俺が子どもの頃の話だよ。ピラミッド・パワーってのが流行ったんだ。
当時はオカルトブームで、オカルト雑誌だけじゃなく、TVでも
それ系の番組をばんばんやってたし、たびたび少年マンガ雑誌でも
特集が組まれたりしたんだ。で、ピラミッドパワーって何かっていうと、
正三角錐型になったものには不思議なパワーが宿るっていうものだ。

古代のエジプト人なんかは、その不思議な力を知ってて、それで
ピラミッドをあの形にしたと言われてた。で、ピラミッド型のオブジェ
なんかも普通に市販されてたんだよ。だけど、俺にはそんなのを買う金は
なかったから、自分で竹ひごを買ってきて、それを組んで作ったんだよ。
これ、ポイントは同じ長さの竹ひごを使うことだな。それで底面を組むん
だが、同じ長さのを接着剤でくっつければ、ぴったり正三角形になるだろ。

そしてそれができたら、各頂点から上に3本竹ひごを伸ばしてくっつける。
これで完成。意外と簡単だったな。で、できあがったのは1辺が20cm
ほどの正三角錐。この中に食べ物、例えばビスケットなんかを入れると
いつまでもカビが生えない。カミソリの刃を入れれば切れ味がよくなる。
酒を入れれば味がよくなるなんて言われてたな。けど、小学生だったから
酒で試すわけにはいかない。ビスケットを入れてみたら、確かにカビは
生えなかったけど、あのころの食品は防腐剤がバンバン使われてたから、
本当にピラミッド・パワーの効果だったのか、今考えれば怪しい気がする。
で、どうしてそんなことが起きるのか、これが一番大切だと思うんだが、
その点について、あんまり詳しく解説されてることはなかった。
その形によって、宇宙からのパワーが効果的に集められるというのが

話としては多かったな。カミソリでも試してみた。あの頃は電気
シェーバーなんてなかったから、どこの家にもカミソリの刃はあった。
結果は、うーん、どうなんだろう。圧倒的に切れやすくなったとは
思えなかった。ただ、切れ味が落ちにくいってことはあったかも
しれない。でな、こんな感じではっきりした効果を感じることはできなくて、
かなり残念に思ったのを覚えてるよ。それで、もっと大きなピラミッドなら
効果があるんだったら、竹ひごよりももっと大きなのを作ってみようと
思ったんだ。当時は1cm角くらいの角材も売られてたんだよ。オカルト
以外にも、模型飛行機づくりも流行ってて、それ用に様々な角材や
バルサ材が売られてたんだ。で、それを組んで1辺1mのピラミッドが
できた。白木だとあまり見栄えがよくなかったから、銀色のプラカラーの

スプレーをかけた。うん、銀色に塗ったのは正解だった。前衛彫刻みたいで
かっこいい。何を入れてみようか考えたが、できれば効果がはっきりわかる
ものがいいな。そう思って食パンにしたんだ。これならすぐ固くなるし、
少し濡らして入れてやればカビも生えやすい。それで、ピラミッドはイスを
出して机の下に入れて、その中に袋から出した食パンを濡らしてほうり込んだ。
これだと勉強ができないが、ベッドの上に寝転んでやればいい。そうして
3日がたち、食パンを取り出してみると、全体がカチカチに固くなってて、
さわるとボロボロ崩れた。で、水で濡らしたところだけがボワっと白い
カビに覆われてたんだ。がっかりした。これだと普通の反応じゃないか。で、
そんときにあることに思い当たった。もしピラミッドのパワーが
宇宙からのものなら、室内の机の下じゃ上手くいかないんじゃ

ないかって。それで、雨が降るのが心配だったけど、ピラミッド自体は
軽いので、2階の部屋から見える屋根に持ち出したんだ。で、また
固くなった食パンを入れた。幸い雨は降らず、朝になってカーテンを
開けたときにピラミッドをみたら、食パンがなくなってたんだよ。
まあ、屋根を伝って歩いてる猫かもしれないし、鳥とかかもしれないん
だけど、昨日の夜、屋根の上で音がしたということはなかった。まあでも、
11時前には寝たんだけど。ピラミッドはそのまま屋根の上において
おいたんだよ。で、学校から帰ってきた午後4時ころかな、部屋で
ランドセルをおろしてすぐ、窓の外を見て驚いた。あのピラミッドが上から
押しつぶしたようにひしゃげて、角材が何ヶ所かで折れてたんだ。
あ、なんだこれ、と思った。しょうがないんで、角材をバキバキに

折ってゴミ箱に放り込んでた。そしたら、下のほうにカエルがいたんだよ。
まあ、梅雨時なんかにいることはあるけど、それはたいがい小さなカエルで、
身軽だから屋根にも登れるんだと思ってた。ところがそれ、10cmくらいの
けっこう大きなやつで、何よりも色が変わってた。カエルって緑系の色、
じゃなきゃ土みたいな色だろ・・・ところがそれ、鮮やかなオレンジ色

だったんだ。気味が悪いと思ったし、それ以上にきれいだとも思った。だから、
去年の夏に虫を飼ったプラケースを押し入れから引っ張り出して、
それに少し水を入れて、部屋のカラーケースの上に置いておいたんだ。
それ、プラケース越しでもすごく目立った。もしも母親が俺の部屋に
入ってきたら、これが目について悲鳴を上げるかもしれないなと思った。
で、ケースにはフタはちゃんとしておいたはずなんだ。

カエルの餌はどうしようと考えたが、近くの国道沿いに釣具屋があって
そこで餌のミミズなんかも売ってるんで、それで間に合うんじゃないか
と思った。そのあと、しばらく観察してたけど、カエルはほとんど
動かないんで、飽きてきて外に遊びに行ったんだよ。あのころは、ゲーム
なんかはなくて、子どもはみんな外で野球とかして遊んでたんだ。
で、5時過ぎに帰ってきて、夕食まではまだ2時間くらいある。宿題を
やってしまおうかと思って、プラケースが目に入って驚いた。中が空だった
んだよ。さっきも言ったように、ちゃんとフタしてたし、隙間なんて
なかったのに。おかしいなあ、と思ったが、やはりどっかから逃げ出したんだ
としか考えられない。そう思ったんだが、あとで、家具の後ろとかから
干からびたカエルが見つかったりするのは気味悪いなと思った。

まあでも、そんなに気にしちゃいなかった。でな、その日の夜だ。風呂に入って
10時過ぎには寝たんだよ。そしたら、夜中に目が覚めたんだ。そんな
ことはほとんどなかったのに。目を開けたら、いつもは暗い部屋の中なのに、
オレンジの光が天井に映ってあちこち動いてたんだよ。起き上がろうと
思ったが、体が動かなかった。そのときは金縛りっていう言葉は知らなかったんだ。
なんとか動こうと体に力をいれてると、耳元で声が聞こえたんだ。
「呼んでくれてありがとう。せっかくこの世界に連れてきてくれたんだから、

君には乗り移らないでおこう。そのかわり、君の弟をもらうよ」って。これ、
どんな声かと聞かれても思い出せないんで、もしかしたらこういう意味だけが
伝わってきたのかもしれない。でな、今まで言ってなかったが、俺には
弟がいたんだ。俺が4年生で10歳だから、だいぶ齢が離れてる。

そのときはまだ0歳の赤ちゃんだった。いつもは1階の寝室のベビーベッドに
いることが多かったな。母親は働いてなくて、いつも家にいたよ。あの頃は
まだまだ専業主婦ってのが多かったんだ。俺の弟・・・そこで、急に眠くなって、
そっからは朝まで起きなかった。でなあ、次の日は日曜だったんだよ。
ああ、まだ週休2日にもなってなかった。朝は9時ころに起こされた。
予定はなかったんで、遅く起きてもかまわなかったんだな。階下にいくと、
親父もまだ寝ていて、母親は襲い朝食をつくってるとこだった。俺は、
そうだ! 昨日の夜、変なことを言われたんだと思い出し、母親に弟のことを
聞いたら、まだベビーベッドにいるって言った。それで見に行ったんだよ。
そしたら・・・弟はいたけど、そのベッドの上に小さな三角錐、ピラミッドが
浮かんでたんだよ。それはゆっくりと回転してた。でな、赤ちゃんが急に、
オレンジ色に変わったんだよ。これ、本当に見たんだ。

見間違いじゃないと思う。うわ、と思って後退りした。弟は大きさは
そのままだけど、顔や手の部分にいくつもイボができてて、カエルの

皮膚みたいになってたんだ。俺は床にぺたんと座り込み、大声で母親を呼んだ。
したら、母親が入ってくる前にピラミッドはシュンと消え、赤ちゃんも元に
戻って、起きててニコニコ笑ってたんだ。・・・今起きたことを母親に
話そうとしたが、絶対に信じてもらえないとわかってたんで
やめておいたんだよ。それから、弟は普通だよ。見た目は普通の赤ちゃんで、
あれからカエルの姿に変わったことは1度もない。だけど、何か変なんだよ。
母親が予防接種に連れて行ったときも、注射してもまったく泣かなかったって
話だったし、それまでは赤ちゃん言葉をしゃべってたのに、ぴったり

なくなったんだ。それでな、弟は大きくなると頭も行儀もよくて、よく出来の

悪い俺と比較された。大学まで行って、宇宙関係の仕事についたんだよ・・・