よくネット怪談なんかで、体の一部だけを目撃したって内容のものがありますよね。
例えば、カーテンはふくらんでないのに、下のほうにハイヒールの足だけが

見えたとか。あと、西洋のホラー小説でも、手首から先だけの手が、蜘蛛のように

動き回るとか。そういう話って、どう思われますか?まあ、生首の幽霊というのは

わかりますよね。首の中には脳があって、人間の意識が詰まってるわけですから。
でも、からだ系の怪談って、自分が収集してる中にはけっこうあるんです。
今回は、そういうお話を2つ、してみたいと思います。
最初は、証券マンをしている、Mさんという、
30代の男性から聞かせていただいたものです。
「あ、どうも、bugbossmanです。よろしくお願いします」
「じゃあ話していきます。4日前の金曜日のことです」 「はい」

「その日は残業があって、さらにプロジェクト成功の打上げもあったため、
帰りが終電になったんです」 「はい」 「でね、僕が乗る路線って、
遅くなりると極端に客が減って、ホームにはパラパラとしか人がいなくて」
「はい」 「走って駅まで来たんで少し息が切れてて、ベンチに座って

休んでました」 「はい」 「で、、何気なしに近くにあったゴミ箱のほうを

見たんです。そしたら、何か動くものが落ちてたんですよ」 

「何でしたか?」 「それが、大きなハサミムシだったんです」 「へえ」
「そうですね。5cmくらいはあったと思います」 「で?」
「それが、何か自分より大きなものに取りついて、転がすように動かしてました」
「で?」 「僕、虫、きらいじゃないんです。ハサミムシも気持ち悪いとは
思わないんで、立って近くまで見にいきました」 「で?」

「そしたら、ハサミムシが取りついてたものが、コロンと転げて、
爪が見えたんです」 「え?」 「ネイルをした、人間の女性の爪でした」
「う」 「それ見て、そこの駅で、2日前にとび込みがあったのを思い出して」
「自殺ってことですね」 「はい、僕もその電車に乗ってたんです。
亡くなったのが男か女かはわかりませんでしたけども」 「で?」
「たぶん、電車に轢かれたときに飛散した遺体の一部が、発見されずに
残ってたと思うんです」 「で?」 「ああ、こんなになって、
ハサミムシに食われて気の毒だって思ったんで、しゃがみ込んで、
ポケットからボールペンを出し、ハサミムシを弾き飛ばしたんです。
そんなことをしたのは、酔ってたせいもあると思うんですけど」
「で?」 「そしたら、そのときペンが触れたのか、

指は僕の足元まで転がってきて・・・」 「で?」
「信じてもらえますかね。指だけだったのが、ぐんと伸びで、
手首になったんです」 「え?」 「手首からどんどん上に肉が伸びていって、
腕ができ、そして肩ができ、短めの髪の女性の頭ができて」
「で?」 「そこから下に向かって、胴体、足とできていきました」
「うーん、すごい話です。服は着てましたか? 体は血まみれとかでしたか?」
「それは、ブランド物のスーツを着て、怪我した様子はなかったです。
生きた人間とまるで変わらない」 「で?」
「おもわず立ち上がったんですが、その女性は無言のまま、
僕に向かって深々と一礼をして、そして消えたんです」
「うーん、指は?」 「そのままそこにありました」

「で、どうしたんですか?」 「駅員を呼んで、指が落ちてるって知らせました」
「なるほど、わかりました。でも、不思議な話ですよねえ。
だって、電車に轢かれて、体はぐちゃぐちゃ、バラバラになったでしょうけど、
指はそのほんの一部分なんですから」 「そう言われるとそうですよね。
体のパーツごとに幽霊が宿ってるというのは、変といえば変な気もします。
ただ、さっきも言ったように、酒がけっこう入ってたので、
幻覚だった可能性はあると思います」 「その後、何か変わったことは?」
「いえ、今のところ何もないです・・・お祓いとかに行ったほうがいいでしょうか」
「うーん、それは。感謝されたんだから、たぶん大丈夫じゃないかと思いますが、
ご心配なら、そういうのに効き目がある神社を紹介しましょうか」
「あ、そうですね。お願いします」

次の話は、障害者支援のNPOに勤務されてる、20代後半の女性、
Nさんからうかがったものです。「あ、どうも、bugbossmanです。
 お話を聞かせていただけるそうで、よろしくお願いします」 
「あ、はい。じつは私、義足なんです」 「え? ぜんぜんわかりませんでした」
「右足のほうが、ヒザのちょっと下からないんですよ」
「ははあ」 「16歳の高校生のときに、事故で失ったんです」
「・・・・」 「若気のいたりというか、当時はほんとうにバカなことを

してました。私は陸上部に入ってたんですけど、先輩に誘われて、
深夜に男の人のバイクの後ろに乗ったんです。そしたら、
カーブを曲がりそこねたバイクがこけて、私はガードレールに
 足から突っ込んで・・・」 「うーん、で?」

「ケガはあちこちにしたんですけど、それはもうほとんど治りました。
でも、右足は助からなかったんです」 「バイクの男性のほうは」
「今はピンピンしてるはずです」 「うーん、で?」
「足を切らなきゃいけないって医師に言われたときはショックで、 
ものすごく落ち込みました」 「でしょうねえ」
「入院は4ヶ月ほどだったんですけど、ショックで学校にいけなくなってしまい、
高校は中退したんです」 「無理もないです」
「でも、希望がありました。というのは、周囲に勧められてつけてみた義足が、

とてもよくできたものだったんです」 「ああ、今のは そうらしいですね」
「私は陸上部で短距離をやってたので、つけて走ってみたら、
走れたんです。それで、面白くなって、

市の陸上競技場に行って、走る練習なんかもしました」 
「痛みはなかったんですか?」 「少しは痛かったですけど、だんだんに慣れて」
「はい」 「そしたら、義足で走ってる女子がいるって評判になって、
地方新聞から取材が来たんです。それと同時に、障害者陸上の団体の方に
さそわれて」 「はい」 「その中でアドバイスを受け、専用の義足をつけて
練習しているうち、いつのまにか、高校時代のベストタイムを越えてたんです」 
「ははあ」 「で、それから生きる勇気が出てきて、大検を受け、
福祉関係の大学に入学し、卒業後は、今の障害者支援のNPOに入りました」
「偉いですねえ。なかなかできることじゃないですよ」
「それで、去年、ある国でそういうNPOが集まった会議がありまして、
私も代表団の一人として行ったんです」 「はい」

「そこ、あまり治安のいい国じゃなかったんですね。
油断してました。昼の会議が終わって、夜に別の国の男性と外に食事に行き、
その帰りに、服をつかまれて建物と建物のすき間に引っぱり込まれたんです」
「ええ?! 同行された男性は?」 「それが、私を引っぱり込んだ
地元のギャングがナイフを持ってるのを見て、逃げちゃったんです」
「それはひどい!」 「私は、財布を出してそれを下に投げました。
現地語はわからないので、英語でお金はあげるから助けてって言ったんです」
「で?」 「でも、ダメでした。ギャングはしゃがんで財布を拾った後、
私の足をすくって倒したんです」 「う」 「そのとき頭を強く打って、 
ああ、もうダメだ、って思ったとき」 「はい」
「そのとき、建物のすき間の暗がりから、何か白いものが飛んできたんです」

「で?」 「それがギャングの顔にあたって、衝撃を受けてひるんだんです」
「で?」 「私は立ち上がり、そっから出て通りを走って逃げたんです。
ギャングは追ってはきませんでした」 「それはよかった。その後は?」
「パスポートなどは別にしてあったので無事でしたが、お金はなくなってしまって、
日本大使館に連絡し、NPOの仲間にも助けていただいたんです」
「ははあ。で、その危機一髪のときに飛んできたのは?」
「これ、信じてもらえないと思いますけど、足だったんです。
膝から下の女性の足。たぶん、私のなくなった足じゃないかと思うんです」
「・・・・」 「今も障害者陸上は続けてて、今度パラリンピックに出ることが
 まりました」 「それはすごい。でも、海外ですよね」

「はい。この次は十分気をつけるつもりです」