骨を拾うのが好きな子どもだったんです。いやいや、もちろん人間の

じゃないです。骨というか正確には生き物の体の部分ですね。
裏庭に落ちてたバッタか何かの足、蛾の羽、
・・・これはすっかり乾燥して腐ったりしないやつです。
それから何かわからない小鳥なんかの小動物の骨が多かった。
そういうのを集めてましたね。枯れ葉の重なってる下を掘ったり、
河原の丸石をひっくり返したりして拾うんです。いや・・いつからですかね。
物心ついたとき、おそらく小学校入学以前からです。始終あちこち

歩きまわって探してるわけじゃありませんよ。それだと病的ですよね。
そうじゃなくて、外を歩いているとピーンとくるときがあるんです。
ああ、あそこの自動販売機の下に骨が落ちてるって。


骨のほうから呼びかけてくると言えばいいでしょうか。
で、手を差し入れてさらってみると、確かにあるんです。
それも死んだばっかりのじゃなくて、カラカラに乾いた臭いもしない
骨の塊が。・・・当時は不思議だとも思いませんでしたね。
その骨もまるごと持ってくるわけじゃなくて、爪楊枝くらいのを
ほんの一本とか。どれを取ればいいかもわかるんです。
バラけたネズミか何かの骨の中で、必要なのはこれって
もうわかってるんです。それを指でつまんでそっとポケットに入れる。
3ヶ月で1つのときもあれば、2日続けて拾ったこともありました。
4年くらい続けていたと思います。全部あわせても大人の両手に
のるぐらいの分量でした。集めた骨や虫の残骸は、家の中に持って入ると、


さわぎになって捨てさせられるとわかってたんで、
庭にある石灯籠の穴の中に隠してたんです。
穴の下のほうにライトを入れる空洞があって、そこにぽとぽと
落としていました。見つかるとマズいという気がしてたんです。
小学校3年のときです、秋の遠足がありまして。
歩くんじゃなくて、バスで市の森林公園にいくんです。
自分らの小学校では毎年恒例の行事だったみたいですね。
まあ子どもながら、前日はわくわくしますよね。
親に弁当やおやつをリュックに入れてもらいました。
そのときに、なにかすごく大切なものを忘れているような気がしたんです。
しばらく考えていましたが、あの骨だということに思い当たりました。


ただ、そのままではダメだとも思いました。それで瞬間接着剤を持ちだして、
夕方5時ころから1時間くらい外で集めてた骨を組み立てたんです。
とり憑かれたように組み合わせては接着していると、
変なものができました。二本足の、人間に似ているけども
蛾の羽やコオロギの足があちこちに飛び出したオブジェ?です。部品は一つも

あまりませんでした。ぜんぶぴったりあるべきところにはまった。すっかり

満足しました。高さ15cm、太さが子どもの手首くらいだったと思います。
で、それを上着の下に隠して家に戻り、リュックの外側のポケットに

入れたんです。ああ、これで大丈夫、やっと遠足に行けると思いました。
・・・何が大丈夫なのかはよくわかってなかったんですけど。
遠足当日です。森林公園は学校からバスで1時間くらいでした。


その日は天気もよく、10月なのにあまり寒くもなく、
気持ちいい日だったのを覚えています。
午前中はクラス対抗のゲームを広場でやりました。それから
敷物をしいてお弁当を食べて、午後は1時間くらい自由時間がありました。
親しい友だちと駆け出していこうとしたとき、
リュックと離れなくちゃならないことに気づいたんです。
リュックというか、その中の骨オブジェとです。でも、

それはできないと思って、からかわれるのを承知で背負っていきましたよ。
まばらな雑木林の中で鬼ごっこをしましたが、
林は背後の山地まで続いていて広く、うれしくなって奥まで走り込みました。
自分では枯葉の地面を踏んだはずなのに、


いつの間にか赤や黄色に染まった斜面を転げ落ちていました。
そして斜面の途中にある横穴に飛び込みました。
一面の落葉のため、体はどこも痛いところはありませんでしたが、
方向感覚を失って、思わずあたりを見回しました。
そこは岩屋のようなところで、たくさんの枯葉が吹き溜まっていました。
中は意外に深く、光の届かないところにも空間があるように感じました。
洞窟だったのかもしれません。その奥のほうに青く光る2つの点が見えました。
ゆっくりとこちらに近づいてきたのは、真っ黒な獣でした。
大きさは中型犬の倍近くもあったと思います。
その顔がもう目の前にありました。いや、熊ではないです。
馬を小型にしたようなしまった体つきをしてました。それで顔が長いんです。


アリクイ?あれよりもっと長くて、何となく人間のような表情の見てとれる顔。
すみませんね、うまく説明できなくて。その生き物が、枯葉の上にうつぶせに

なっている自分に鼻面を近づけて臭いを嗅いでいましたが、リュックの上に

前足をかけました。そのときにわかったんです。あの骨のオブジェを

欲しがってるんだと。いえ、自分はこの獣に渡すために長い間骨を拾い集めて

いたんだって、瞬時にわかったんです。自分が膝をついてリュックをおろし

骨を取り出すのを、獣はじっと見つめていました。そして自分の手のオブジェを

そっと咥えると、うんうんと人間のようにうなずき、数歩後じさりしてくるりと

振り向くと、暗いほうに駆け去っていったんです。ゆるやかな斜面を登って、

上の林へともどりました。自分のやらなければいけないことをやっとやり遂げた、

そんな気分でしたよ。これで話は終わりです。