引き抜くと叫び声を上げ、聞いた人は死んでしまうなどの言い伝えがある
伝説の植物「マンドラゴラ」の花が、兵庫県南あわじ市八木養宜上の観光施設、
「淡路ファームパーク イングランドの丘」で開花した。
同施設では初めてで、国内でも珍しいという。

マンドラゴラはナス科の多年草。古くは薬草として用いられたが、
根には幻覚や幻聴などを伴う毒があり死に至ることもあるという。
根は人に似た形状に成長することがあり、
「人の姿の根が発する叫び声を聞くと死ぬ」などの伝説が中世ヨーロッパを
中心に広まり、映画「ハリーポッター」などにも登場した。(産経WEST)


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今回はこういうお題でいきます。マンドラゴラの花が咲いたというニュースです。
マンドラゴラは、別名をマンドレイクとも言い、絞首刑になった無実の罪人が、
苦しみのあまり射精した精液がしたたった地面から生える、などと伝えられますが、
実際にある植物なんですね。ナス科マンドラゴラ属で、根はニンジンのような形、
二股に分かれていることも多く、人間の足のように見えます。

そこから、抜かれた根は地面を歩き回るとか、抜かれる瞬間に叫び声を上げ、
それを聞いたものは死んでしまうなどとも言われました。実際、
根には数種類のアルカロイドが含まれ、麻薬作用を持ち、鎮痛薬、
鎮静剤、下剤などに使われていましたが、毒性が強く、
死に至ることもあるため、現在はまず使用されることはありません。

マンドラゴラの花
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マンドラゴラの伝説は、主にヨーロッパの中世で、錬金術の材料として
広まりました。抜くと死ぬという伝説も、そのときにできたものと考えられます。
映画の『ハリーポッタ』シリーズに登場したときは、耳を押さえて抜くという
ごく簡単なやり方でしたが、犬のしっぽに結びつけ、遠くから主人が
犬を呼んで抜かせるなどの方法が魔術書に残っています。

前に少し書きましたが、錬金術は、上流階級を騙すために悪用される
場合が多かったんです。錬金術師が本を書いて、王侯貴族に
高い値段で売りつけます。本の中には、不死の薬とか
空を飛べる薬の作り方が書いてありますが、それに使われる
材料の多くは、まず手に入らないものだったんですね。

例えば、これは映画の話ですが、ハリー・ポッタのポリジュース(変身薬)の
材料は、「クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ、二角獣の角の粉末、
毒ツルヘビの皮の千切り、変身したい人物の一部」でしたが、
二角獣の角なんて、実際にはこの世には存在しません。

ですから、当然手に入れることはできず、薬は完成しません。したがって、
錬金術師のイカサマもばれることがなくて済むわけです。
マンドラゴラについても、貴族がそれを手に入れて薬を作り、
効果が表れなくても、錬金術師は、「これは本物のマンドラゴラでは
ありません」とでも言っておけばいいわけです。

北欧神話のフェンリル狼
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巧妙な手口すよね。では、この手の話のルーツはどこから来たかというと、
おそらく古い神話からだと思われます。北欧神話では、フェンリルという
巨大な狼の怪物が出てきますが、これをつないでおくための魔法の鎖の材料は、
「猫の足音、女のあご髭、山の根元、熊の神経、魚の吐息、鳥の唾液」でした。
どれも、当時は存在しないと考えられていた品々です。

では、ここからは、魔法の植物についてみていきましょう。
有名なのは、ギリシア神話に登場する「黄金の林檎」でしょうか。神々が
若々しさを保つための食べ物であり、不老不死の魔力を持つとされていました。
神々の祝宴に招かれなかった争いの女神エリスは、宴の最中に黄金の林檎を
投げ入れ、それには「最も美しい女神に」と書かれていました。

アンゼルム・フォイエルバッハ『パリスの審判』
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そこで、美貌が自慢の3人の女神、ヘラ、アテナ、アフロディーテが、
それぞれ自分のものだと主張して言い争いを始め、主神ゼウスが、
人間の羊飼いパリスに審判をさせることに決めます。そこで、ヘラは「王の座」、
アテナは「戦いの勝利」、アフロディーテが「世界で最も美しい人間の女」を
パリスへの贈り物とします。西洋絵画の主題となっている場面です。

パリスはアフロディーテを選び、世界で最も美しい女がトロイアのヘレナだった
ことから、木馬のエピソードで有名なトロイア戦争が始まることになります。
ところで、ここまで読まれて違和感を感じませんでしょうか。
リンゴは、日本では青森県や長野県など、寒冷地の特産品で、
地中海気候のギリシアにあったとは思えないですよね。

現在、黄金の林檎の候補として、「オレンジ説」 「マルメロ説」に
分かれていて、はっきりした結論は出ていません。この両者の果物も、
古代ギリシアにはありませんでした。オレンジはインド原産、
マルメロは西アジア原産で、当時文明の中心だったギリシアには、
輸入という形で入ってくる、遠い異国の産物だったんです。

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さて、東洋にも神々の食べる不死の果実がありますよね。桃です。
これは特殊な形をした蟠桃(ばんとう)という種類です。中国神話の
最高位の女仙、西王母は、その誕生日(3月3日)に、蟠桃会という
桃を食べる祝宴を開きます。これが、日本のひな祭りのルーツなんですね。

この桃を食べるとたいへんな長寿になります。『西遊記』では、天界の果樹園の
番人にされた孫悟空が、自分だけ蟠桃会に招かれなかったことに怒り、
果樹園の桃をむさぼり食って大暴れします。これによって悟空は不死の
体になり、お釈迦様によって五行山という岩山の下に封印され、
天竺へ向かう三蔵法師が通りかかるのを待つことになります。

で、この桃が神聖な果物であるということが日本に伝わってきて、
イザナギ、イザナミの黄泉返りの神話で、追いかけてくる黄泉国の軍勢に、
イザナギが桃を投げつけて追い返す話になってるんです。桃は、
日本ではこの当時、オオカムヅミ(大神実命)と呼ばれていたようです。

桃を投げて黄泉の軍勢を追い返すイザナギ
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さてさて、ということで、ギリシア神話の黄金の林檎が、シルクロードを経て、
日本神話へとみごとにつながりました。魔法植物については、
まだまだ書く内容があるんですが、もうだいぶ長くなってしまいました。
続きはまたの機会にしましょう。では、今回はこのへんで。