今晩は、Bと言います。仕事は星占いをやってるんですが、
それだけだと食っていけないので、歴史雑誌なんかに雑文を書いてます。
あとは趣味でオカルトの研究をしてるんですけど、今からする話は、
そっちのほうに関係があるんです。あの、コンビニDVDってありますよね。
コンビニでは見かけるけど、まともな本屋じゃ見つけるのが難しい。
グラドルとかが多いけど、中には心霊系もあります。ただ、心霊のDVDが

出るのは、ほぼお盆期間限定ですね。え、そんなのインチキだろうって?
・・・まあそうです。CGで雑な幽霊をつくって、心霊スポットのシーンに
埋め込めばいっちょうあがり。そういうのがほとんどなんですけど、
そんな中にもランクってのがあるんですよ。まずね、ネットで拾える
映像を集めて編集したもの。これはさすがに買う価値ないです。

次が、いちおうロケをして自分らで映像を撮ってくるんだけど、
行くのが近場の有名心霊スポットってやつ。例えば、東京だと、八王子城とか
千駄ヶ谷トンネルとか、関西だと深泥ヶ池とかね。さすがにつまんないって
わかりますよね。あと、新人の女性タレントが出てるやつもダメです。
その娘を売り出すためのプロモーションが目的になってたりして、
それだと心霊方面は期待できないのはわかるでしょ。下手クソな演技を

見せられるだけです。僕が唯一買う価値があるかなって思うのは、
編集部が自分らで調べた、人に知られてない心霊スポットでロケしてきたやつ。
そういうのは資料的な意味もあって、980円くらいなら買うように

してるんです。で、去年の夏ですね。その手のコンビニDVDを買いました。
そこそこ大手の出版社で出したものなので、それなりに信用できるかと思って。

全部で50分くらいで、4ヶ所の心霊スポット映像が入ってました。
なかなか面白かったですけど、最後の映像がパソコンで再生できなかったんです。
それは関東の〇〇県にある、バブルのころにできた廃遊園地が舞台でした。
何度題名をクリックしても、映像が開かないんですよ。
最初はこっちのパソコンが調子悪いのかと思ったけど、そうでもない。
で、どうしたかっていうと、そこの出版社に電話してみたんです。
「あ、どうも、コンビニで売ってた○○ってDVDを買ったんですけど、
中に一部、再生できない映像があるんですが」 「あ、すみません。
それ、映像制作の会社に外注したものなんです。お手数ですが、こちらに
連絡してもらえますか」というやりとりがあって、改めてかけ直しました。
しばらく呼び出し音があって、あきらめて切ろうとしたときに相手が出ました。

「あの、○○ってDVD買った者なんですけど、最後の話が再生できなくて」
「・・・すみませんでした。こちらの手違いです。お手数ですけど、
こちらあてに現品を送っていただければ代金をお返しします」 「え、返金して

るんだ。そら大変だね。再生できるやつは送ってもらえないの?」 「それが

ですね、第4話は、こっちの元映像も再生できなくなっちゃってるんです」 

「それ、パソコンに取り込んだ映像ってこと?」 「カメラもパソコンも

どっちもです」 「へー、興味深いね。返金はいらないから、

話聞かせてよ」 「いいですけど」 「あの心霊スポットって、○○パークだよね」 

「そうです」 「実際に行った?」 「はい、行きました。4時間くらい

ロケしてきましたよ」 「何が映ってたの?」
「それが、最後のほうに撮ったコーヒーカップ、あの乗るやつですけど、
その中にたくさんの蛇に見えるものが映ってたんです」 「蛇?」

「いや、本物の蛇ではないですけど、なんというか、光の束みたいなのが無数に

集まってからみあってる映像です」 「へええ珍しいね。そっちの編集部が

つくったわけ?」 「いやそれが・・・ぶっちゃけた話をすれば、

前の3つの話はこちらでCGを入れたんですが、それだけは本物というか、

何の加工もしてないんです」 「ますます興味深い。そのカップの中には

何もなかったんだよね」 「いや、カップの中はカメラマンしか
見てないんです」 「ははあ、じゃそのカメラマンの人に話聞かせてもらえるかな。
じつはね、こっちも同業者みたいなものなんです。会えますかね?」
「うーん、それがねえ、カメラは木山さんって言うんですけど、ここ1週間くらい
連絡がつかないんです」 「え、携帯にも?」 「はい」 「それ、

失踪ってこと?」 「いや、あの人、昔からお金が入ると、ふらっと海外に
行ったりするし、連絡がつかないのもよくあるんで、失踪とは考えてないです。

ただ、来週から次の撮影が入ってるんで、連絡取るのは続けます」
長々と説明しましたけど、こんな話をしたんです。ねえ、がぜん興味がわいて
きますよね。それで、次の土日をかけて関東遠征に行こうと考えたんです。
ただ、その光の束みたいなのは、単なる撮影ミスの可能性が高いだろうし、
無駄足になってもいいように、仲間を誘ったんです。僕と同じ共同事務所の
Yってイラストレーターです。この話をして、土日ヒマかって聞いたら、
ぜひ行きたいって言ったので、新幹線で大宮まで行き、そこでレンタカーを借りて、
その県に入ったのが3時過ぎくらいでした。それからさらに1時間半くらい、
途中道に迷ったりしながら、なんとか廃遊園地を見つけたんです。かなりの郊外に
あるんで、僕ら以外の車はなかったです。時間は5時近くになってましたが、
9月なのでまだ1時間は明るいだろうと思いました。

さすがに、人のいない遊園地は不気味でしたね。とにかく、鉄製のものはみな赤く
錆びてるんですよ。それが雨で流れて血みたいに見える。僕がビデオ、
Yがデジカメでそこらを撮りながら進んでったら、コーヒーカップの遊具は
入り口からわりと近いとこにありました。カップは全部で8つ。この遊園地も、

ありしころには両親と幼児がこのカップに乗って、なんて考えました。それぞれ

全部中を撮りました。何もない・・・いや、一番手前のカップに蛇の死骸・・・
だと思ったら、脱皮した抜殻が一つ入ってました。まあでも、遊園地内に植物が
侵入してきて、そこらじゅう草ぼうぼうでしたから、最初に見つけたときは
ぎょっとしたものの、不思議なことじゃないとも考えました。でね、ここ、

大事なとこなんですけど、僕らは画像も映像も全部モニターで見たんです。
光の束なんて映ってなかったし、もちろんそれ以外のものも。

1時間と少し遊園地にいて、コーヒーカップ以外も撮影しましたが、
それにも変なものは映ってなかったはずなんです。それから、僕らは車を飛ばして
東京まで戻り、一杯やってホテルにチェックイン。翌日は半日東京で遊んで、
こっちに戻ってきたんです。それでね、1日おいた火曜日の午後、共同事務所で
またYといっしょに遊園地の画像を見たんです。そしたら、ビデオ映像のほうです。
カップの一個の中に、あんまり明るくはない光の束・・・

うまく説明できないんですが、それがDVDの制作会社の人が言ってたとおりに、

弱く光りながら何百本もからみあって動いてる。

それ、位置からして、あの蛇の抜殻があったカップだと思いました。
僕とYが同時に「あ!」と言ったとき、パソコンがフリーズしたんです。
まあ、マックは直りましたけど、動画のファイルは開けなくなってしまって。
はい、DVDと同じ現象が起きたってことです。

それで、今度は写真のほうを見たんです。そしたら・・・2枚目のカップの底に、
土下座するようにして倒れてる人がいたんですよ。ありえないでしょ。
そんなのがあったら、絶対にその場で気がつくはずです。
その人はザックを背負ってて、体がぐっしょり濡れてるように見え、
さらに上に草がかかってたんです。でね、この画像のほうは消えなかったんです。
今も持ってます。弱りましたよ、だって生きてるように見えないんですから。
Yと相談した結果、向こうの県の警察に通報しました。
説明に困ったんですが、「心霊スポットの撮影に行ってあちこち写真を撮った。
そのときは気づかなかったけど、帰ってきてから見たら人が写ってた」
こう話したんです。大きくは事実と違わないですよね。で、念のために向こうの
警察が廃遊園地を捜索したら、コーピーカップの中で実際に人が死んでたんです。

もうわかりますよね。DVDの撮影をした木山っていうカメラマンでした。
死因は睡眠薬の中毒。木山さんのモバイルパソコンに、意味不明ながらも
遺書らしきものがあり、自殺って結論になったんです。僕とYは、地元の警察から
話を聞かれ、写真も見せて警察はコピーして持っていきました。
疑われてた感じはなかったです。どうやら木山さんには自殺の
動機もあったみたいで。こんな話なんですが、まったく意味がわからないですよね。
・・・でねえ、後日談とはまた違うと思うんですけど・・・
木山さんの死体画像を見つけたときから1週間後くらいですか。僕とYで、壊れた

映像ファイルをあれこれ いじってたんです。なんとか回復できないかと思って。
そしたらパソコンの上にふわっと、蛇の抜殻が落ちてきたんです。
さすがにありえないでしょう! 僕らの事務所は大阪の街中にあるのに。