいました。
自分が選ぶベスト1は『悪魔の手毬唄』です。かなり長く、もう少しコンパクトに
できるんじゃないかと思うところもありますし、トリックの出来も
他の作品にくらべてそれほど優れてるわけでもないんですが、
この話、怖いんですよねえ。背筋がゾクゾクするシーンがいくつもあります。

特に有名なのは、金田一耕助が夕暮れの峠道で、村を出ていたおりん婆さんが
戻ってきたのとすれ違う場面ですね。これ、自分は、日本の推理小説の
最高の名シーンの一つなんじゃないかと思います。その場面自体も怖いし、
謎がとけてみると、いっそう怖さが際立つんですね。

夜歩く
dsr (1)

ベスト2は『獄門島』。推理小説としての出来は、これが一番いいと思います。
主な3つの殺人の、どのトリックも斬新でした。あとは、
レッドヘリング(読者の注意を真犯人からそらすため、わざと提示される
偽の手がかり)の「きちがいじゃがしかたがない」も秀逸です。

ベスト3『八つ墓村』。やや毛色の変わった、冒険小説の要素を含む話です。
地下洞窟での宝探しシーンなんかは、
横溝先生も楽しんで書いたんじゃないでしょうか。
映画のほうでは怪奇色が強調されていましたが、怨霊の祟り話ではなく、
人間の持つ悲しさが作品の主題になっていたと思います。

ベスト4『悪魔が来たりて笛を吹く』。
推理小説としては欠点のある作品だと思いますが、雰囲気がよかったですね。
ベスト5『夜歩く』。夢遊病を小道具に使い、「顔のない死体」のトリックに
挑戦した話。『犬神家の一族』が出てきませんでしたが、
これ、自分はもう一つ納得のいかない部分があるんですよね。

さてさて、横溝ブームは、十数年をおきくらいでくり返し起きています。
これは、横溝作品が古くならないせいが大きいと思います。
今読んでも違和感を感じません。ですから、今後もまた大きなブームが
あるんじゃないでしょうか。では、今回はこのへんで。

dsr (6)