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今回はこういうお題でいきます。うーん、自然科学というより、
現代哲学の中で議論されることが多い内容ですね。まず、一般的な
英単語である「シミューレーション」は「見せかけ、ふり、まね」
などといった意味です。また、生物学では「擬態」という意味で
使われます。ある生物が別の生物に自分を似せて生活すること。

これが近代になって「模擬実験」という使われ方をすることが
多くなってきました。模擬実験は必ずしもコンピュータを使用する
わけではないんですが、多くの場合、コンピュータが使われます。
で、「シミュレーション仮説」というのは、

「人類が生活しているこの世界は、すべてシミュレーテッドリアリティ
であるとする仮説」のことです。こう書くと、「ああ、知ってる。
映画のマトリックスでしょ」と言われるかもしれません。
そうですが、『マトリックス』の場合は、シミュレーション仮説の
中でも特殊な形と言えるでしょう。その理由は後述します。

擬態するコノハチョウ


シミュレーション仮説が生まれたのは、そう古い話ではありません。
コンピュータの実用化以後なのはおわかりと思います。
現在、この仮説を積極的に論じているのは、スウェーデン人の
哲学者、ニック・ボストロム氏です。

この人の論はそう複雑ではないので、簡単にご紹介すると、
われわれの世界がシミュレーションかどうかについて、次の3つのうち
どれかが真だというものです。
① シミュレーテッドリアリティを生み出すほどの技術レベルに
  達する文明はほとんど存在しない。


ニック・ボストロム氏
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② そのような技術レベルに達した文明があったとしても、倫理や
  リソースなど様々な理由からシミュレーションを実行しない。
③ われわれが日頃経験する事物は、ほとんどがシミュレーション内の
  実体である。 

さて、これ、みなさんはどう思われますか。

①だと話は簡単ですよね。宇宙一つをまるまるシミュレートできる
コンピュータは、莫大な演算能力が必要です。そういう技術を
得るまでに進化した文明はほとんどないだろう、ということですね。
ただし、上記した『マトリックス』のような抜け穴があります。

当ブログの読者の方で、映画をご覧になられた人は多いと思うので、
くわしいストーリーは説明しませんが、遠い未来、コンピュータの
反乱によって人間社会が崩壊し、人間の大部分は捕らえられ、
眠らされてコンピュータの動力源として培養されるとともに、
現実世界を生きている夢を見させられている。

『マトリックス』では、人間はバッテリーとして使われる


つまり、すべてがシミュレーションで構築されているわけではなく、
生きた人間が介在しているということです。この意味はおわかり
でしょうか。シミュレーション世界をつくりあげている
コンピュータの能力がそれほど高くなくても、それにプラスして
それぞれの人間の脳の「夢を見る」といった計算能力が使えます。

次に②について、われわれがもしシミュレーション世界をつくれる
ほどの技術を持ったとしても、倫理的その他の理由で実行しない
だろうという話。でも、そうですかねえ。中国ではこの間、
ヒトゲノムの編集を行った科学者がいて世界中から非難されましたよね。
そういう抜け駆けをするタイプの人物は、どこにでもいるものです。



また、もしシミュレーション世界をつくったとして、その中で
人が死んでも、実際の生命が失われるわけではありません。
現在、世界中でたくさんのコンピュータゲームが発売され、その中で
多くの登場人物が死んでいますが、それが非倫理的だという
議論は少ないですよね。さて、問題は③です。もし一つの

シミュレーション世界ができると、その中の人たちは、十分な
科学技術を持てば自分たちでシミュレーション世界をつくり始める。
そしてまたそのシミュレーション世界の中でも・・・と、無限の
入れ子構造ができていく可能性があります。とすると、数的には、
現実の世界よりもシミュレーション世界のほうがはるかに多い。

幽霊はシミュレーションのバグ?
キャプチャhaw

あ、もうここまで来てしまった。このシミュレーション仮説は、
オカルトとも深い関係があります。例えば、超常現象と言われるものの
多くは、シミュレーションをつくりだしているコンピュータの
バグだというような話。幽霊は何らかの不具合によって死んだはずの
人間が再登場させられたもの。

たしかに、そういう形で説明はできます。超能力や魔術なんかも
そう言えてしまいますよね。次に、もしわれわれの世界が
何らかの意図を持ってシミュレートされていた場合、その目的に
合致するような生き方をしていけば成功するだろうという考え方。

ビー玉の中に一つの宇宙が
キャプチャhh

宗教的と言っていいかもしれません。もし祈祷によって、科学的に
説明のつかない方法で願いがかなえられたりするのならば、
それはわれわれがシミュレーション世界の中に生きている証拠になる
というわけです。うーん、これも難しいなあ。シミュレーションを
つくった側の意図なんてわかるものでしょうか。

さてさて、字数が尽きてしまいました。オカルトの中に「聖書の暗号」
といった内容があります。聖書には、世界の秘密が暗号化されて
隠されている。もしこの世界がシミュレートだとすれば、その
ヒントがどこかにあるのかもしれません。例えば星座の位置や
円周率などです。では、今回はこのへんで。

シミュレーション仮説まで話が広がった、鈴木光司氏の『ループ』