配管工 山田洋平さんの話
俺よ、趣味が車なんだよ。あ、今乗ってるのはシーマってんだ。
日産の車。もちろん新車じゃねえよ。俺の給料じゃ新車なんか買えねえし、
それによ、これは本気で言ってるんだが、新しい車なんてツマンネエだろ。
そりゃ便利で故障しないかもしれねえが、それだけのこった。
旧車は自分でいじる楽しみがあんだよ。車高下げて、ホイール変えて、
エアロつけて・・・ああ、スマン、本題に入るよ。

こないだな、ダチのやってる整備工場に行ったわけ、別に故障とかじゃなく、

オイル入れるためだよ。オイルはマメに替えてるんだ。

したらダチが、「今よ、すげえ評判になってるチェーングッズがある」
って言うんだ。「え、何だ?」 「宇宙パワーオキニスってんだが、
知らねえのか、お前、ヤバイだろそれ」って。

話 聞いてみると、そのグッズをエンジンルームに貼っつけると、
燃費が向上し、車のトルクも上がるってんだな。どうやらネットで評判に
なってるらしいが、俺は知らなかったんだよ。大手のカーグッズ店には
置いてなくて、通販だけで売ってるらしい。こりゃあしまった、
って思った。俺はその手のもんが大好きで、愛車にはあちこち、
いろんなもんをつけてるんだ。でな、値段聞いてみたら、そんなバカ高くない。
2万ちょっとだった。でな、いくつか取り寄せてあるって言ったんで、
思い切ってつけてもらったのよ。施工時間は10分程度、
ホントにエンジンの横っちょに小さい機械みたいなのをくっつけるだけ。
でな、工場を出てから、さっそく高速に入って飛ばしてみたわけ。
するとどうだ、80キロを超えると俺の愛車はギシギシ言い出すんだが、

それがまるでねえ。鏡の上を走ってるみてえに滑らかだったんだよ。

しかもだ、1時間以上走って戻ってきたのに、まったくガソリンが

減ってなかった。こらありえねえだろ。すっげいいものを買ったなって

思ったね。で、次の土曜日、彼女を誘ってドライブに出た。

ファミレスで飯食って、2時間くらい高速を走ってから、ラブホに入る。

まあ、いつものパターンと言うか、今の彼女とはもう4年目だからな。
ちょっとマンネリ気味なんだが。それで、車のほうは快調もいいとこで、
道路に吸いつくように安定しててな。ふっと気がついたら150キロを

超えてたんだよ。ああ、そんなにスピード出せる車じゃないんだが、これも

宇宙なんとかのパワーのせいだと思った。あと少しで高速を下りるってとき、

それまで黙ってた彼女が変な声を出した。「ギガ、ギガコガギガ」
 

こんなふうに聞こえた。何だ?と思って見ると、彼女が口を半開きに

してたんだが、その中が緑色に光ってたのよ。あと、目の焦点も合ってなかった。

「お前、どうしたんだよ」俺がそう言うと、彼女の口から緑の光線が出たんだ。
これ、嘘じゃなくてホントに見たんだよ。その緑色はあっという間に
車の中いっぱいに広がって、俺は前が見えなくなった。
「ギガギゴガ、ギーコ、ギーコ」彼女が出してるらしい声が聞こえ、
俺のほうにおおいかぶさってきた感じがした。とにかく、何も見えねえんだよ。
とっさにハザードをつけて車を路肩に寄せた・・・つもりだったが、
そっからのことはよく覚えてねえんだ。何十分たったのかなあ。
ふっと気がついたら車は停まってて、俺らは高速のパーキングにいたんだ。
入った覚えはないのに。でな、彼女は助手席で眠ってるように見えたんで、

肩を揺すって起こしたら「あ、ゴメン、ちょっと眠っちゃった」って言う。
でな、そんときすげえ小便がしたかったんだよ。だから「トイレに行く」って
言ったら、彼女も行くって言うから2人で車外に出た。でな、俺は男子便所に

入って小便したら、なんと出てきた小便が緑色で光ってたんだよ。何だこれ、

って思った。けどよ、小便が変な色になったのはそんときだけだったから、

医者には行ってねえ。で、車に戻ろうとしたとき、彼女が空を見上げて

「あれ、何?」って言った。「ええ?!」UFOって言うんだろうな。
かなりでかいやつが、俺たちの真上に浮いてたんだ。しばらくそのままでいたが、

急にスピードを上げて山のほうへ消えた。ま、こんな話。え、宇宙パワー? 

それがな、車の調子がよくなったのはそんときだけで、今は普通に戻っち

まったんだよ。ああ、高い買い物だった。あとでダチに文句言っとかなきゃならん。


自動車整備工 村野憲司さんの話
ああ、宇宙パワーオキニスのことっスか。最初はうちの若いもんがネットで

見つけて、自分の車につけてみたらすげえよかったって言うんで、乗せて

もらったんス。俺ね、そんなのはただのオカルトだと思ってバカにしてる

とこがあったんスが、そしたら、そいつのはしょぼい軽なのに、ありえねえ

加速をするんス。まるでベンツのAMGに乗ってるみたいな。こりゃすげえって

思ったんス。勤めてる工場でも扱えないかって考えたんスが、ネット販売しか

してねえって言う。それで社長に、これ連絡して卸してもらえないかって

言ってみたんスよ。そしたら、お前が言うならそうしてみっかって話になって、
1週間後くらいに発売先から10個が届いたんス。卸値で売ってもらえたが、
個数は限定してるってことみたいで。でね、役得というか、
一つわけてもらってつけてみたら、やっぱスゲえんスよ。

まるで飛ぶように走るっていうか、雲の上を滑ってるような感じで。
いや、どんなしくみなのかはわからないっス。俺はこれでも2級整備士の免許
持ってるんス。けどね、あんな小さい機械をエンジンに貼っつけるだけで、
車の性能があれほど変わるってのは、まるで魔法っスよ。
分解して調べるなんてことはしなかったっス。ああ、今思えば、
そうしとけばよかったかもしれないスね。で、すげえいいもんだと思って、
車の整備にくるダチみんなに、自信を持って薦めたんス。
ああ、その山田ってやつにも買わせました。え、俺?
いや、特別に変なものを見たってことはないっス。緑色の小便?
いやまさか、そんなことはなかったスけど、緑色ってのは何か、
関係があるのかもしれないっス。その宇宙パワーね、

残りは在庫としてガレージの奥にしまっといたんス。もちろんガレージは
鍵かかるし、それ入れてた戸棚も。それがね、取り寄せてから10日目くらい
だったんスが、工場に泥棒が入ったんス。夜中に鍵が全部開けられててね。
でも、盗られたのはその宇宙パワーだけだったんス。
まあね、工場だから現金とかは置いてないし、金目のものたって工具ぐらい
なんスけども。もちろん警察は呼びましたよ。それで、ガレージの中だけど、
緑色のゼリーみたいなもんでべちょべちょになってたんス。
鍵穴とかを中心に、あっちこっちにくっついて気味悪く光ってました。
そしたらね、そのせいか、警察とは別のチームが来たんス。
あれ、自衛隊なんじゃないかなあ。特殊部隊っていうのかな。
よくわからないスけど、防護服みたいなのをつけたやつらが特殊車両で来て、

あっちこっち棒みたいなのを突っ込んでました、ガイガーカウンター?
さあ、わかんないっスよ。そいつらは緑色のゼリーを採取して、
残ったのは火炎放射器を使って焼いてました。あとね、社長をはじめ、
俺ら工員全員が、大きな国立病院で検査を受けさせられたんス。
いや、特に異常はなかったみたいスけど。それでね、
さらに1週間後くらいっス。俺の車はアパートの駐車場に置いてあるんスけど、
朝に乗ろうとしたら、ボンネットにあの緑のゼリーがべとっとついてて、
あ、これは!と思って中を開けたら、宇宙パワーがなくなってたんスよ。
工場と同んなじやつらがやったんスかね? いや、警察には言わなかったス。
俺、警察嫌いでね。その緑のゼリーは水道のホース使って
きれいに洗い流しておいたんス。奇妙な話っスよねえ、どういうことなんスか?

陸上自衛隊 隊員 木村翔太さんの話
これ極秘なんですけど、上官のほうからここで話してこいって言われましたので。
はい、こないだ極秘の任務があったんです。夜中に、山の中にある
工場らしきところを自分ら特殊チームで急襲したんです。もちろん完全武装で。
でも、そのかなり広い工場はもぬけの空、誰もいませんでしたし、
機械類も残ってなかったんです。中は、壁といわず床といわず、
緑のゼリーみたいなものでべとべとになってました。
それ全部、火炎放射器で焼いたんですよ。まあ、負傷することもなかったし、
特殊手当も出たんでよかったんですけど。でね、作戦が終わって工場の外に出たら、
空に巨大なUFOが浮かんでたんです。いや、初めて見ました。
隊長が航空自衛隊に連絡してましたが、UFOは何度も光を明滅させながら、

ゆっくりと山の陰へと飛び去っていったんです。