bigbossmanです。今回はひさびさに、霊能力者のKさんとお会いした
ときの話です。ご存知の方も多いと思いますが、Kさんは50代後半、
本業は実業家で、貸しビルや高級飲食店を手広く所有されています。
そのほとんどは経営を人に任せてて、本人はボランティアで
全国を飛び回り、霊障事件の解決にあたられてるんです。以前は
神戸のほうにご自宅があったので、ときどきお会いしてたんですが、
去年、石垣島に転居され、ご一緒する機会が少なくなりました。
これは、つい1週間前、本土に出てこられたKさんと、ホテルのバーで
飲んだときのものです。「ところでbigbossman、祠ってあるだろ、
あれ、どういうものなんだ」 「祠ですか、うーん、語源は、
もともとは神倉(ほくら)って言ったみたいですね。

弥生時代の遺跡で、厳重な環濠に囲まれた中に、小さな高床式の
建物が見つかったりしてます。人が住める大きさじゃなく、
種もみの倉庫ではないかという説が有力で、そんなのが祠の
源流なのかもしれません」 「ふうん、じゃあ、神道のものなのか」 
「それが、そうとも言いにくいんです」 「どうして?」 
「神社の場合、御祭神がはっきりしてます。天照大神とか大国主とか」
「ああ、そうだな」 「けど、祠は、何が祀られてるかよくわからないんです。
神道の神社なら、どんな小さなものでも、かけ持ちで担当する神職がいて
世話をしてますが、祠の場合は、その近くの家の人が世話してたり
します。ですから、もし世話してたお年寄が亡くなったり、
転居した場合、祠は放置され、そのまま朽ちていくことも」

「なるほどな。中にはどんなものが祀られてるんだ」 「それはいろいろで、
その地の人が尊いと思ったものです」 「え、どういうこと?」
「うーん、例えば、山の中で人の顔が浮き出して見える石を拾って
持ち帰ってきた。で、それを近所の人に見せたら、祀らなきゃいかんと
言われて祠を作ったとか、あとはそうですね、白蛇の抜け殻とか、
洪水のときに流れついた仏像とか」 「仏像?」 「はい、庶民の間では、
神仏は習合してましたから」 「そうか」 「だから、ひと口では
言えないんですよ」 「で、もし祠が祀られなくなったらどうなる」
「それは、その祠がどれだけ信仰を集めてたかによると思います。
例えばある一家だけで祀られてたようなのは、放置されてもまず何も
起きません。けど、たくさんの人の信心を集めてた場合、

捨て置かれるようになると祟りが発生したりします」 「それは何となく
わかる気がするな。人々の信仰心そのものが実体を持つということだろ」
「そうです。あと、めったにはないんですが、その祠に祀られてたのが
強力な呪だった場合、やはり祟りが起きたりしますね」 「つまり、
祟りを鎮めるために 地域みなでお祀りしてた」 「そうです・・・Kさん、
何か祠にまるわる事件に関わってられたんですね。話を聞かせてください」
「うん、そのつもりで聞いたんだ。けど、発端はずいぶん昔、今から
28年前のことだ」 「というと1993年あたり」 「そうだ、
あの頃はちょっとしたオカルトブームだった」 「わかりますよ。
テレビでもけっこうオカルトな番組をやってましたが、1995年の
地下鉄サリン事件で、みなパッタリと消えちゃいましたよね」

「うん、その少し前の話、3人の男子大学生がいて、オカルト研究会所属」
「はい」 「その子たちが、ある廃村に1泊でビデオ撮影に行った。
学祭で流すつもりだったそうだ」 「なるほど、その廃村の場所は」
「それは言えんが、東北の〇〇県だよ」 「で」 「林業が盛んなころは、
かなり栄えてた村だが、廃村になって15年ほどたってた」 「はい」
「大学生たちは夏休みに車で行き、小さいテントを張って泊まったんだ。
日中は廃村の中を撮影してまわり、生活感のある家の内部なんかを
撮ってな、夜はライトを使って、改葬で放棄された墓地なんかも」
「で」 「テントを張ったのは村外れで、そこに奇妙な祠があった」
「どんな」 「それが、一つ一つは小さいが高さのある祠が、
4つ四角に向き合う形で建ってた」 「向き合う?」

「そう、つまり四角形の対角線にそれぞれ祠があって、全部が内側を
向いてる」 「珍しいですね。その祠は真ん中にある何かを封印
してた?」 「そうだ」 「中は確かめたんですか」 「ああ、その
大学生らは怖いもの知らずで、わざわざ扉を開けてみたが、
すべて空だったらしい」 「罰当たりですねえ」 「うん、さらに
もっと罰当たりなことに、テントを張ったのがその中心の場所」
「うわ」 「当然、何かが起きたと思うだろ」 「はい」
「大学生らは焚火をしてな、その回りで持ってきた酒を飲んだ。
寝たのは12時過ぎだったらしい。夏だから寝袋もいらずごろ寝」
「で」 「その日、日中はいいお天気だったのに、彼らがテントに
入ってから雨が降り出した。土砂降りなら車に戻るが、

そこまでの雨でもない」 「で」 「だいたい2時ころ、全員が
寝入ってると、突然突風が吹きテントが飛ばされたんだ」
「ははあ、で」 「起き上がると、自分たちの頭上に何かが飛んでる」
「何が?」 「それが、4つの火の玉だったそうだ。円を描きながら、
まるで互いに追いかけっこするようにぐるぐる」 「それ、
焚火の火が風に乗ったんじゃ」 「いや、焚火は寝る前に消した。
それに火の玉と言っても、青白い光だったそうだ」 「うーん」
「何かの電気的な現象かとも思ったそうだが、怖くなって車に入り、
そのまま大学のある地元まで逃げてきたそうだ」 「で」
「でもな、その後、彼らには特に何が起きたというわけでもなかった」
「え、じゃあKさんが依頼を受けたのはいつです?」

「その8年後のことだ。3人はそれぞれ就職し、時期は違うが結婚して、
同じ頃に最初の子が生まれた、3人とも女の子だった」 「で」
「この3人をABCとしようか。ABはもう亡くなってるが、その日が、
2人とも自分の娘の4歳の誕生日だった」 「え?」
「もちろん日は違うが同じ年。Aは交通事故、Bは突然の病死」
「うーん、じゃあCは?」 「このCから俺が依頼を受けたんだよ」
「ああ」 「大学時代の友人仲間で、まだ親しく交流があった2人が
急に亡くなったわけだ、そりゃ怖いと思うだろ」 「ですね」
「で、俺はCと会って、いろいろ話を聞いたが、そんな中で、
この廃村の祠の話が出てきたんだよ。本人は半分忘れてたけどな」
「うーん、Kさん、調査に行ったんですね。その祠、8年後にも

残ってたんですか」 「ああ、かなり朽ち果ててたが、倒れたりは
してなかった」 「どんな調査を?」 「祠自体は中身がないんだから、
それが衞ってる中心地にレーダー調査を入れた」 「地中レーダーですか、
さすがですね」 「知り合いにその手の会社をやってるやつがいたから。
結果は、そう深くないところに金属のものが埋まってると出た」
「掘ったんですね」 「ああ、重機を頼んで」 「わくわくしますね、
何が出てきたんですか」 「金銅製の坐像、かなり傷んでたが、
地蔵菩薩だった。頭を下にして逆さの形で」 「で」
「中が空洞になってて、調べてみたら4体分の子どもの骨が出てきたんだ。
性別ははっきりしないが、女の子っぽい。年齢は3、4歳。
大学の先生に見てもらったら、江戸後期だろうということだった」

「うーん、すると、江戸時代に、何らかの理由で子ども4人が亡くなり、
遺体を地蔵像の内部に入れて逆さの形で埋められ、その周囲に祠を
建てた!? よくわかりませんね。あ、その子たちの死因は判明したん
ですか」 「はっきりはしてないが、骨に刃物のすり跡があって、
肉を削いだんじゃないかという話だった」 「う」 「その地方は
江戸時代、ひどい飢饉が続いてたから」 「うう」 「この骨が
障りをなしてるのだろうと考えて浄霊をしたよ。それが功を奏したか
わからんが、Cは娘さんの4歳の誕生日には死なず、娘さんともども
健在だ」 「なるほどねえ」 「だが、事件はまだ解決してない」
「え、どうして」 「埋められた子どもは4体、大学生は3人、
1体がどこかをさまよってる。それをずっと追い続けてるんだよ」
 

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