tshhst (6)
「耳なし芳一」

今回はこういうお題でいきます。洋の東西を問わず、文字が力を
持つといった話はよく耳にします。ただ、この場合、
音声と結びついていることが多いんですよね。でも、それだと
「呪文」になってしまいますので、今回は純粋に
文字(表記)だけのオカルトについて考えてみます。

西洋では、力を持つ文字としては「ルーン」が、まずあげられる
でしょうか。ファンタジー小説やゲームにもよく登場します。
これは古代のゲルマン人が用いていた文字体系で、
表音文字のうち、音素文字と呼ばれるものです。

ルーン文字 最初の1行がフサルクという音素
tshhst (7)

「ルーン(rune)」という名称の語源としては、「秘密」を意味する
ゴート語からきていると言われますが、はっきりしません。
ルーン文字は、最初の6文字をとって「フサルク」とも呼ばれます。
実際に見てもらえればわかりますが、ひじょうに素朴な感じがします。

現在の魔術では、ルーン文字は、呪術や儀式に用いられた神秘的な文字
などと言われたりしますが、実際にはそんなことはなく、荷札や伝票など、
日常ふつうに使われていました。魔術に関係があると言われるように
なったのは、ラテン文字が広く普及してからのことです。
ルーン文字は、ラテン文字にいくつか転用されています。

さて、自分が、文字が印象に残っているホラー作品は、
1999年公開のアメリカ映画、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
ですね。黒い森の中にある存在しないはずの廃墟の壁に
手形とともに書かれていた文字です。最初、ルーン文字かと
思いましたが、よく見ると少し違います。

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
tshhst (2)

この映画は、「モキュメンタリー( 疑似ドキュメンタリー)」として
話題を集めました。評価は賛否両論がありますが、
自分は面白かったです。さまざまな伏線らしきものが提示されるものの、
最後まで観ても、謎はまったく解決しないという内容は
実話怪談に通じるものがありますね。

この映画に低評価をつけた人は、手持ちカメラのグラグラ揺れる映像で
気持ちが悪くなったせいもあるんじゃないでしょうか。
自分は、これを考えた人は頭がいいと思います。まず、超低予算
ですよね。ずっと野外撮影で、CGどころかセットすらありません。
3人だけのキャストはすべて無名の新人。

それであれだけ話題を読んで興行収入を上げたんだから、
たいしたものだと思います。あ、映画の話ではないので、
これくらいにしておきます。西洋には、「シジル魔術」というものも
ありますが、これは文字というより紋章ですね。イギリスの秘密結社、    
「黄金の夜明け団」が使用して有名になりました。

「シジル魔術」
tshhst (4)

さて、東洋のほうはどうでしょうか。オカルト的なパワーを持った
文字としては、まず漢字があげられると思います。
自分は、これだけ複雑な構成要素を持った表意文字ができたのは、
奇跡に近いことだと考えてるんです。

漢字の起源は古く、甲骨文字がもとになってるのはご存知でしょう。
甲骨文字は主に占いに用いられ、その結果で生贄の数が
決められていたんです。商(殷)の遺跡からは、生贄になった人骨が
14000体も出土していますが、このことと漢字の発生は
深い関係があります。

甲骨文字 焼いてひびわれを観るため甲骨に記された


ですから、何気ない漢字にも恐ろしい意味を持つものがあります。
例えば、「道」という漢字は、首を手にたずさえる形から生まれ、
荒れ地にいる災いをなす鬼神を祓い清めるために、斬った人間の
首を掲げて道をつけていく様子を表す、などと言われます。

で、もともと力を持っている漢字が、さらにお経になると、
いっそうパワーを発揮します。何を言いたいかもうおわかりでしょう。
「耳なし芳一」の話ですね。平家の怨霊に目をつけられた
芳一の姿を隠すため、寺の住職は全身に般若心経を書き込みますが、
耳にだけ書き忘れてしまったために・・・

お経は、声に出して読まなくても、文字として存在するだけで
力があるとされました。これは梵語の場合も同じです。他にも、
経蔵にしまわれていた経文の文字を食べた紙魚(しみ 虫の一種)が、
不思議な力を持って怪異をなすといった話もあります。

tshhst (3)

興味深いのは、四国の某地方に伝わる話で、そこには幼くして海に沈んだ
とされる某天皇がじつは落ちのびてきて、一行が集落の菩提寺に
泊まったときに、礼として書き溜めておいた経文を当時の住職に下した。
そのようないわれのあるものが、いまだに寺に残っていて、
経文はところどころ四角く切り取られた穴が開いている。

どういうことかというと、まともな薬も医師もなかった時代に、
病人が出た家の者が住職のところにやってくると、
うやうやしく経文から小刀で一字を切り取って与えた・・・
ありがたいお経、しかも天皇が自ら写したものだとすれば、当時の人が
飲めば病気が治ると考えても不思議はないかもしれません。

さてさて、この他、文字のオカルトには「神代文字」というのもあり、
漢字伝来以前に古代日本で使用されたと言われるんですが、
確証にとぼしいものばかりです。昔から、日本が中国由来の
漢字を使っているのが気に入らない勢力もあったんですね。
この内容もまだ書くことがありそうですが、まずはこのへんで。

神代文字の一種
tshhst (5)