日本時間の2019年4月10日夜、国立天文台を含む世界16の国と
地域の研究機関が共同で記者会見を開き、ブラックホールの「穴」
の撮影に成功したことを発表しました。撮影されたのは、
おとめ座にある楕円銀河「M87」の中心にある巨大ブラックホールです。
(現代ビジネス)


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今回はこのお題でいきます。科学ニュースサイトを見ると、
どこもすべてこの話題でもちきりなので、当ブログでも取り上げないわけには
いきません。なるべく間違えないよう、わかりやすく書きたいと思います。
さて、まずこのブラックホールですが、どこにあるんでしょう?

これは、おとめ座にある楕円銀河、M(Messier)87の中心部分です。
(ウルトラマンの故郷はM78星雲、ちょっと違います)
地球からの距離は、約5500万光年と計算されています。
このブラックホールの質量は、太陽の約65億個分。さらに、
大きさは直径380億キロにわたり、時計回りに回転しているそうです。

Messier87
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じつは地球からもっと近いところにも、ブラックホールの候補(いて座A)
があるんですが、今回観測されたブラックホールはそれよりもはるかに重く、
また、周囲をとりまくガスの移動する状態が観測に向いていたんですね。
じゃあ、これまではどうして観測できなかったんでしょうか?

簡単に言うと、電波望遠鏡の力が足りなかったからです。今回の観測は、
国際協力ブロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」
が行ったものです。米国のマサチューセッツ工科大学とハーバード大学を中心に、
ドイツやオランダなどの欧州、また日本や台湾などのアジア、
そしてメキシコやチリも参加する、たいへん国際的なプロジェクトです。

世界各地にある8つの電波望遠鏡を結合させて出力をあげたものを使用し、
ハッブル宇宙望遠鏡の2000倍の解像度があり、
あんまり意味ないですが、人間の視力に換算すると300万になります。
それで、撮影に成功することができたんですね。

世界各地の8つの電波望遠鏡
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次、この画像の中心の黒い穴がブラックホールなんでしょうか?
厳密にいうと違います。たんにこの画像だけを見ると、中央の穴の部分が
事象の地平線(ブラックホールの中から光をふくめ何も
脱出できなくなる面)だと思われるかもしれませんが、そうではなく、
これは「ブラックホールシャドウ」と呼ばれるものです。

ブラックホールはまったく光を出さない一方、重力で周囲のガスを集め、
そのガスが降着円盤として明るく輝きます。このような明るい円盤を背景に、
ブラックホールの光が出てこない部分が黒い影として見えるのが
ブラックホールシャドウなんですね。また、周囲のオレンジの光は、
ブラックホールに吸い込まれている超高温のプラズマガスが放つ電磁波です。

ブラックホールに近づいた電磁波は、ブラックホールに吸収されてしまいますが、
そのとき空間がゆがめられた結果、電磁波がブラックホールの周囲を
回り込むようにして縁どるため、リング状に見えるわけです。それが観測
されたということは、ブラックホールが実在する確定的な証拠になります。

さて、ここからはブラックホールについての一般的な解説です。
1915年、アインシュタインが一般相対性理論を発表しました。
そこでは、重力によって空間と時間がゆがめられる世界が、
宇宙方程式で記述されています。よく使われる例えとして、
3次元を2次元に落としたゴムマットが持ち出されます。

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ゴムマットを張った上に、重い鉄球をのせるとマットがたわみます。
それが空間のゆがみなんですが、もし大きさはそれほどでもないのに、
ものすごく重いものをのせたらどうなるでしょう。
マットに穴が空きますよね。その穴がブラックホールというわけです。
中心部分は温度・圧力無限大の特異点になっています。

特異点では、あらゆる物理法則が破綻し、数式が成り立たなくなります。
この問題を生涯をかけて追求したのが、故ホーキング博士です。
では、ブラックホールの概念を最初に提唱したのは誰かというと、
ドイツの天文学者・数学者で、幼時から神童と呼ばれた
カール・シュヴァルツシルトです。

カール・シュヴァルツシルト
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彼はアインシュタインの理論が発表されてすぐ、宇宙方程式を厳密に解き、
特異点の存在に言及しました。ですが、アインシュタインは、
それはあくまで数学的なもので、実際には存在しないと考えました。
シュヴァルツシルトがどう考えていたかはよくわかりません。というのは、
論文発表の4ヶ月後、第一次世界大戦の従軍中に病死してしまったからです。

これ、前にも少し書いたんですが、人間の想像力は数学に追いつかないんですね。
数学的に存在が示されても、人間の側で「そんなバカなことがあるはずがない!」
と切り捨ててしまったのが、後になって観測で証明されたというケースは、
この他にも、量子力学などでもいろいろあるんです。

どうしても人間は常識に支配されてしまうんですが、じつはこの世界は、
人間の想像力を超えた形で成り立っているわけです。これなんか、
自分は素人ですが、物理学、天文学が面白いなあと思う部分です。
さて、ブラックホールでは空間と同時に時間もゆがみます。

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それについても書こうと思ったんですが、残念ながら余白がなくなってきて
しまいました。いつかまたふれる機会もあると思います。ブラックホール内では、
時間についてもたいへんに奇妙な現象が起き、最近提唱されている
ホログラフィック理論にまでつながっていく話なんです。

さてさて、ということで、ブラックホールの直接観測という画期的な成果に
ついて見てきたわけですが、これはノーベル賞候補になるんでしょうか。
観測は誰がやっても同じになる客観的な事実なので、なりやすいとは思いますが、
自分にはよくわからないですね。では、今回はこのへんで。