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黒ミサの様子

今回はこういうお題でいきます。けっこう専門的な内容に
なるかもしれません。さて、みなさんは悪魔的な集会である
「サバト」と「黒ミサ」の違いはご存知でしょうか。まず、
サバトは英語で sabbath 、「アイアンマン」などのヒット曲を持つ
イギリスのロックグループ、ブラック・サバスが有名ですね。

一方、黒ミサは英語で black mass です。どっから話して
いきましょうか。最も重要なことは、サバトは実体がなかったと
考えられるのに対し、黒ミサのほうは確たる実体があったことです。
また、行われたとされる時代が違いますし、
参加した者の層も異なっています。

サバトのほうから話を進めます。ヨーロッパでは、392年に
ローマ帝国のテオドシウス帝が、アタナシウス派キリスト教を国教とし、
それ以外の宗教、宗派を禁止しました。伝統的なローマ神話の神々や
ミトラ教の太陽神信仰なども信じることを禁じられたんですね。

箒に乗ってサバトへ行く魔女
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ここからキリスト教はヨーロッパ各地に広まっていくわけですが、
その進度に違いがあり、島国であったイギリスなどは受容が遅れました。
当然ながら、各地域にはそれまで信じられてきた土着的な宗教があり、
キリスト教と土着宗教が併存する時代が長く続いたんです。

日本でも、昭和30年代ころまでは各地に拝み屋と呼ばれる
存在がいて、失せ物探しや冠婚葬祭の吉凶の占い、
子どもの疳の虫をとるなどの医療的行為が行われていました。
これは神道とも仏教ともつかない土着的なものでしたが、
ヨーロッパもまた同じだったんです。

サバトで悪魔に奉仕する人々
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例えば薬草の知識を持つ老婆が、人々の求めに応じて煎じたり、
ときには堕胎のための薬を処方するなどのこともあったようです。
ところが、中世となった14,15世紀、そのような人々は
魔女であり、悪魔の配下となってキリスト教に敵対する者で
あるとされ、悪名高い異端審問、魔女狩りが始まったんですね。

そこでサバトは、夜中に魔女が集まる集会であり、魔女は各地から
箒に乗ってやってくる。サバトには悪魔が来臨し、魔女たちは
悪魔に奉仕し、乱交が始まる・・・しかし、現実的に考えれば、
そんなことがあるはずがないですよね。ですから、現在では、
サバトは異端審問官や神学者らによってでっちあげられた

ものであるとする意見が定説となっています。
魔女狩りでは、15~18世紀の全ヨーロッパで推定4万人から
6万人の無実の人が処刑されたと考えられており、
無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象
であるとともに、キリスト教の黒歴史になっています。

ルイ14世
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さて、次に黒ミサのほうですが、こちらははっきりした実体が
あります。主に17世紀のフランス、ルイ14世の治世下で
始まったと考えられています。この時代のフランスは王権が
強力であり、社交界は乱れきって毒殺事件が多発していました。

ラ・ヴォワザンという女性をご存知でしょうか。日本ではあまり
知られてはいませんが、オカルト史に残る恐ろしい人物です。
17世紀の黒魔術師で、パリに毒薬製造・販売の店を持っていました。
彼女の店には上流階級の名士が多数出入りし、ヴォワザンは毒薬を
販売するとともに、黒ミサを主催したんです。

悪名高い毒殺者、黒魔術師ラ・ヴォワザン
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黒ミサはその名前のとおり、キリスト教のミサのパロデイというか
冒涜する要素を持ち、悪魔を降臨させるとして嬰児を生贄に捧げました。
1679年、ヴォワザンはついに告発され、360人もの黒ミサの
参加者が逮捕されたんですが、その中にキリスト教会関係者、
上級貴族が多数混じっており、実体が明らかになるにつれ、

ルイ14世を愕然とさせました。例えば、ルイ14世の愛妾であった
モンテスパン侯爵夫人などです。モンテスパン侯爵夫人は黒ミサで
全裸で祭壇に横たわり、その上に生贄の血がかけられたとされます。
醜聞が明らかになるのを怖れた王は捜査の中断を命じ、
書類はすべて焼き払われることになりました。

水責めの拷問で毒殺を自白させられるド・ブランヴィリエ侯爵夫人
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この黒ミサ事件で、数千人の嬰児が生贄になったという話もあるんです。
首謀者であったヴォワザンは火刑に処されましたが、その際、
公衆の面前での自らの罪の告白と、神と王に対しての
謝罪を命じられたものの、これを毅然とした態度で拒否し、
じつに堂々とした様子で火あぶりになったと記録に残されています。

また、この当時、フランスでは毒殺事件が横行しており、
連続毒殺犯であるド・ブランヴィリエ侯爵夫人が有名ですが、
それを捜査したパリ警視総監のドーブレでさえ、妻によって
毒殺されてるんです。このあたりの上流階級の乱れが、
100年後のフランス革命につながったと見ることもできるでしょう。

魔術師アレイスター・クロウリー
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さてさて、ということで、サバトと黒ミサの違いをざっと見てきました。
最初に書いたように、サバトはキリスト教会のでっちあげですが、
黒ミサは現実に起きた事件です。この後、実際に生贄殺人が行われる
ことは少なくなりましたが、19世紀以降、多くの作家や芸術家が
秘密結社をつくって黒ミサを実行しています。

黒ミサの要素は、近代魔術や欧米の各地でのヒッピームーブメントや
カルト組織の祭儀に取り入れられ、麻薬などが使用され、
20世紀最大の魔術師と言われるアレイスター・クロウリーも
儀式として行っています。また、多くの小説や映画でも
取り上げられていますね。では、今回はこのへんで。

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