ある建売り団地の公園の話
朝の団地内を散歩してました。この団地には300軒ほどの
家があるんです。今から50年ほど前、同じ世代の若い夫婦が
建売りでいっせいに買ったもので、住人とともに年老いて
きました。ですから、子どもの姿はほとんど見られず、
団地内は、どこも閑散としたものです。ただね、早朝だけは
にぎわうんです。はい、お察しのとおりウオーキングです。
夫婦で仲むつまじく歩いている方が多いんですが、
私は昨年、妻を亡くしまして。それでも健康のために
やってるんです。それと・・・
ウオーキングの年寄りたちは、団地内にある少公園に
それぞれ集まります。日の出少し前の時間帯ですね。


中には入りません。柵の外に囲むように立ち止まって、じっと
待っていると、子どもたちの声が聞こえてくるんです。そして
ブランコが揺れだす・・・ はい、10人以上の薄い影絵のような
子どもたちが、いつの間にか現れて遊び始めるんです。
幽霊? いえいえ、それは違います。かつてこの団地内で
生まれて育っていった子どもたちの残像ですよ。
私の子どもたちもいるのかもしれませんが、顔はわかりません。
はい、私の子どもは2人とも離れた県で就職し、ときおりは
孫を見せに連れてきてくれますが、もう中学生ですし。2世代や
3世代で同居しているお宅はほとんどありませんね。ですから、
住人の死とともに空き家になり、孤独死の話もぼちぼち


聞かれるようになってきました。いや、私も覚悟はしてます。
それでね、子どもたちが現れるのは5分ほど。
朝日が昇ると消えてしまうんですよ。

濡れない話
タクシー怪談ですか? うーん、あの、夜に流してると一人で
寂しい場所にたたずんでる女性のお客さんがいて、乗せると
墓地までと言われて、目的地に着くと消えちゃうってやつですよね?
で、シートがぐっしょり濡れてる。いや、まさかまさか、
この世にそんなことがあるんとは思えませんがねえ。じゃあ、
それ以外に不可思議なこと・・・ それがね、1回だけあるんです。
しかも私が体験したことじゃなく、同僚から聞いたもので。
それでもいいならお話しますよ。10年ほど前ですね。私は当時、
今とは別の会社にいましたけど、30代の同僚が、昨日変な客を
乗せたって言いまして。黒い洋服・・・葬式帰りかなんか
だと思うけど、その2人組に「埠頭まで」って言われたそうです。


夜中の12時過ぎですよ。変だなあと思ったそうです。
ここの港は、ロシアとの貿易をほそぼそとやってるくらいで、
その時間は閑散としてます。まさか、麻薬取引かなんかか、
とも考えたそうです。なら警察に連絡するべきか・・・
その2人は港のかなり突端で降り、市街に戻る交通手段はないので、
同僚が「待ってましょうか」と聞いたら「30分後に迎えに来てくれ」
と言われて。やはり不審なので、戻るふりをして倉庫をぐるっと回り、
塀の陰に車を止めて見てると、2人はペンライトのようなものを出して
空に向けてチカチカ光らせてましたが、それから同時に海に飛び込んだ。
「あっ!」自殺かと思ったそうです。それで車を出して海のギリギリ
まで近づけると、2人は立ち泳ぎしながら同僚に向かって手を振り、

悠然と10分ほども泳ぐと護岸壁をはい登ってきた。でね、そっからが
不思議で、2人の喪服のようなのは まったく濡れてなかったんだそうです。
あのあたりの汚い海水の臭いもしなかった。まあそれでね、そっから
街に戻って駅前で2人を降ろした。ありえないですよね。海で服のまま
泳いで濡れないなんて。で、後に同僚の車を見せてもらったんですが、
何の痕跡もありませんでしたよ。え? 同僚ですか。そのことが
あってから半年後に白血病で死にました。まあ関係はないと思いますが。

夢のふすまの話
夢の話なんですが、それでもいいですか? じゃあ。今から4年前
ですね。同じ夢をくり返し見てたんです。私は夢の中で、真っ白い
つるつるした壁の4畳半くらいの部屋にいる。その部屋には
家具も何もなく、窓もついてない。ですからかなり薄暗い。
で、ある一面だけがふすまになってるんです。変でしょ。
その部屋は洋室に思えるのに、ふすまがあるなんて。
でね、私はそのふすま、異常に怖かったんです。
いや、理由はわかりません。普通のどこにでもある無地のふすま
なんです。怖いんだけど、開けて向こうに何があるかを見てみたい。
でも、開けてしまうと、もう取り返しがつかないことになる・・・
で、夢の中でずっと迷ってるんです。そんな夢を3回続けて見ました。


間隔は2週間おきくらいですね。妻にはその夢の話はしましたよ。
そしたら、「夢なんでしょ。じゃあ開けてみればいいじゃない。
どうせ何も危険なことはないでしょ。あんたってホントに
意気地なしなんだから」こう言われました。うちは共稼ぎなんですが、
インテリアデザイナーをしてる妻のほうがずっと収入が多くて
頭が上がらないんです。でね、よーし、じゃあ思いきって開けてやる。
そう考えてましたら、また2週間ほどして同じ夢を見たんです。
私はふすまギリギリにまで近づいてるんですが、やはり怖くて
しかたがない。ふすまに耳を当ててみたら、何かゴーという
風の音のようなものが聞こえる・・・思い切って両方の取っ手に
指をかけたとき、急に胸が苦しくなって目が覚めたんです。


ダブルベッドにいっしょに寝ている妻が、私の上に馬乗りになって
首を絞めようとしてたんですよ。思わず払いのけました。
妻は体重が軽いのでパタンと横に倒れ、固く目をつむったまま、
「絶対開けるんじゃない、開けるところすぞ」歯ぎしりに交えて
こう言ったんです。ええ、寝言ですよ。朝になって聞いても、まったく
覚えてない様子でしたね。それからはその夢は見なくなったんです。

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