今回はこのお題でいきます。自分が好きなポーの作品を並べてみますね。
もちろんこれには異論があるかと思います。
さて、ポーは19世紀初頭に生まれたアメリカの詩人。小説家で、
優れた恐怖小説の短編をたくさん書き残しています。

他には、ナンセンス小説、それと推理小説の元になったといわれる作品群、
あと、冒険小説もあります。ポーというと、
恐怖小説を中心に論評されることが多いんですが、
じつは、かなり幅広いジャンルにまたがる話を書いてるんですよね。

エドガー・アラン・ポー


生前は、作品はそれなりに売れていましたが、アルコール中毒気味で、
つねに飲酒上のトラブルを起こして職を転々とし、
貧困のうちに、40歳で謎めいた死を遂げます。作品群が評価されたのは、
まずヨーロッパにおいてであり、本国アメリカでその名が知られる
ようになったのは、死後100年以上たってからのことです。

ベスト1、いろいろ迷いましたが、第一位にはゴシック恐怖小説の
『アッシャー家の崩壊』をあげたいと思います。
旧友アッシャーが妹と二人で住む屋敷に招かれた語り手が、
その館でさまざまな恐怖を体験するという筋立てで、
現代の「館もの」と呼ばれる怪奇小説の元祖的な作品です。

『アッシャー家の崩壊』
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ポーの作品には、2つの大きなモチーフがあるとよく言われます。
一つは「早すぎた埋葬」、生きながら埋葬された人物、

あるいは埋葬後によみがえった人物をあつかった内容です。もう一つは

「美女再生」、若く美しいまま亡くなった女性が、さまざまな形をとってこの世に

戻ってくる話。『アッシャー家の崩壊』には、この2つともが含まれています。

 

ベスト2、『メエルシュトレエムに呑まれて』科学恐怖小説と言えば

いいでしょうか。ノルウエーの沖にとつじょ現れる巨大な大渦、

その名前が「メエルシュトレエム」です。兄とともに

その中に船から投げ出された主人公は、渦に翻弄されながらも、

冷静に渦の性質を観察し、その結果、兄は飲み込まれて死亡し自分は助かる。

『メエルシュトレエムに呑まれて』

 

これをSFの元祖という人もいますが、現在、一般的に考えられるSFとは

だいぶ違います。主人公は、科学的な知識によって助かるわけですが、

自分がはじめて読んだとき、ははあ、こういう内容も小説になるんだなあ、と

感心したのを覚えています。死の恐怖が迫ってきて、かなり恐い作品でもあります。
 

ベスト3、『赤死病の仮面』これは現実感の薄い、寓話あるいは

散文詩のような作品です。ある国で「赤死病」という疫病が広まり、

人々は体中から血を流して死んでゆく。感染を怖れた王は、貴族たちとともに

城に立てこもり、出入り口を封鎖する。その中で、王たちは享楽的な生活にふけり、

ある日、仮面舞踏会を開くことを思いつくが・・・

『赤死病の仮面』
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この設定、どっかで見たことがあるような気がしませんか。
感染者から逃れるために、ある場所に複数人で立てこもるという筋は、
『ドーン・オブ・ザ・デッド』など、現代の映画のゾンビもので定番ですよね。
ちなみに、奇妙な味のショートショートの名手、阿刀田高氏のポーのベストが、
この『赤死病の仮面』と著書に書かれていました。
 

ベスト4、『モルグ街の殺人』、アマチュア探偵、

オーギュスト・デュパンが登場する、推理小説の元祖と言われる作品です。

パリのモルグ街のアパートメントの4階で、

二人暮らしの母娘が惨殺された事件を、デュパンと語り手である「私」が、
独自の捜査をして解いていく話で、ポーの理知的な面がよく表れています。

『モルグ街の殺人』
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この、私とデュパンのコンビが、後のシャーロック・ホームズとワトソンの
組み合わせに大きな影響を与えたのは有名な話で、デュパンは、
史上はじめて登場した名探偵なんですね。結末は、犯人が人間ではないので、
現代の感覚からすればアンフェアと言われそうですが、
ポーが重点を置いているのは、謎を解く過程です。

ベスト5、『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』

短編作家であったポーの、唯一の長編と言われますが、

実際の長さは中編くらいです。主人公のピムは、密航した捕鯨船で

船員の反乱が起こり、さらに嵐に遭遇して漂流、

生き残ったピムらは南極探検に向かうジェイン号に救助されるが・・・

『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』
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これ海洋冒険小説ですね。当時、未知の世界であった南極に向かうにつれ、
都市伝説の「ニンゲン」のような、得体のしれない不可思議な白いものに

対する恐怖が高まっていきます。後の、H・P・ラブクラフトの

作品のような趣もあります。そして、謎の正体がはっきりしないまま、

話は唐突に終わってしまうんです。


ベスト6、『黒猫』スタンダードなゴシック恐怖小説です。
西洋では不吉とされた黒猫を中心に、恐怖を高める小道具が全編にちりばめられ、
主人公の精神が崩壊していく様子が描かれます。
ひじょうに構成の巧みな話でもあります。

ベスト7、『振子と陥穽』ポーが描くところの恐怖は
心理的なものが多いんですが、これはリアルで感覚的な恐怖が出てくる作品で、
トレドでの異端審問にかけられた主人公は、地下の部屋に閉じ込められ、
落とし穴や、先端に鎌がついた巨大な振り子に襲われますが、
知恵をしぼって逃げのびる・・・映画の『ソウ』のシリーズのようでもあります。

さてさて、ベスト10までいきませんでしたが、長くなったのでここらで

終わりにします。こうしてみると、ポーの作品には、

現代の恐怖小説や映画に見られる要素がたくさん含まれている

ことがわかります。また、詩的な部分と知的な部分が

ほどよく入り混じっていて、そこが魅力の一つではないかと自分は考えています。
では、今回はこのへんで。