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天から堕ちるサマエル

今回はこういうお題でいきます。悪魔学です。さて、ここで
登場する悪魔はサマエルという名なんですが、サマエルは
ユダヤ教の神秘思想である「カバラ」と深い関係があります。
そこでまず最初に、カバラの説明をしてきたいと思います。
ですが、詳しく書くとそれだけで終わってしまうので、

ほんのさわりだけにします。カバラとはヘブライ語で伝承、
あるいは秘伝という意味です。『旧約聖書』を裏から
読み解くためのツールと言っていいかもしれません。
こう書くと、かなり古いものだと思われるかもしれませんが、
そうではなく、最終的にまとめられたのが12~13世紀頃。

カバラ セフィロトの樹
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つまり、キリスト教の成立よりかなり新しいものなんですね。
カバラとは、世界を創造した神の聖性が10段階に流出して
世界ができあがっていく過程を表すとされます。
そしてその最終段階が、物質世界であるマルクトです。

下図を見てもらえばわかりますが、聖性は10個の○で
表されるセフィラと、それをつなぐ小径(パス)でできており、
全体として、エデンの園の中央にあったセフィロトの樹を
象徴しています。この図をもとにして、『旧約聖書』に
隠された真実を読み解くことができるとされました。

カバラの現代的な解釈


ここまでの説明でわかりにくいのが、「神の聖性の流出」
という部分で、自分もちゃんとは理解してないんですが、
建築に例えられることが多いですね。ある建物をつくる場合、
まず建築家の頭の中に構想があります。そして設計図をつくる。
そして工事に着手し、骨組み、外壁、内装とできていく。

この段階が聖性の10段階と似ているんです。後代になって
カバラは神智学に取り入れられ、「薔薇十字団」などの秘密結社で
タロット占いや数占いと結びつくことになります。ですが、
それは本来のユダヤ思想とはほとんど関係がないものです。

さて、ではカバラと悪魔サマエルがどう結びつくのか。
上述したエデンの生命の樹セフィロトには10種の悪魔がいて、
その一体がサマエルなんですね。サマエルはもともと、
堕天使ルシファーと同じ熾天使で、神の側近くに仕えていました。
その名は、「神の毒」という意味です。

蛇の姿になったサマエル
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これは神の意を受け、死期が近い人にそれを伝えたり、命を
奪ったりする役目からきています。また、サマエルは赤い色
とのつながりが深く、赤く輝く火星の天使であるともされ、
別名は赤い蛇。姿は盲目の赤いドラゴンとして描かれる
ことが多んです。なぜ盲目なのかは おいおい説明していきます。

さて、サマエルが天から堕ちた経緯は悲惨の一語です。
『バルクの黙示録』(聖書の外典ですが、けっこう怪しい書物)
によれば、サマエルは神に命じられ、約束の地の手前で
預言者モーセに死を与えようとしたんですが、モーセの輝く顔に
圧倒されて天に逃げ帰ってしまいます。

十戒を持つ預言者モーセ
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ここで神はサマエルにもう一度チャンスを与えますが、今度は
モーセに激しく杖で打ちすえられて失明してしまうんです。
この失態を見ていた神は、戻ってきたサマエルを叱責して、
自らモーセを死なしめます。面目が丸つぶれになったサマエルは
これを深く恨み、神に反逆して堕天使になりました。

うーん、でもこのエピソードだと、人間の老人モーセにやられるん
だから、あまり強い悪魔とも思えないですよね。ですが、
サマエルはキリスト教の根幹に関わる悪事を為してるんです。
前述の『バルクの黙示録』には、エデンの園のアダムを
そそのかした蛇と同一であると記載されています。

エデンの園での蛇のサマエル
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『旧約聖書』の話とは少し違っていて、サマエルはわざと
エデンの園に葡萄の樹を植え、それから葡萄酒をつくってアダムに
飲ませました。アダムは酒に溺れ、酔いつぶれたため、
神の寵を失って楽園を追放され、人間には原罪が生まれます。

そしてその贖罪のため、神の子イエスが地上に降り立ち、
十字架にかけられることになります。また、この葡萄の樹は
エデンから投げ捨てられていたんですが、大洪水を方舟を
つくって生きのびたノアが見つけ、神の許可を得て地上に
植えることになります。

パンと葡萄酒の聖餐
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さらに、イエスの最後の晩餐のとき、パンがイエスの体、
葡萄酒がイエスの血として使徒に与えられ、後に聖餐の儀式と
なりました。また、カバラのセフィロトの樹は葡萄であるという
説もできたんです。ここまでの話は密接な関係があるんですね。

最後に映画の話ですが、アメコミを原作とした2004年の
アメリカ映画『ヘルボーイ』で、復活したラスプーチンが召喚した
悪魔がサマエルでした。ここでのサマエルは、イノシシとトカゲと
半魚人が混じったような造形になってました。

『ヘルボーイ』のサマエル
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さてさて、ということで、やや退屈な話になったかもしれません。
サマエルは日本では、ルシファーほど知られてませんからねえ。
あと、カバラは自分のやっている占星術とも関係があるため、
後でまた書くかもしれません。では、今回はこのへんで。

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