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京都祇園祭

今回はこういうお題でいきます。カテゴリは日本史に
しようかと考えたんですが、あまりにもはっきりしない内容
なので、オカルト論のほうに入れておきます。
さて、少し前の記事で「八幡神」というのを取りあげました。

公式には神道の神で、応神天皇であるとされますが、後に
仏教と習合して八幡大菩薩と呼ばれることが多くなります。
ただ、九州地方では応神天皇以前から八幡神信仰はあったと
考えられ、日本土着の大地神や大陸からの渡来神の性格が
入り混じった、ひじょうに複雑なものなんですね。

牛頭天王 これは中国の蚩尤に似ています
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で、今回取り上げるのは「牛頭天王 ごずてんのう」です。
長く京都東山の八坂神社の主祭神とされ、祇園信仰の中心的な
存在でしたが、現在は御祭神から外されています。
明治の神仏分離令により、「権現」と「牛頭天王」の神号を
用いる寺社はその祭神を変えろと、

名指しで厳しく通達されているんです。まあ、権現のほうは
わかります。徳川幕府を開いた家康の死後の神号が東照大権現。
これを祀るのは明治新政府にとって都合が悪い。
ですから、現在の八坂神社の主祭神は変えられて
素戔嗚命になっています。

インド 祇園精舎の鐘
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さて、ここからは牛頭天王の正体とされる説を列挙していきますが、
これらの多くは2重、3重に重なってるんですよね。
① 牛頭天王はインドの祇園精舎(お釈迦様が説法を行った寺)
の守護神であり、それが祇園信仰につながった。

② 牛頭天王は道教の托塔天王であり、その本性はインドの
古い神である毘沙門天とされる。
自分は、この2つは後づけでできたものと考えています。
①は、平家物語の冒頭に「祇園精舎の鐘の声」と出てくることで
有名ですが、インドの伝承に牛頭天王の名前はありません。

『水滸伝』の登場人物 托塔天王 晁蓋
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②の托塔天王もそうですね。道教の文献にも牛頭天王の名は
出てこないんです。これは余談ですが、中国の武侠小説『水滸伝』で、
宋江の前の梁山泊の頭目、晁蓋のあだ名が托塔天王でした。
隣の村で妖怪封じの石塔をたてたら、自分の村ばかりに妖怪が出る
ようになったので、晁蓋がその塔を夜中に担いで盗んできた。

③ 牛頭天王は「蘇民将来伝説の武塔神(むとうしん)」である。
これは古くから信じられてきました。蘇民将来については
以前書いてるので、簡単に触れますが、『備後国風土記』逸文に
その記述が見られ、歴史は古いものです。

武塔神を冷たくあしらう巨旦将来
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嫁を娶るために旅に出た武塔神は、ある村で宿を乞うが、
裕福な弟の巨旦将来は断り、貧しい兄の蘇民将来は、粗末ながらも
もてなした。後に再訪した武塔神は、蘇民の娘に茅の輪を付けさせ、
蘇民の娘をのぞいて皆殺しにして滅ぼした。以後、茅の輪を
家につけていれば、疫病を避けることができると教えた。

で、この武塔神の信仰が牛頭大王へと変わったとするものです。
話自体は類型的で、兄弟のうちのどちらかが神をもてなし、
どちらかが粗末にしたため破滅するという筋立ては、これ以外にも
あります。日本神話の海幸彦、山幸彦の話なんかも形は
多少違いますが、これ系ですよね。

蘇民将来符
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④ 牛頭天王は素戔嗚命である。この説は③と深く関連しています。
『備後国風土記』では、村を再訪した武塔神は、自ら
速須佐雄能神(スサノオ)と名のって正体を明かしてるんですね。
ですから結論として、牛頭天王は素戔嗚命であるとしても
いいようなものですが・・・

⑤ 牛頭天王は朝鮮半島由来の疫病神である。こういう説も
あるんです。蘇民将来伝説では、「蘇民将来符」というものを
家の門口に立てて疫病除けとしますが、これは朝鮮半島の風習である
「将軍標 チャングンピョ・チャンスン」と似てるんです。

朝鮮の将軍標
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朝鮮半島では、疾病や災難をもたらす鬼神信仰があり、
その魔除けのための木製標を村落の入り口に設置していました。
「天下大将軍、地下女将軍」と書かれていることが多いですね。
素戔嗚命は朝鮮から来た疫病神であるとする話も、
おそらくこのあたりからきていると思います。

いずれにしても、牛頭天王が疫病と関係しているのは間違いない
でしょう。八坂神社の京都祇園祭は、もともと御霊会であり、
863年、大和朝廷は疫神や死者の怨霊などを鎮めるために
神泉苑で御霊会を行い、その後も疫病の流行が続いたため、
牛頭天王を祀り無病息災を祈念する祇園祭となったんです。

赤子を生贄にしていたバアル神
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この他の説としては、牛頭天王はメソポタミアの嵐の神バアルで
あるとか、中国古神話の蚩尤であるといったものもあります。
たしかに牛頭人身の神の伝承は世界各地にありますが、
そこまで話を広げてしまうと、もう収拾がつかないですよね。

さてさて、ということで牛頭天王の正体について見てきました。
もちろんはっきりした結論は出ないんですが、多神教の神には
このようにいくつもの性格が重ね合わされているものが
多いんです。では、今回はこのへんで。


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