山野と申します。今、何というか・・・たいへん困惑する事態が起きてまして。
こちらは、そういうことを専門にする方々がお集まりということで、
ご相談にうかがったんです。私は、リアルマネートレーディングの会社の
副社長をしています。まだ30歳になったばかりなんですけども。
はい、うちの会社は、いわゆるベンチャー企業で、社員はみな若いんですよ。
社長は西木と言いまして・・・ああ、ご存知ですか。
そうです、先月亡くなりました。マンションの部屋で死んでいるのを、
訪れた知人が見つけて・・・はい、首がなかったんです。
本人とわかったのは、部屋や会社にある指紋と遺体のものが一致したのと、
あとDNA鑑定もしたので、社長なのは間違いないです。
はい、新進気鋭の企業の社長殺人事件、しかも首が消えてたということで、

マスコミにも大々的に取り上げられ、取材攻勢で一時期は会社も大騒ぎでした。
あれから1ヶ月たって、やっと少し落ち着いてきたところです。
警察からは、会社のほうにも情報が来るんですけど、
もちろん首は見つかってないし、捜査は進展していないみたいですね。
社長は独身で家族はなく、郷里のほうにご両親がいるだけです。
何から話せばいいんでしょうかねえ。私自身、すごく混乱してまして。
そうですね、会社のことからにします。私と社長は大学の同期なんです。
同じワンダーフォーゲル部に所属してました。
で、私は普通に卒業して就職したんですが、社長は就職せず、
世界放浪の旅に出たんですよ。私のところに2回絵葉書が送られてきました。
1枚はカンボジア、もう1枚が南米のペルーからでしたね。

はい、そういう人はそれなりにいますよね。
会社に縛られるのが嫌で、自由気ままに生きたいっていう。
社長はまさにそういうタイプだったんです。でも、若いうちはいいとしても、
年をとってから困る場合が多いですよね。世間はそんなに甘くありませんから。
ところが、卒業から5年くらいたって、日本に帰国してた社長から、
新会社を設立するから協力してくれないかって誘われたんです。
でね、話を聞いてみると、かなり現実的な計画があって、
しかも、大きな自己資金があったんです。社長の話では、南米のほうに
大資産家のパトロンがいるってことでした。でね、私もね、
それまでの会社にいても、ずっと下積みのままだし、思いきって社長の話に
乗ったんです。はい、それ以降は成功に次ぐ成功で、

どんどん事業が拡大していって、最初、社長と私と事務員2人で始めたのが、
今では従業員100人を超える規模になりました。
経営は順風満帆で、将来に何のくもりもなかったんです。
それと、社長が殺された動機もねえ、まったく心あたりがないんです。
だって、社長は明るく快活で、人から恨まれるようなタイプじゃないんです。
痴情関係もないと思いますよ。だって、ほとんどの時間会社にいたんですから、
女をつくる時間なんてなかったと思います。社長室にベッドが置いてあって、
週の大部分はそこでに寝泊まりして指示を出してました。
はい、その指示はどれも的確で、ズバリズバリあたったんですよ。
ですから、マスコミから天才経営者なんて言われてたんです。

・・・忘年会の話をします。今、会社の忘年会って、

 

やってるところが、どんどん少なくなってきてますよね。まず、飲酒運転

などのおそれがあるし、酒が入るとパワハラ、セクハラなんかも起きやすい。

けど、うちの会社の場合、会社全体での忘年会が4年前から始まったんです。
「ぜひやりたい、1年間の社員みんなの苦労にぜひむくいたい。
家庭の都合もあるだろうが、ぜひとも全員参加してほしい」こう言われましてね。
ええ、病気とかの場合をのぞいて、すべての社員が参加してました。
でね、この忘年会、一流ホテルで行うんですが、会費ってなかったんです。
全部、社長のポケットマネーから出たんです。これね、かなりの出費ですよ。
料理も一流、ワインも一流、それで社員は100人からがいるんですからね。
忘年会自体は、特別なことはやりませんでした。社長が一言あいさつして、
後は無礼講でみなで飲んで食ってくれってことです。

ほら、最初に話したように、社員はみな若くて、社長や私とも年が近いですから、
ものすごく盛り上がったんです。それとね、会の終わり頃にビンゴをやったんです。

で、その賞品もすべて社長持ちで、一番最初にビンゴした人の賞品は、なんと

1週間の有給と、賞金20万円、それとペアでのヨーロッパ旅行の

航空券だったんです。いや、見せたかったですよ。

あの盛り上がり・・・最初の年にあたったのは、石崎という男性社員でした。

まだ独身で、大喜びで彼女とヨーロッパに行ったんですが、
帰ってきてすぐね、事故で亡くなっちゃったんです。この死因がちょっと珍しくて、
聞いた話だと、アパートの浴室に針金を張ってタオルを干してたのが、
その針金に、どういうわけか首がからまっての窒息死ということでした。
まあでも、そのときは不運な話だなあとしか思わなかったんです。で、翌年です。
ビンゴで旅行にあたったのが、前澤っていう入試したばかりの女子社員。

彼女はね、感心なことに自分では旅行に行かず、航空券をご両親にプレゼント

したんです。それで・・・ご両親が戻ってきて1週間ほどして、彼女も

亡くなっちゃったですよ。舗道を歩いてるときに、脇を通った大型トラックが

道路標識を車体に引っかけ、それが運の悪いことに、彼女の首に直撃しまして。

首の骨は折れませんでしたが、気管がつぶれて、息ができなくなっての

窒息死・・・で、去年の忘年会です。ビンゴはもちろんありました。さすがにね、

過去に一等があたった2人がどちらも亡くなってるんで、

始まる前は微妙な雰囲気でしたが、でも、やっぱり偶然と

思うじゃないですか。始まったら大盛り上がりで、峰っていう、
やや年配の社員があたったんです。彼は既婚者でしたが、まだ子どもはおらず、
奥さんと2人で旅行に行き、帰ってきてすぐに亡くなりました。はい、窒息です。
これもニュースになりましたけど、大きな病院で回転扉に首をはさまれたんです。

でもねえ、ほら、子どもが回転扉にはさまれて亡くなる事故が前にあって、
ほとんどの回転扉は改修され、構造上、首がはさまるなんてありえないのに。
さすがにねえ、3人目となると社内でも噂が広がりました。あのビンゴは

呪われてるみたいな。しかも、全員が窒息死ですからねえ。そうしている

ところに社長の死です。もう社内はパニック状態でした。今は、私が社長代行と

いうことでなんとか切り盛りしてるんですが、大変です。これまで会社が

大きくなったのは、すべて社長の才覚のおかげで、私が果たした役割なんてないも

同然でしたから。それでです、社長の死がわかった2日後、社長秘書から封筒を

一枚渡されました。社長の生前、「もし自分に何かあったら、副社長にこれを渡して

くれ」と言われて、金庫にしまってあったものだそうです。で、封筒の中には、

聞いたことのない会社名と電話番号、それから大きな昔風の鍵が入ってたんです。

はい、すぐにその番号に連絡したら、貸し倉庫の会社だったんです。
社長が、会社名義で倉庫を一つ借りてました。でね、その日の退社後、
さっそくその倉庫会社に行ってみたんです。場所は埠頭に近いところで、
海が目の前にありました。会社からはかなり遠い、辺鄙な場所だったんです。
着いて事務所に連絡し、こちらの身分を述べると、トレーラに積む大きなコンテナに
案内されたんです。コンテナはいくつもあり、その最奥でしたね。
そこで案内係は戻り、見ると、コンテナには大きな錠前がついてたんです。
今どき、電子キーじゃなく錠前と鍵ですよ。信じられますか。
で、鍵を入れて回すと、カチリと音がしたので、
手でシャッターを押し上げました。中は真っ暗で、手探りで横の壁にさわり、
スイッチらしきものを見つけて押すと・・・

真っ赤な明かりがついたんです。中はバスよりやや大きい縦長で、突きあたりに

何か、像のようなものが見えました。前までいくと、人間より大きい不気味な

顔をした石像で、昔に社長が放浪した南米のものじゃないかって思いました。
その像が、背後から赤いスポットライトで照らされている。

なんでこんなものを社長がわざわざ貸し倉庫に入れ、

しかも自分が亡くなったら私に鍵を渡せなんて言ったのか?訝しみながらさらに

近づくと、像の前の祭壇に20cmくらいの先が丸くなった石の棒が置かれて

たんです。まるで捧げ物をするみたいに。でね、赤い光の中で、それぞれの棒に、

こう彫られてるのがわかったんです。「石崎○○、前澤○○、峰○○」・・・

ビンゴにあたって亡くなった3人の社員の名前です。それで、同じような石棒が、
像の傍らに、もう何本も積まれてたんです、何も彫られていないのが。もうすぐ、

忘年会の時期になりますよね・・・私はいったい、どうしたらいいのか・・・