bigbossmanです。今回もインタヴューシリーズで、
タクシーの運転手さんからお話を伺いました。その方は、
60代前半、30年以上この仕事をされているベテランで、
ずっと無事故で仕事をされているそうです。仮にTさんとして
おきます。お話を聞いたのは、大阪のホテルの高層階のバー。
「あ、bigbossmanともうします、今日はよろしくお願いします」 
「いえいえ、こちらこそ」 「長い間、運転手をされている
ということですが、今は景気はどうですか?」 「いやあ、
コロナになって2年、悲惨なもんですよ。街に人が出ませんから」 
「そうでしょうねえ」 「私は個人ですけど、会社に勤めてる人は
給料が歩合制ですし」 「ああ、でも、個人でも大変でしょう」 

「ええ、個人タクシーは年配の人が多いですから、廃業、引退した
仲間がたくさんいます」 「でしょうねえ、それで、自分は怖い話を
集めてるんですが、何かそういったものはありますか」
「いやあ、私はね、そういうの体験したことはほとんどないんです。
それで、仲間からあれこれ話を聞いて集めてきました」
「それは、わざわざありがとうございます」 「ただ、怖い話と
いってもいろいろありますでしょ。幽霊だけじゃなく、現実的な
話も」 「あ、うーん、自分のブログはオカルト専門なんですが、
人が怖いような話でもかまいません」 「そうですか。いわゆる
タクシー強盗にはあったことがあります。若いときで、
まだパーテーションもなかった頃」 「運転席と客席の
 
仕切り板のことですね」 「ええ、目的地に着いたとき、いきなり
後頭部を蹴られて、その日の売り上げ全部盗られました」
「うわ」 「そういうときは逆らいません。命が惜しいですし」
「ですよね」 「相手が目撃者を最初から消そうと思ってたら
どうにもなりませんが、さすがに殺人罪がつくんで、そこまで
やるやつは多くないです」 「ああ、そいつは捕まったんですか」
「ええ、お金は戻ってきませんでしたけど。あとそうですね、
私はほら、ずっと阪神地域でやってるでしょ。その筋関係のお客が
乗ることも多いんですよ。そういうときは気を使います」
「事故とかですか」 「うーん、まあ、もらい事故とかだったら、
その人たちが交渉にのり出しますから、それはそれで困りますね」

「なるほど、あの人たちの商売の一つですし」 「1回、チャカの
忘れ物がありました」 「うわあ、拳銃」 「はい」 「どうしたん
ですか」 「もちろん警察に届けましたよ。そうするしかないですし」
「アヤがついたりしませんでしたか」 「それはなかったです」
「幽霊関係の話は?」 「うーん、ないことはないです」
「よく聞くのは、女の人を乗せて、目的地に着いて後ろを見ると
いない。で、シートがびっしょり濡れてる」 「あ、知ってますよ」
「東京だと青山霊園が関係してる話が多いんですが」
「こっちだと深泥池(みどろがいけ)です」 「京都の北区ですね」
「はい、内容はだいたい東京と同じで、深泥池から乗せたという場合と、
そこまで行ってくださいと言われたふたパターンあるみたいです」

「新聞にも載ったんですよね」 「京都の地方新聞に出たのは
聞いてます。ですけど、私の仲間で京都を流してる何人かに
聞いても、実際にそういうことにあったやつはいませんでした」
「そうですか。Tさんも個人をやる前は会社勤めだったんでしょう」
「はい」 「そのとき、もし幽霊を乗せたとして、会社に通用するもん
ですか」 「それはしませんよ。幽霊に乗り逃げされたなんて
言ったら、売り上げごまかしてるんだろって言われますよ」
「そうでしょうねえ」 「でも今はほら、監視カメラをつけてる
タクシーが多くなってきて」 「あ、はい」 「ドライブ
レコーダーと監視カメラが一体化してて音声も撮れるので、
暴言にも対応できます」 「それは便利ですね」 「それでね、

こんな話があるんです。お客さんに埠頭まで行ってくれと言われた
車があって、まずそこが変ですよね。夜中の1時ちかくだった
らしいんで、そんな時間に埠頭に行ってもねえ」 「はい」
「で、その車、減速もなにもせず、海に突っ込んじゃったんです。
運転手は亡くなりました」 「うわ、どうして」 「それがね、
その車の監視カメラ、本体は海水でダメになっちゃったけど、
たまたま新型ってことで、会社のほうでモニタリングしてたんです。
つまり会社側に映像と音声が残ってた」 「何が映ってたんですか」
「それが、客席は無人なのに、運転手がべらべらしゃべってたんだ
そうです。ひとり言じゃなく、まるで会話してるみたいに」 
「う」 「やはりそのとき、何かを乗せてたのかもしれません。

ただね、前方にははっきり海が照らし出されてるのに、そのまま
前進してったのが、なんとも」 「不思議ですねえ。ふつうの道を
走ってると思ったのか」 「わかりません」 「他には?」
「そうですね、われわれは街を流してて、事故車に出会っても、
なるべく見ないようにしてるんです」 「やはりよくないですか」
「もちろん、事故直後なら救護措置に走ることもありますけど、
車がぺちゃんこで、どう見てもダメって場合は。事故車を見た
直後に事故に遭うケースは多いらしいですよ。むしろ事故を
見たら運転に気をつけると思うんですが、それでもね」
「ははあ」 「昔 先輩から、事故を見ても手を合わせたりしちゃ
いけないとも言われました」 「それはよく聞きますね。

霊は同情してくれる相手についてきたりするとか」 「ああ、
やっぱりね」 「他にありますか?」 「あとはそうですねえ、
あ、あれがあったか」 「何ですか」 「私はほら、個人に
なってからは、ずっと自分の車を使ってますけど、会社勤めだと
そうはいかないんです。で、会社ごとに1台はよくない車が
あるとも聞きますね」 「よくない車というと」 「整備しても
何ともないんですが、走ってると、ときおりルームミラーに
何かが映るとか」 「何か?」 「はい、女性の顔とかです」
「うーん、亡くなった人を乗せて、その顔が焼きついてるとか」
「そこはわからないですね。もしかしたら、生きてたお客さんが
車をおりてから亡くなったのかもしれませんし」

「ああ、そうですね」 「それから、こんな話も思い出しました。
これはあんまり怖い話じゃないんですけど」 「ぜひ」
「大阪の〇〇タクシーね、あそこの1台で、後部シートの
間にいつも5円玉が見つかるって」 「へえ」 「まあね、
車内清掃をいつも完璧にやってるんではないでしょうけど、
ありえない頻度で5円玉がはさまってる」 「うーん」
「でね、あるときそれに気がついた人がいて、それからは
5円玉、見つけるたびに会社の募金箱に入れといたそうです」
「何かあったんですか」 「特に何もなく、その車を代替わりで
廃車にするとき、募金もいっしょに寄付したということでした」
「不思議な話ですねえ。そもそもタクシー料金って5円の
 
単位はないはずですし」 「はい」 「他には?」 「だいたい
聞いてきたのはこれくらいなんですが・・・個人タクシーは
高齢の運転手さんが多いんですよ」 「そうですね」 「そういう
人はお金のためもありますが、この仕事、運転自体が好きな人が
多いんです」 「でしょうねえ」 「こないだ、私の先輩が
亡くなったんです。駅前で客待ちしてる車の中で」 「え?」
「脳溢血ということでしたが、前兆はあったんだと思います。
でも、習性というか仕事に出て」 「ああ」 「車の中で
死ぬのも悪くないとも思うんですが、それも停まってるときの
話で」 「そうですよね」 「走行中にそうなったら、お客さんも
たまったもんじゃないですから」 「高齢化社会ですからねえ・・・」

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