bigbossmanです。1週間ほど前、自分が大学のときに卒論を指導して
いただいた先生の退官記念パーティーに出席しました。
といっても、自分が卒業した大学の主催ではありません。
先生は定年退官後、別の大学に名誉教授として招かれ、
そこで74歳まで教鞭を取られてたんですね。すごいことだなあと
思います。自分は大学では史学、中でも考古学を専攻したため、
そのパーティは考古学関係の大先生が大勢来ておられ、
自分が占い師をやってることを知っている先生方が多かったので、
冷やかされることしきりでした。ま、他にそんな人はいませんからねえ。
当時の同期や先輩後輩の中には、このブログのことを知っていて、
読んでくださっている方もそれなりにいました。

で、2次会の途中で先生が帰られることになったので、若輩者の
自分ともう一人がタクシーでお送りすることになりまして、
その車内で先生は、「bigbossman君、君、オカルトのブログをやって
るんだってんねえ」とおっしゃられ、大変恐縮しました。先生は続けて、
「いや、そういう弟子がいるのも面白いよ。私もね、長年発掘調査を
やってるから、不可思議なことはいくつか体験しているから」
「あ、よろしければお聞かせください」ということで、
2日後に先生のお宅に伺い、聞かせていただいたのが以下の話です。
先生のご自宅は神戸のほうにあり、質素と言えるたたずまいでした。
「あれはね、私がまだ学生の頃、3年生だったな、大学が主催する
発掘調査に下働きとして同行したときの話だよ」

現在の発掘調査は、ほとんどが地方自治体の教育委員会が主管して
いますが、昔は大学が主体となって行うことも多かったんです。
「滋賀県の前方後円墳、琵琶湖東岸の〇〇古墳ね。当時は、年代は4世紀
半ば以降と見られてたが、最近は3世紀後半まで早まってる」
こう言われれば、さすがにどの古墳のことかはわかります。
「ははあ、このところ大和と近江の関係の重要性が強く言われるように
なってきてますよね」 「そう。その発掘は表土をはがすとこまで
終わって、作業員さんたちの手作業に入ったとこでね」
ここで少し説明させていただくと、古墳の発掘の場合、盛り土に木が
生えていたら、伐採して根を掘り起こし、表面の土を一定の深さまで
削ります。それは委託された建築会社が重機を使ってやるんです。

そこで測量をやり直し、作業員さんたちがスコップを使って手作業で
掘り進めていく。作業員は、近辺の主婦の方などのアルバイトが
多いですね。「で?」 「私と同期の仲間数名で、出てきた土器片
などを洗浄し、スケッチし、番号をつけて整理分類してた」
「そのあたりは今と変わりませんね」古墳の発掘というと、
映画のインディ・ジョーンズを連想される方もいるかもしれませんが、
実際はきわめて地味な作業の積み重ねでなんす。「で?」
「当時は今と違って、夜間は警備保障なんかは頼まず、学生が
仮設テントに泊まり込んでたんだ」 「ああ、なるほど」
「3人グループで交代してテントに泊まるんだが、発掘中の古墳を
荒らしにくる者なんていない。だから、お酒を持ち込んでて、

皆で飲んでから寝たんだよ」 「はい」 「そのときに夢を見た。
これがなんとも恐ろしいものでね。気がついたら夜の古墳の上に
いたんだが、体が動かない。正確には、手は動くが足がダメだった。
真っ暗でわからないが、腰のあたりまで土に埋まってるんだと思った」
「夢の中なのに真っ暗ってことですか」 「そうだ。手で探ると、
すぐに土にさわる。あと、体には薄いザラザラした布を着てる
ようだったな」 「で?」 「とにかく寒いんだよ。それとだんだん
心細くなってきた。夢とはわからないから、何で自分がこんな状態に
なってるか思いもつかない」 「はい」 「そのうちに、動物の
鳴き声が聞こえてきてね。ワオーンという遠吠え。それが重なって、
たくさんの数がいるとわかる」 「野犬ですか」 

「そのときはそう思ったが、今から考えると狼だったのかもしれない」
「で?」 「そいつらがだんだん近づいてきて、タッタッという足音や、
ハーハーいう息づかいが聞こえる。どうも円を描くように私の
まわりを回ってるみたいなんだ。その円がだんだんせばまって、
獣臭さがしてきた。もう、すぐそこまで来てる」 「怖いですね」
「息がかかるほどの近くにいる。これはダメだ、喰われるのか、
そう思ったときに、ギャーという悲鳴が聞こえて目が覚めたんだ」
「それは先生の悲鳴じゃないんですね」 「ああ、テントに寝てた
3人が同時に立ち上がり、私がカンテラをつけた。悲鳴を上げたのは
仲間の一人だったんだな。それで、毛布をかけて寝てたんだが、
3人とも腰から下が土まみれになってたんだよ」

「うーん、それで?」 「体には特にケガしたようなとこはなかったから、   
3人で話をしたら、驚いたことに他の2人も私と同じ夢を
見ていたんだよ。下半身を土に埋められて、周囲を動物に囲まれてる夢。
どういうことなのかは誰もわからなかった。ただ、体についてるのは
古墳の土とよく似てたな」 「不思議な話ですねえ。先生のグループの
前後にも学生が泊まってたわけでしょ。その人たちは夢は見なかったんですか」
「私たちだけみたいだった」 「どうしてなんでしょうか」
「その翌日の発掘作業で、前方部に穴の跡が3つ見つかったんだよ。
穴があったかどうかは、中の土の色が違っているのでわかるだろう」
「はい」 「穴は3つとも人の下半身が入れるほどの深さで、当時の見解では、
古墳造営のときに出たゴミを埋めた穴じゃないかってことになった」

「うーん」 「ただ、私たち3人は、そこに人が埋められてたんじゃないかって
考えたけどね」 「それ、おっしゃらなかったんですか」 「偉い先生方の前で
夢の話はできないよ。今とは違って師弟関係が厳しかったし」
「惜しかったですね。現在の技術なら、残存脂肪酸なんかを測定して、
人が埋まってたことを証明できたかもしれません」 「うん・・・
その後も何度か宿泊したが、もう夢を見ることはなかったな。それで、
〇〇古墳が特異な遺跡なのは知ってるだろう」 「はい、石槨と舟形木棺が
見つかったものの、副葬品は一切なしで、おそらく木棺にも人は入って
なかった」 「そう、よく覚えてたな。寿陵(生前にあらかじめ作っておく墓)
だったのが、何かの理由で使われなかったとしても、上部を塞いでしまって
るのは不自然だ」 「はい」 「そのあたりのことは今もわからないままだな」

「まだ続きがあるんですよね」 「ああ。当時ね、私はすでに女房と
同棲してたんだ。4年のときに学生結婚したが。それで、発掘が一段落して
部屋に戻ったとき、女房が、変なことを言い出したんだよ」 「なんと?」
「私の足が光ってるって。蛍光塗料を塗ったようとも、クラゲみたいに
内部から光が出てるようにも見えるって。でも、私にはそれは見えなかった」
「はい」 「ただね、女房の言うことは信じたよ。女房はほら、京都のある
神社の生まれだったろう」 「そうでした」 「だから、ときどき不思議な
ことを言うけど、まず外れることはなかった」 「で?」
「お祓いを受けたほうがいいってことで、女房の実家に行ってわけを話したら、
それだけでは足りないだろうって言われて、京都の山中で禊をした。
胸まで滝壺に浸かることを何度かくり返したら、光は消えたみたいだった」

「うーん、解釈が難しい話ですね。後日談などはありますか」
「それが、嫌なのがあるんだ」 「ぜひお聞かせください」
「私と同じ夢を見た同期の仲間2人な。その2人にはお祓いの声は
かけなかったんだよ。当時はそこまで気が回らなかった。で、卒業後、
一人は有名なゼネコンに入って、工事で遺跡が出てきた場合の担当になった」
「ああ」 「で、3年後、立ち会っていた工事で重機の事故が起き、
下半身不随になったんだよ」 「う」 「もう一人は、社教主事の資格を
取って、ある県の教育委員会に勤めたんだが、5年後だったか、
やはり発掘中の事故で下半身不随、2人ともケガから数年後、失意のうちに
亡くなってる」 「うう」 「このことがあってね、私は古いものに
対する畏れを持ち、慎重に行動するようになったんだよ」