ここのところ、自分が怪談のブログをやっているということが、
あちこちに知れ渡って、奇妙な体験を聞かせてくださる方が増えてきました。
これはありがたいことですが、必ずしもご自身の体験ばかりではなく、
知り合いから聞いた話なんかも多いんですね。ですから

それが実際にあったことなのか、裏が取れない場合も多々あります。
そこはご承知おきください。それと、霊障を受けているなどのご相談も
来るようになりました。これは困るんですよね。自分はまったくの〇感で、
霊は見えないし、もちろん祓うことなどできません。
ですから、そういうご相談があった場合、自分がご利益が大きいと考えている
神社を紹介することにしています。あと、自分の話に何度か登場している、
ボランティア霊能者、Kさんの連絡先をお教えしてるんですね。

ここからの話は、農機具メーカーに勤務されているUさんから
ご相談を受けたものです。3ヶ月ほど前、大阪市内のバーでお会いしました。
「bigbossmanです。どうぞよろしく」 「あ、よろしくお願いします。
さっそく話していきます」 「はい」 「僕、ある工科大学を出たんですよ。
その2年のときに彼女ができまして」 「はい」 「近くに女子大があって、
そこの子だったんですけど」 「はい」 「ずっと卒業までつき合って、
就職したら結婚するつもりでした」 「はい」 「けど、彼女、卒業と同時に
車を買って、すぐに自損事故で亡くなってしまったんです」 「・・・・」
「当時はほんとうにショックでした。正式なプロポーズはしてなかったけど、
お互い結婚するもんだと思ってましたし、彼女の両親のとこにも挨拶に行ってたし、
何も手につかなくなって、せっかく就職した会社も辞めちゃったんです」

「そうでしょうねえ」 「しばらく引きこもってましたけど、1年くらいして、
このままじゃいけないって思って、先輩に相談して、今いるとこに入ったんです」
「はい」 「それで、夢中になって仕事覚えて、もともとメカは好きだったんで
かなり気が紛れました」 「はい」 「だけど、彼女のことが忘れられなくて、
ずっと女の子とつき合うこともできなくて」 「わかるような気がします」
「けど、そんな自分でも、よく思ってくれてる子がいたんです。
けっして忘れたわけじゃないけど、彼女の死から5年たってましたし・・・ 
その子とつき合うようになって、先月、結婚したんです」
「ああ、でも、それはしかたないことですよ。Uさんの人生は、これからもずっと
続くんですから。いつかはふっ切らなきゃ」 「ただ・・・結婚式の前後から、
彼女の夢を見るようになって」 「はい」

「その夢の中で、彼女が怒ってるんです。ウエディングドレスを着て、
一度も見たこともない怖い顔で、ベッドの上に浮かんでて・・・」 「うーん、

でもそれ、霊というより、Uさんの罪悪感が見せてるんじゃないですかね」
「・・・僕もそんなふうに考えてたんですが・・・これ、見てください。
先月の結婚式の写真です」 「ああ、きれいな奥さんじゃないですか。これが?」
「この写真だけ、顔が違うと思いませんか」 「え? うう、確かに」
「このケーキ入刀の写真だけ、亡くなった彼女の顔なんですよ」 「間違いなく?」
「はい」 「・・・わかりました。自分の知り合いに、Kさんという、こういうことに
詳しい方がいるんで、相談してみます。これ、お借りしていいですね?」 
こんなやりとりがあって、2日後、Kさんのところにその写真を持っていきました。
「Kさん、どう思われます?」 「じつによくないもんだね。

強い力がこもってる。きっとこれから騒動をひき起こす」 「やっぱり、
Uさんの彼女がまだ浄化してなくて、Uさんの心変わりを怒ってるってことですか?」
「・・・うーん、そうじゃない気がするんだよな。だが、何なのかまだわからない。
調べてみる」 「お願いします」 この後ひと月ほど、Kさんからも、Uさんからも
音沙汰がなかったんですが、突然、Uさんの奥さんから連絡が来て、
Uさんが病院に入院してるということだったんです。自分のことは、
Uさんが奥さんに話していたようです。新婚のアパートのソファで、眠いと言って
横になったきり、大きないびきをかいて目を覚まさず、救急車を呼んだ。
医師の話では、脳内出血だが手術できない箇所で、このまま血が引いて
意識が戻るのを待つしかないということでした。すぐにKさんに報告し、
2人で病院に行ったんです。結婚写真で見た奥さんが、つきっきりでした。

Uさんとの面会はできないとのことでしたが、Kさんがいろいろ手を回して、
病室に入れてもらったんです。Uさんは人工呼吸器につながれてて、
真っ白な顔で目をつぶってました。その枕元で、Kさんが静かに呪言を唱え始めると、
ベッドの上の空間に、白いモヤが凝りはじめました。水に油を流したように
ゆっくりとたゆたい、そして、少しずつ形になっていったんです。
ウエディングドレスを着た花嫁でした。ただ、顔のある部分まで白く、
目も鼻もない・・・ Kさんはその花嫁をじっと見つめていましたが、
「これは、祓えない。本性じゃない」そう言って、パンと手を叩き、
花嫁の姿はかき消えたんです。病院からの帰り、Kさんはこんな話をしました。
「さっき出てきたのは、Uの元彼女じゃない。いや、混じってるのかもしれないが、
本質は別のものだ」 「意味がわかりません」 

「俺もちゃんとはわからないが、遠隔操作だと思う」 「遠隔操作?」
「ああ。それでな、元彼女のことを調べてみた。亡くなって5年だが、
その間に母親が病気で他界している。一人娘の死で気落ちしたんだろう」
「ああ」 「父親は今、一人暮らしで勤めに出てる」 「気の毒ですね」
「どうだ、お前、明後日ヒマか?」 「いつもヒマですよ。売れない占い師

ですから」 「彼女の実家に行ってみる。いっしょに来い」 「はい」
ということで、Kさんの車で、2時間ほどかけてその家に行ったんです。
彼女の父親は、あちこちの団体役員をしてるらしく、立派な家でした。
「bigbossman、ここからは犯罪だが、いいか?」 「・・・OKです」
Kさんと自分は、その家の塀を乗り越えて庭に入り、Kさんがガラス切りを出して、
ベランダのサッシ戸から中へ侵入しました。

父親はKさんの調査で、しばらくは帰ってこないのがわかってました。
Kさんは間取りがわかるように、ずんずん中に入って2階に上がり、その奥の一室、
おそらく亡くなった彼女の部屋のドアを開けました。中は・・・お香のような
においが立ち込め、祭壇がしつらえてありました。神道でも仏教でもない、
何ともいい難い様式で、香炉の後ろに一体の人形がありました。
高さ20cmほどの、純白のウエディングドレスを着た。
「bigbossman、これ、何でできているかわかるか?」 「・・・骨、ですか」
「そうだ」 「彼女の」 「ああ」 それから、Kさんの祈祷が始まり、
30分ほどして、さわりもしないのに、人形はくしゃっと崩れたんです。
「これでいいだろう。荒療治だがしかたない。bigbossman、不法侵入、
器物損壊、あとはもしかしたら死体損壊? 逮捕されるかもしれんぞ」

「別にいいですよ。どうせ自由業ですし」 帰りの車の中で、Kさんから

話を聞きました。「あの人形、業者がいるんだよ。故人の遺体を加工する。

おそらく、そこに依頼して作ってもらったんだろう。それに彼女の父親が、

何らかの儀式で念を込めた」「そんなことができるもんですかね?」 「あの

父親は、たちのよくない新興宗教に入ってるんだ。そこで身につけたものだろう」
「人形が朽ちましたよね。どうなるんですか?」 「父親のねらいは、Uさんだよ。
おそらくあの世に送って、そこで娘と添い遂げさせようと考えたんだろうな」
「ということは?」 「この足で病院に行ってみよう。変化が起きてるかもしれん」
で、着いたら病室がバタバタしていて、Uさんの奥さんが少しだけ出てきて、
「気がついたんです。目さ覚めたんですよ」って言いました。
それだけ聞いて、自分とKさんは戻ったんです。

その日の夜、いつものバーでKさんから話をうかがいました。
「彼女の父親が儀式をしてたってことですが、彼女の霊は浄化されてこの世にはもう
いないんですか?」 「・・・そうではないと思う。あの父親は、彼女の骨を使って
Uを呪い、儀式であの世に送ろうとしたが、それを彼女は望んでいない。
だから、比較的簡単に呪いは破ることができた」 「これからどうなるんです?」
「あの父親がどうするかだな。今後もUの命をねらうようなら、さらなる荒仕事も

考えなくちゃならん」 「はああ」 「まあ、Uはまだとうぶん病院だろうから、
そう心配はないと思うが」 でも、心配は杞憂に終わりました。
父親が電車に飛び込んで亡くなったからです。Uさんを連れて行くことができず、
その代わりに自分が娘さんのところに行くことにしたようです。Kさんは、
その葬儀の後、彼女と父親の浄霊の会を開くことを計画しています。