えー小学校6年生のときの話です。
「こっくりさん」をやってたんです、仲のいい友だち2人とで。学校では
禁止されてたので、もちろん休み時間なんかにはやらなかったんですけど、
放課後に空いている教室に入ってちょこっと・・・10分かからないくらいです。
あのこっくりさんをやる紙は、前にみんなで作ってAちゃんがいつも持ってました。
それから10円玉は、そのときどきで持ってる人が出してたんです。
べつにその後、ふつうにおサイフに入れて持ち帰ってたんですけども・・・

その日も放課後、栄光の間というところに集まってこっくりさんをやることに
しました。時間は掃除がおわってから・・・4時前くらいだと思います。
栄光の間というのは、スポ少のサッカー野球やPTAのバレーなんかで
もらってきたトロフィー類を飾っておく部屋です。少子化のために
教室がかなりあまってて、そういうのに使われたりしてたんです。
3人で衝立の陰の見えないところに机を出して紙を広げ、
10円玉に3人で人差し指をのっけてこっくりさんを呼び出します。
それからいろいろ質問をするわけです。

いつもは呼んですぐこっくりさんが来るのに、
その日はなかなか来ませんでした。たまにそれまでも
そういう日があったので、みんなで「やめよか」と話してたら、
急に10円玉がズルと動いたんです。いつもは少しずつしか動かないのに・・・
じつは・・・白状しちゃうけど、こっくりさんて霊がやってるんじゃなくて、
みんなで力を合わせて動かしてたときが多かったんじゃないかと思うんです。
こっくりさんにする質問も、だれが一番先に結婚するかとか、
小学生の女の子が関心あることばっかりだったし・・・
そのお答えもなんとなく予想してたとおりのものだったから。

ところがその日は、10円玉の動きがあきらかに異常でした。
自分では力を入れているつもりはないのに、
すごいスピードでぎゅんぎゅん紙の上を走るんです。
怖くなってAちゃん、Bちゃんの顔を見たら、やっぱり不安そうにしていました。
10円玉は「く・い・た・い」この4文字をずっと往復し続けていました。

指を離そうとしました・・・が離れないんです、瞬間接着剤で
くっつけたようになってて。「きゃーどうしよう」 
「指、とれないよどうしよう」 「こっくりさん帰って下さい!」
そうしているうちにだんだん10円玉が熱く感じられるようになってきました。
「お帰りくださーい!!」全員が涙声になってそう叫んだら、
急に指が離れて、私たちは3人とも後ろにひっくり返ってしまいました。

3人とも尻もちをつきましたが、幸い頭を打ったりはしませんでした。
人差し指の先が少し赤くなってひりひりしていました。
「今のなんだったの」 「10円玉がホントに動いたよね」 
「きっとスゴイ霊がきたんだよ」 「食いたいってしか出なかったよね。
私たち食べられるのかしら」Aちゃんがそう言ったので、ますます
怖くなってきました。机の上の十円玉を見てさらにびっくりしました。
きらきらした新しいのだったのに、黒ずんでしまってたんです。
おそるおそるさわってみると、まだ少しあたたかい気がしました。
Bちゃんが持ち上げると、下の紙に黒くススのようなのがついてました。

紙は丸めてゴミ箱に捨てました。そのとき10円玉もいっしょに
捨てようとしたんですが、Bちゃんが「お金だから粗末にしても
罰があたるかも」と言ったんです。この10円玉は私が出したんですが、
持って帰りたくありませんでした。それで、
「落し物の箱に入れようか」と言ったら、Aちゃんが、
「でもあれ、筆入れとか時計なんかで、お金は入ってないよ。
それより玄関の電話で、どっかに電話かけない」と提案しました。
小学校には携帯は持ってきてはいけないきまりなので、
玄関に親に電話する用の緑電話があったんです。

「どこにかけるの?」 「時報とかでもいいじゃない」と話がまとまり、
ランドセルを持ってみんなで下に降りていきました。もう低学年の子は
全員帰っていて、体育館でスポ少の子が練習しているくらいでした。
私が緑電話に10円玉を入れて117を回そうとしましたが、ダイヤルが
固まったようになって動かなかったんです。受話器からも何の音もしません。
「あれ・・・壊れちゃってる」そう言って受話器を置きました。
10円玉が戻ってくるかと思ったんですが、落ちてはきませんでした。

「これでやっかい払いができたじゃない」Bちゃんが大人っぽい口調でそう言い、
帰ろうとしたときです。突然、緑電話が鳴りだしました。「えーっ」 

「こんなとこにかかってくるわけない」 「なにこれ」口々に言い合って
パニックになりかけたときに、体育専科の男の先生が通りかかりました。
「おっ、電話が鳴ってるな」先生はそう言ってこともなげに受話器をとりました。
「うん?何だって?」先生はすぐ、受話器に向かってそう言いましたが、
ややあって電話を切りました。

「変だな・・・今の電話。『くいたい』それだけ言って切れた・・・
この電話にも番号があるんだから、かかってくることもないわけじゃないが・・・
やっぱり変だなあ。お前たち何か知ってるのか?」私たちは
そろって首を横に振りました。先生はそれを不審そうに見ていましたが、
「もう4時過ぎてるから、用事がないんだったら帰りなさい」そう言いました。
それで3人で帰ったんです。家に帰ってからも、
さっきからのことを思い出して怖いなーと思ってたんですが、
寝るまでは何も変なことはありませんでした。

「あんた、何やってるの!!」突然大声がして、肩を揺すられました。
気がつくと冷蔵庫の前に座り込んで、手にはアイスクリームのお徳用カップを持ち、
中に指を突っ込んでいました。目の前には、卵のカラ、ハムや
ベーコンのパック、生の魚のタラが入ってた発泡スチロール!?などなどが
落ちていました。お腹がパンパンに張って、すぐに吐き気がこみ上げてきました。
・・・次の日もとても具合が悪かったんですが、がんばって学校に行きました。
Aちゃんは学校に来ていましたが、Bちゃんはお休みでした。
あと、どうやらあの体育専科の先生も休んでるようでした。

Aちゃんから話を聞くと、やはり私と同じように、夜中に電気釜に
頭を突っ込んでご飯を食べているところを発見されたんだそうです。
3日後に学校に出てきたBちゃんも状況はほぼ同じだったみたいです。
それともう一つ、あの緑電話がなくなっていました。
なんでも朝早く来た子が異常を発見して職員室に知らせたらしいです。
電話の胴の部分が大きくぱっくりと裂けていたということでした。
・・・これ以来、こっくりさんは一度もやっていません。
特におかしなこともなかったです。これで終わりです。