こんばんわ、よろしくお願いします。宇田ともうしまして、
地方公務員をしております。さっそく話を始めさせていただきます。
これ、僕が小6のときのことです。ですから、今から15年
以上前のことになりますね。当時、〇〇市の賃貸マンションに
住んでました。家族は両親と、小4の妹です。
それで、賃貸マンションだからせまいですよね。僕の部屋は
妹と共有で2段ベッドで寝てました。それがすごく嫌だったんです。
まあ小学生と言っても男女ですし。ですから、何度となく両親に、
「自分だけの部屋がほしい。もっと広い家に引っ越そうよ」って
訴えてたんです。それが効いたのか、あるとき父親が、
「そうだなあ、そろそろ郊外に建売でも買うか。

けどそうすると、お前転校しなくちゃなんなくなるぞ」
こう言ったんです。「やった!」と思いました。引っ越すと今の
仲間とは遊べなくなるけど、中学生になれば部活に入るだろうし、
そこで新しい友だちもできると思いました。ええ僕、小4から
ずっとスポ少で野球やってたんです。で、父親の言葉どおり、
中学からは新しい家に住むことになったんですが、これから話すのは
マンションでの最後の年のことです。夏休み中だったと思います。
夕食のとき、母が父に「ねえ、マンション自治会のちらしで、
今度屋上に携帯電話の基地局アンテナができるって出てたけど、
大丈夫かしら。ほら、電磁波の影響がどうこうなんて話もあるから」
こんなことを言ったんです。父は笑って「WHOの調査で、
 
電磁波が人体に与える影響はないって発表されてるぞ。それに、
このマンションに住むのもあと半年くらいだし」と答え、
母は「そうよね。自治会費が少し安くなるかもしれないけど、
私たちには関係ないわね」こんな会話があったんです。
その次の日曜です。僕は午前中野球の練習に行き、戻って一人で
昼飯を食べ、留守番をしてたんです。はい、そのとき両親は、
新体操を習ってる妹を練習場所に連れてって、いなかったんです。
1時間くらいして玄関のドアチャイムが鳴ったんで、
インターホンに出てみると「お兄ちゃん、あたし」妹だったんです。
このときちょっと変だとは思いましたよ。両親は鍵を持ってるから、
ふつうに開けて入ってくるはずだから。「お前、どしたん?」

「お父さんとお母さんが買い物するって言ったから、先に帰ってきた。
見たいTVがあるから」まあそういうこともあると思って開けました。
そのときは普段と変わりない妹だと思ったんですけど・・・
着てた服も朝と同じだったし。妹はリビングでTVを見始め、
僕は部屋でマンガ読んでました。そしたら、またドアチャイムの音が
聞こえ、妹が出た様子でした。すぐ、「お兄ちゃん、来て~」と呼ばれ、
行ってみると、玄関に青い作業服、作業帽の人が2人立ってて、
妹が壁にぴったりくっついてたんで、僕が「父母は今、いないんです。
あと少しで戻ると思います」そう言ったら、一人が、
「あ、そうですか。工事会社の者です。これから屋上のアンテナ工事を
します。ここまで音はしないと思いますが、危険ですから

屋上へは出ないでください」そう言って、パンフレットのようなのを
置いてったんです。ドアが閉まってから妹に「お客さんに失礼だろ、
何やってんだ」と少しきつめに言うと、なぜか半泣きになってて、
「あの人たち、トカゲだったよ。人間じゃなかった」って。
バカバカしいと思ってそれ以上はとり合わず部屋に戻ったんです。
あ、言い忘れてましたけど、そのマンションは12階建てで、
僕らのとこは10階だったんです。たしかに、工事のような音は
まったくしませんでした。それからまた1時間くらいたって、
玄関が開いた音がし、行ってみると両親が帰ってきたんですが・・・
父が「お土産があるぞ」とか言った後ろから、妹が出てきたんです。
「あれ!?」と思いました。一人でテレビ見てたはずなのに。

もし両親を迎えに出たのなら、ドアの音がするんで必ずわかるはずです。
それで妹に「お前、さっき1回戻ってきたよな」そう聞いたんですが、
首を振るだけだったんです。わけわからないながらも、両親に工事の
人が来たことを話し、パンフレットを渡しました。
それからですね、おかしなことが続くようになったのは。
最初は・・・、あ。そうだ。その2日後です。滅多にないことに
夜中にトイレに行きたくなりました。そんとき、2段ベッドの上に
妹がいなかったんです。「あいつもトイレか」くらいに思って
トイレに行く途中、リビングで音がしてました。引き戸を開けてみると、
暗い中に妹が一人パジャマのまま座ってTVを見てたんです。
まあ夏休み中なので、翌日早起きする必要はないんですが、

時間は夜中の3時過ぎだったと思います。それでね、TVの液晶画面に
大きく不気味なトカゲ人間が映ってたんです。SF映画か何かだろうと
思いました。その光で妹の顔が青と緑のまだらになってて不気味でしたよ。
「こんな時間に見てると怒られるぞ。どうしても見たかったら部屋ので
見ろよ」こう言いました。僕らの部屋にも小さいTVがあったんです。
妹は立ち上がり、「もう寝る」とひとこと言ってTVを消し、
ロボットみたいな動きで部屋に帰ったんです。僕がトイレから戻ると、
もう妹はベッドに入ってて、呼んでも起きませんでした。
次の日ね、そのことを妹に言ったら「知らない、起きてない」って。
新聞で番組表を見たんですが、妹が見てた番組が何だったかは
わかりませんでした。たぶんBSだったろうと思うんですが。

それから1ヶ月以上間が開いて、学校が始まり、季節は秋になってました。
僕は野球部を引退しててヒマでしたね。で、何曜だったかは
覚えてませんが、夜中、ビンビンビンというような音がして
目が覚めたんです。そうですね、ギターの低いほうの弦を強く弾くような、
頭が痛くなるような音でした。「何だ?」と思って起き上がると、
ベッドの上から「来たあ!」という妹の声が聞こえ、ドンと上から
床に飛び降りたんです。そんなことしたことないのでびっくりしました。
「来た、来た、来たああ」叫びながら妹は部屋を出、玄関が開く音が
聞こえました。「あ、待て、どこ行くんだ」あわてて追いかけました。
妹はマンションの外廊下を走り、エレベーターには目もくれず、
非常階段を上っていったんです。「待てったら、どうした」

10階ですから、すぐに屋上への扉につきあたります。屋上は
共有スペースで、普段出てもいいことになってるんですが、夜は
鍵がかかってるはずなのに、そのドアが開いてて妹は闇の中に
走り出していったんです。屋上はかなり広く、給水塔や
BSのアンテナなどがあるんですが、妹は新しくできた右隅の
基地局アンテナへまっすぐ走ってったんです。アンテナの前には
人が5、6人いました。みな妹と同じくらいの年の女の子。はい、
都会で夜は明るいので顔が見えて、中にはマンションの近くの部屋の
妹の友だちの子もいたと思います。どういうことかわかりませんでした。
妹は、その子たちがアンテナを囲んで立ってる半円に加わって
全員が片手を上ました。そしたら、アンテナが緑に光りだしたんです。

ブンブンブンブン、またあの音がして、僕は頭が割れるように痛くて
その場に倒れてしまったんです。マンションの上の空に、緑の大きな光が
浮かんで見えました。それはだんだんに近づいてきて・・・そこで気を
失ってしまいました。気がついたら、部屋の自分のベッドにいました。
もちろん前の晩のことを妹に聞いても「知らない」と言うだけ。
僕の夢ということになっちゃったんです。屋上には行ってみましたよ。
アンテナは光ったりしてませんでしたが、よく見ると2本の筒の部分に、
変な記号のようなものが彫られてました。これでほとんど話は終わりです。
翌年度、僕の家族は埼玉県の一軒家に引っ越し、自分の部屋ができて
おかしなことはなくなりました。それでね、今度、妹の結婚が
決まったんですが、相手の人、宇宙開発機構に勤めてるんですよね・・・

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