中学1年生です。よろしくお願いします。先週の金曜日の夜のことです。
その日は僕は部活の練習が遅くなって、帰ったらもう夕飯になるところでした。
弟は小学校5年生だからずっと早く帰ってきてるんです。
夕飯は母の手作りハンバーグで・・・あ、こういうの関係ないですね。
そのときに、弟が父に向かってこんな話を始めたんです。
「ねえ、今日ね、学校で怖い話聞いたんだよ?」 「ふーん、どんな」
「怪奇トマト男っての」これを聞いてて、
僕は思わずギャハハハって笑ってしまったんですが、父は案外真面目な顔で、
「へえ、それどんな話だった?」 「あんまくわしく聞いたわけじゃないけど、
顔が血まみれで腫れ上がった男の人の霊の話。なんか事故で死んだみたい」
「うーん、同じ話かもしれんが、父さんも小学校のとき、

ほおずき男って聞いたことがあるぞ」・・・父は弟と、つまり僕ともですが、
同じ小学校を出てるんです。だから大先輩ってわけですけど、
僕はそんな話、聞いたことはなかったんですよ。それで弟に、
「へえ、面白そうだ。誰に聞いたん?」 「山崎くんとか。クラスで広まってる」
「どんな?」 「とにかく頭を強烈に打って死んだ人がいて、その話を聞くと、
その日のうちか、遅くても3日以内に聞いた人のところに夜来るんだって」
「あーそれ、やっぱり同んなじだなあ。父さんのときもそういう話だった。
今は、ほうずきって珍しいから、トマトに変わったんだろうなあ」
ここで僕が弟に「そんな話お前信じるのか?」って聞いたら、
「いやあ・・・」って言葉を濁しました。
たぶん、怖がりだってバカにされるのが嫌だったんでしょう。

「でもね、もし来たとしても撃退できるおまじないがあるんだよ。
それ聞いてきたから大丈夫・・・のつもりだったけど、父さんも同じ話を
知ってるって聞いて、やっぱ怖くなってきた。ねえ、今日から3日間、
部屋じゃなくて父さん母さんの部屋に寝ていい?」父が、
「そのおまじないの話も同んなじかなあ。父さんも当時は、実は怖かったんだ。
寝室で寝るのは別にかまわんぞ」こういう話の流れになって、僕にも、
「お前も寝室に来るか?親子全員で寝るなんて久しぶりだ」って言ってきたんです。
「僕はいいよ。明日休みだから遅くまで起きてるし。それに僕ってこれ、
話、聞いたことになるのかなあ?」弟が、
「細かいとこまで聞いてないから大丈夫じゃないかな」って、
あやふやな意見を出したところで、ハンバーグライスが出てきたんです。

そこでこの話は打ち切りになって、お腹が空いてたんで2杯目もおかわりして・・・
で、部屋に戻ってずっと音楽を聞きながらマンガ読んでたんです。
弟は下でテレビ見てて、そのまま両親の寝室にいって寝るみたいでした。
それで、ああ、あいつがいないと自由でいいなあ、って思って。父が、僕が

中学生になったんで改築して部屋を分けるか、って言ってた矢先だったんです。
寝たのは1時近かったと思います。僕と弟は、同じ部屋の2段ベッドで

寝てるんですよ。僕が上です。電気消して、スモールライトだけにして、
うとうとしました。どのくらい時間がたったか、
後で時計見たときには4時近かったんですけど。ベッドの下段から、
どんどん底板を蹴られる振動で目が覚めました。「ああ、弟のやつ

寝ぼけてるんだな」って思いましたが、考えたら弟はいないんです。

それでも、霊だとはまだ思いませんでした。弟がやっぱり自分の部屋で寝ようと
戻ってきたんだろうって。とはいえ、弟はいったん眠ると朝まで起きないし、
これまでベッドを蹴ったこともなかったんで、やっぱ気にはなりました。
それで、そうっと上半身を起こしたんですが、そのときかすかに、
ブンブンっていう音が聞こえてきたんです。
何か、濡れたタオルを振るような音でした。ベッドの縁から顔を出すと、
冷たいしぶきがかかった感じがしたんです。「え?」
思い切って下のベッドをのぞくと、そこに・・・明かりが小さかったので

はっきり見えたわけじゃないけど、大きな頭がありました。
普通の人の倍くらいで、すごい速さで左右に振っていたんです。
まばらな髪が束になったのが振り回され、ブンブン音を立ててました。

で、そいつが僕に気がついたのか、こっちのほうを見て・・・真っ赤な顔だと

思いました。怪奇トマト男??? どこに目鼻があるかわからないくらい、全体が

つぶれてたんです。「ぎゃーーーー」僕は絶叫し、つかまれるかもしれないので、
2段ベッドのハシゴ上段に足をかけ、できるだけ離れるようにて飛び降りたんです。
ドンッと大きな音がして、たぶん下まで聞こえたろうと思いました。
「お母さん、お父さん助けて~~」そう叫んで、後ろも見ずに部屋の戸を開けると、
廊下の先、階段の下のほうから「カン、カン、カン、カン」という声が

聞こえてきました。父と弟の声だと思いましたが、意味がわかりませんでした。
「助けて~~」階段を降りていくと、前に父、後ろに弟がいて、
二人で合わせるようにして「カン、カン」という金属的な音を出していたんです。
しかもそれだけじゃなく、手を両方脇に出してそろえ、

横から上に上げるという動作をゆっくり繰り返して。
「お父さん、お化け、トマト男がベッドの下段にいた!」
「わかってる」父がいい、後ろから弟が「だから今、おまじないやってる」って。
「???」 「ほおずき男が出たら、踏切の遮断機が上がる真似をすれば

いいって、昔 聞いた」そこからは父だけが僕らの部屋に入っていき、
カンカンと叫ぶ声がドア越しに聞こえました。やがてしばらくして出てきて、
「やー、退散したぞ」って言ったんです。
もちろん僕は部屋に戻ることができず、弟といっしょに両親の部屋で寝ました。
今もそうしてるんです。寝具とかは父が見てくれましたが、汚れなどは一切なし。
顔にしぶきがかかったと思ったけど、それも鏡を見ると何でもありませんでした。
後になって父に、「僕、トマト男にとり殺されそうになったのかな」

こう聞いてみました。すると父は「それはわからんが、

ありえない話じゃないだろう」と答えたんで、改めてゾクゾクっとしました。

「あれ何なの?踏切事故で死んだ人?」 「それもわからん。ただなあ、

最初はもしかしたら実態はなかったのかもしれない。
ただのオフザケ話だったのかもな」 「だって本当に見たんだよ」
「ああ、だから話の力ってことだろう。これは俺も知ってるくらいだから、
少なくとも20年以上は続いてる。その間に話を聞いて怖がった子も大勢いたろう。
その思いが話の中に閉じ込められて、だんだんに怪物を作っていったとしても、
不思議はない気がする。それと、あの遮断機のおまじないに
すがった子も多かったろうから、バカバカしいようなことだけど、
やっぱり力を持ったんじゃないか」こんなふうに話してくれました。
あと、叔父さんがここのことを知ってて、ぜひ報告してこいって言われました。