前に「地球空洞説」の話を書きましたが、それと関係のある内容です。
昨年公開された『キングコング 髑髏島の巨神』ですが、みなさん、
ご覧になられたでしょうか。あのセリフの中で、地球空洞説が出てきていました。
髑髏島は南太平洋の孤島ですが、島の内部には地下に通じる穴があり、
その中にはたくさんのモンスターがひしめいている、とかなんとか。

また、2008年公開の『センター・オブ・ジ・アース 』は、
やはり地球空洞説をあつかったお話で、原作はジュール・ヴェルヌの『地底旅行』。
日本全国公開された初めてのフル3D映画でした。
これも、家族向けのなかなかいい作品だったと思います。

 



ただ、空想世界ならともかく、実際の地球空洞説には多くの科学者は否定的です。
その根拠としては、一つには地震波です。空洞がもし地球内部にあるなら、
地震波はいびつな伝わり方をするはずですが、
世界のどこで観測しても、結果は理論予測どおりになります。

これは、地球内部に、びっしり物が詰まっているからです。その他にも、
さまざまな面から、地球空洞説は否定されます。地底の国「アガルタ」、
「シャンバラ」など、夢のある話でしたが、
さすがにその役割を終えたようです。消えゆくオカルトと言っていいでしょう。

地球空洞説


では、地球の内部に何があるかというと、これはマントルです。
マントルは、どろどろに溶けた岩石で、いくつかの層に分かれます。
また、地球中心部は核(コア)といって、溶けた金属でできており、
その温度は太陽の表面と同じ、約6000度にもなると言われています。

で、このマントルの発見によって、学会からオカルトとして
葬り去られていた説が、復活を果たしました。何だかおわかりでしょうか?
そう、「大陸移動説 continental drift theory」です。
提唱者は、当時32歳の若き気象学者、アルフレート・ヴェーゲナー。
ヴェーゲナーは、ドイツ人らしい鉄のような意志を持った人物でしたが、
それが後に、彼の寿命を縮めることになります。

アルフレート・ヴェーゲナー


さて、ヴェーゲナーの着想のきっかけは、地球儀を見て、
大西洋の西、つまり南北アメリカ大陸の東海岸の地形と、
太平洋の東、ヨーロッパからアフリカ西海岸の地形が、
海をなくせば、ぴったりと重なると気がついたところからです。
ここだけ見ると子どもの発想のようですが、ヴェーゲナーは真剣でした。

ヴェーゲナーが正式に説を発表したのは1912年、
20世紀に入ってからのことなんですね。ここで、ヴェーゲナーは、
分裂する前の巨大大陸を、「パンゲア」と名づけました。彼の説は緻密で、
地形学、地質学、地球物理学、生物学、古生物学と、各方面から、
公平に見て、当時としては最先端と言っていい論証を行っています。

じゃあ、ヴェーゲナーの説が世界に受け入れられたかというと、
残念ながらそうではありませんでした。アメリカを中心として、
各国の学者から感情的ともいえる批判を受けます。世界的な学術会議において、
大陸移動説は葬り去られ、オカルトあつかいされることになりました。

気球に乗る冒険家でもあったヴェーゲナーの記念切手


この最大の要因は、当時の科学の水準では、大陸が移動するための
巨大な力を説明することができなかったからですが、
大陸が動くなんてありえない! と、はなからバカにするむきもあったんです。
あと、第1次世界大戦 敗戦後のドイツに対する偏見もあったでしょう。

四面楚歌状態の中、最後まで自説が正しいことを確信していたヴェーゲナーは、
証拠集めに奔走し、グリーンランド探査中の1930年、-54度の猛吹雪の中、
過労による心臓発作で50歳で死亡します。犬ぞりで氷河を走り回るという、
植村直己さんレベルの活動をしていたようです。その遺体は、
イヌイットのガイドによって雪の中に埋葬されました。(後に発見されて改葬)

ヴェーゲナーは若い頃に、気象観測用気球で空中滞在時間の当時の世界記録を
つくったりしているので、冒険家の素養があったんでしょう。グリンーランドの、
極寒のため生物が生息できない地域で古生物の化石を見つければ、
それが大陸が南から北へ移動した証拠になると考えていたんですね。
(後に、ヴェーゲナーの予測どおり化石は見つかります。)

ヒゲの凍りついたヴェーゲナー死の直前の写真


その後、大陸移動説は長い間、触れてはならないタブー、
学問ではないオカルトとしてあつかわれてきたんですが、流れが変わったのは、
ヴェーゲナーがグリーンランドの氷河で憤死してから約30年後の
1950~60年代。マントルとマントル対流の発見があったからです。

この、大陸を動かす力は、気づいてみれば何も難しいことはありません。
みなさんがお湯を沸かすとき、下のほうでガスの火で温められた水が上昇し、
逆に上のほうの水は冷えて下に戻っていきます。これと同じことが、
地球の内部で起こっていると考えられるようになったんです。

お湯の対流とマントル対流 原理は同じ
名称未設定 3d

これらのことをまとめて、「プレート・テクトニクス理論 plate tectonics」
と言います。日本に巨大地震が起きるのも、海溝に沈み込んでいく
地殻プレートのひずみによる影響が大きいんですね。
こうして、ヴェーゲナーの名誉は回復され、現在では高く評価されています。
(日本でも小学校の国語の教科書に載ったりしていました。)

さてさて、このように科学知識の進展が、地球空洞説という一つのオカルトを消し、
大陸移動説という、オカルトとされていたものを学問として甦らせたわけです。
ですから、現在オカルトとされているもの、例えば超能力や心霊などの中にも、
将来の知見によって復活を遂げるものがないとは言えないんですね。
ということで、今回はこのへんで。