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泰山

今回はこういうお題でいきます。オカルト論です。
泰山府君は中国の道教系の神様なんですが、複雑な事情があります。
もともと中国の宗教は、祭天の思想と神仙思想。神仙思想が
発展し教団化したのが道教なんですが、その上に後から
入ってきた仏教が上書きされています。

泰山とは、山東省泰安市にある山で、高さ1545m(最高峰は玉皇頂)
道教の聖地である五つの山(五岳)の一つです。漢の時代から、
この泰山において歴代皇帝の「封禅の儀 ほうぜんのぎ」が行われた
ことで知られています。封禅の儀は皇帝位についたことを天に
知らせるための儀式。で、この山を統べる神が、泰山府君なんです。

泰山は、昔から死者の霊が集まる場所とされ、泰山の神は冥界の
最高神であり、人間の寿命や在世での地位を司ると考えられました。
ただし、府君というのは郡の長官といった意味で、神様の呼び名
としてはあまりふさわしくはなく、中国では別名の「東嶽大帝
とうがくたいてい」のほうが多く使われます。

泰山府君
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ここまでが本来の道教での位置づけなんですが、仏教とともに
中国に地獄の思想が入ってきます。インド思想では、地獄を支配
しているのは閻魔大王ですよね。そこで、泰山府君の地位が1段
下がってしまい、閻魔大王の書記官とされてしまうんです。

さて、日本には道教は正式に導入されてはいません。もちろん
知識層は、中国に道教という宗教があることは知っていました。
後漢が太平道による黄巾の乱で滅び、三国時代となったわけですから。
ですが、日本に道教経典、道士、道観はあえて移植されなかったんです。

中国四川省の道観
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これは、日本にはすでに神道と仏教があるため、このうえ道教を導入
すると、ごちゃごちゃになってしまうという危惧があったためでしょう。
いっぽう、道教の一要素に過ぎなかった陰陽思想、五行思想と、
それにともなう呪術的な儀式が、陰陽道と名を変えて大和朝廷に
取り入れられ、政務の中核を担うまでになったんですね。

いよいよ陰陽道の話に入っていきますが、これは日本独自の呼び名で、
天文学、暦学、易学を含んでおり、もともとは中国で生まれた
自然哲学思想です。現代のドラマでは、陰陽師が呪術師のような
形で描かれることが多いんですが、当時としては最先端の
科学者のような立場であったはずです。

閻魔大王
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で、この陰陽道において、最高神として唯一取り入れられたのが
泰山府君です。そして、陰陽道における最大の儀式が「泰山府君祭」。
ただこれ、秘中の秘であり、宮廷でしか行われなかったため、
どのような内容であるかははっきりとわかっていません。

おそらくは、当時の天皇の健康・長寿を願うための儀式であったと
思われますが、その後、泰山府君祭は死者をよみがえらせる
儀式であると考えられるようになります。人間の寿命を司る
泰山府君に、「禄命簿」を書き換えてもらおうというわけです。

安倍晴明
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さて、当ブログでたびたび引用している『今昔物語』には、
安倍晴明が泰山府君祭を行った話が出ています。ある山の高僧が
病気となり、明日をもしれぬ命となった。そのため朝廷は安倍晴明を
派遣します。晴明は、「泰山府君祭を行えば、回復させることは
できるが、そのかわりに別の誰かが死ななければならない」と言う。

弟子たちは師匠には回復してもらいたいが、かといって自分が
死ぬのは嫌だと、誰もが身代わりには名のり出なかった。そのとき、
ある無名の僧が「自分が」と申し出て祭祀がとり行われ、高僧の
病気は治ったのだが、かわりに死ぬはずの弟子は死ななかった・・・

ただこれ、『今昔物語』が書かれたのは晴明よりだいぶ後の時代で、
どこまで事実を伝えているかはわかりません。さて、最後に、
『簠簋内伝 金烏玉兎集 ほきないでん きんうぎょくとしゅう』
の話をしましょう。陰陽道の最高の秘伝書とされ、金鳥は太陽、
玉兎は月。合わせて日月という意味で、内容は占いに関するもの。

陰陽道の儀式
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安倍晴明が書いたことになってますが、実際はその数世代後の
作でしょう。この初めに、安倍晴明が芦屋道摩法師と争い、
計略で首を切られて殺されてしまう話が出てきます。晴明に
『金烏玉兎集』を授けた師匠の伯道上人は、遠く中国でそのことを
察知し、日本にやってきて死んだ晴明をよみがえらせます。

そして力を合わせて道摩法師を倒すんですね。『金烏玉兎集』を
みだりに、あさはかな気持ちで読むことは死に値するとして
この話を冒頭に置き、この書の秘密性・神秘性を高めているわけです。
ただし、晴明が中国に行ったことはないはずです。

晴明が操った式神
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おそらくですが、これらのことがもとになって、泰山府君祭は
死者をよみがえらせるといった話になったのだろうと思いますが、
実際には、どのような呪術を用いても死者蘇生は不可能です。
また、現代で霊能者が行う泰山府君祭は、
本当の姿を伝えているものではありません。

さてさて、ということで、泰山府君についてみてきました。
自分も、古代の陰陽寮の儀式についてはいろいろ調べてるんですが、
やはり隠されたものだけあって、まともな文献が残ってないんですね。
残念に思います。では、今回はこのへんで。

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