bigbossmanです。今回もインタヴューシリーズです。テレビマンの
紹介で、特殊清掃会社を経営してるUさんという方から
お話を伺いました。Uさんは大阪市近郊の都市で会社を経営
されてるんですが、そう大きな規模ではなく、社員はパートを
入れて20人程度ということでしたね。インタヴューしたのは
京都の豆腐料理専門店です。「はじめまして。大阪で占いの
店をやっているbigbossmanと申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ」 「さっそくですが、いつから始められたんですか」
「うーん、最初は粗大ごみの回収業をやってたんです。それはもう
20年も前ですが、本格的にクリーニングもやるようになったのは
ここ5年ほどのことです」 「ははあ、需要が多くなったわけですね」

「そうです。ご存知のように、ものすごい勢いで孤独死が増えてますから。
私らの仕事は、大きく4つに分かれます。まずは汚れてしまった
家屋の清掃、それから居住者の遺品の整理、遺品の供養、
あとは不用品の回収と廃棄です」 「遺品の供養というと?」
「ほら、部屋に仏壇や神棚などがあった場合、ただ廃棄するのは
気持ちが引っかかりますよね。そんな場合、提携している寺社で
供養していただく」 「なるほど。遺品の整理と廃棄はどう
違うんですか?」 「廃棄する前に整理をするんです。亡くなった
方のご家族に立ちあっていただいて、その指示で捨てるものと
必要なものとに分けていく」 「通帳とかですか。たいへんそうですね」
「ええ、ご遺族の方も迷われますしね」 「すべて廃棄ということも

あるんでしょう」 「はい、親族が遠くに住まわれてる場合などは。
でもね、ときにはへそくりの現金などが見つかることもあって、
トラブルにならないよう、できるだけ現場に来ていただきます」
「なるほど。遺体の処理などもなさるんですか」 「いえ、それ、
よく誤解されるんですが、ご遺体を直接処理することはありません。
事件事故の場合は警察、病死の場合はご遺族が依頼した葬儀社が
やるんです」 「大変だったことは」 「うーん、床の清掃は
慣れてますけど、天井は大変です」 「天井?」 「ええ、
レアケースですが、殺人や自殺で、血液が天井まで飛ぶことが
ありましてね」 「うわ」 「クリーニングしにくいし、なかなか
落ちないし」 「どうするんですか」 「賃貸の場合は大家さんと

相談ですね。リフォームしていただく」 「ああ。あとは」
「そうですね、一軒家のゴミ屋敷の清掃は時間と人手がかかります」
「部屋数が多いでしょうからね」 「はい。長年ゴミ屋敷になってると、
もうありとあらゆるところ、キッチンやトイレ、風呂や階段にまで
ゴミが積み上げられ、建物に入りきらなくなって、外の庭にまで」
「嫌ですね」 「まあ、仕事ですから」 「いちばんツライのは
どんなことですか」 「社員アンケートを取ったことがあるんですが、
1位は虫、2位は臭いでした」 「ああ、やっぱりねえ」
「臭いのほうはガスマスクをつけますし、強力な消臭もするんですけど、
虫はなかなか・・・ それで辞めちゃう人も多いんです」
「そうでしょうねえ。で、お聞きになってるでしょうけど、
 
じつは自分、怖い話を収集しておりまして、何か怖い体験を     
されたことがありますか」 「じつはですね、小さな会社ですから、
私も現場に行くんです。で、事件事故、孤独死の場合は
まず最初に般若心経を読ませていただきます」 「社長が
やられるんですか」 「はい。僧侶の資格はありませんが、
勉強しまして」 「で」 「ですから、不可思議なことはないんですが、
ただ、1回だけ・・・」 「ぜひお聞かせください」 「あれは
3年前でした。郊外の1軒屋の清掃を請け負ったんですが、孤独死と
ゴミ屋敷がセットになったケースで」 「はい」 「亡くなっていたのは

その家で一人暮らししていたおばあさんで、死後10日ほどで
親族に発見されました。11月でしたので、そこまで腐敗は

進んでなかったんです。それと、おばあさんは発見時、
タイル敷きの玄関に倒れていたということで、体液が床に
しみてるのも少なくて」 「ゴミのほうは」 「それがねえ、
そこ、猫屋敷でもあったんです」 「猫をたくさん飼ってたと」
「ええ。おそらく10匹以上。で、ふつうはゴミ屋敷と言っても
ゴミは袋に入ってる場合が多いんです。ゴミ屋敷の住人の方は、
ゴミも財産と思ってるというか、捨てられなくて溜まっていくわけ
ですから。でもね、そこゴミ袋がほとんど破れてて、
ゴミが散乱してたんです。それと、その下に猫のおしっこや糞の層が」
「いや、臭いがキツそうです」 「はい。完全な消臭は無理でした。
結局5人で3日間かかりました。それでね、あれは1日目の

夕方でした。なんとか1階が終わって、今日はここまでというとき、
廊下をうめたゴミの中を何かが走っていったんです」
「あ、猫ですか、それともネズミ」 「飼っていた猫は餌をもらえないんで   
みな猫ドアから外に逃げてました。その後、猫ドアはふさいだんで、
ネズミだと思いました」 「猫たちは戻ってこなかったんですか」
「われわれがいるんで警戒したんでしょう。消毒もしてましたし、
外をうろうろしてるのは数匹見かけましたね」 「で」
「ネズミだったら捕まえるのは無理です。ですから、その日は
荒らされそうなものは全部トラックで搬出して終わりました」 「で」
「2日目の朝です。家に入るとすぐ、何かが廊下を駆けて、
階段を上がっていく音がしました。ネズミにしては大きい音」

「それで?」 「2日目は作業人数を減らして私を入れて3人。
2階はそれほどゴミは多くなかったんで、その日で終わると考えて
たんですが」 「で」 「2階は二間、動物の姿は見かけなかった 
ですけど、奥の部屋をかたずけてるとき、社員の一人が
大声で悲鳴をあげたんです」 「どうしたんです?」 「作業ズボンの
上に防護服をつけてるんですが、左の足、ふくらはぎのあたりから
血が出てるのが見えたんです。駆け寄ると、何かに噛まれたと言って」
もう一人の社員に、車で病院に運ばせました。傷自体はそんなに
大きくなかったんですが、雑菌が入ったようで、熱が出て3日ほど
入院しました」 「ああ、まあ大事にならなくてよかったですね」

「それで、私は家に残って応援の社員を頼み、病院からの報告を
待ってたんです。そしたらね、私のまわりをトトトッと走り回る
音がしたんです。何もいないのに」 「で」 「さっき社員が
ケガしたのを見てるでしょう。部屋にあった椅子に上がりました。
そしたら音は、それを何度も回ってから、トッと押し入れの上段に
入った気配がしたんです。ここに閉じ込めてやろう、そう思って

急いで戸を閉めようとしたんですが・・・」
「ですが?」 「10cmぐらい残して何かがはさまったんです」 
「何でした?」 「それが見えないんです。透明なものがはさまってる」
「う」 「とにかくね、力を入れてないと、それがまた部屋に
出てきそうで、ずっと押さえてたんです。そしたら、40分くらいして

応援の社員が来て下で叫んだので、おおい、こっちだって怒鳴りました」
「で」 「すると、その見えないものはギャーッという悲鳴を上げ、
・・・ここからは聞き間違いかもしれませんが、私を食わんでくれ
って言ったように思うんです」 「どんな声でした?」
「年寄の、女性の声だったと思います」 「どうなりましたか」
「それがね、みなで警戒して押し入れを開けても、結局何も
いなかったんです」 「食わないでくれ、ですか」 「はい・・・
これは後になってわかったことですが、そこのおばあさん、玄関に
倒れてたって言ったでしょ。検死では脳血管の発作で亡くなったという
ことでしたが、しばらく生きておられた。でね、
頬に大きな噛み跡があったらしいんですよ・・・」 「うう」