小学校のときですね。お楽しみ会ってのが学校であったんです。
5.6年とクラス替えがなくて、担任がいっしょだったから、

学期の終わりには必ずやるんですよ。好きなメンバーでグループを

作って出し物をします。内容はフルーツバスケットとか、

イス取りゲームとか、イントロ当てクイズとかですね。
最初にグループを決めて、それから何やるかを考えてましたが、
だんだんグループごとの内容が固定化してきて、自分たちはいっつも手品でした。
難しそうに思えるかもしれないけど、そうでもなかったんです。
今はどうかよくわかりませんが、その頃は「小学○年生」という雑誌に、
手品の特集とかありましたし、おもちゃ屋でも簡単なセットとか売ってたんです。

6人のグループで、持ち時間が5分以内だったと思います。
自分がやったのはヒモの手品が多かったですね。
あとコップと台紙で10円玉が消えるやつとか。今でも,

「身の回りの品で簡単にできる手品」なんてサイトがけっこうありますよ。
で、6年生の1学期に転校生がきたんです。U君ということにしておきます。
男で、ひょろーっと背が高くて色が白いやつでした。
担任よりも高かったので170cmを越えてたんじゃないかと思います。
親が外国に中古車を輸出する仕事だって言ってましたね。
自分たちの市は港町にあったんです。
無口なやつでね、存在感がほとんどありませんでした。
ただこれは今から思うと転校慣れしてて、
わざと目立たないようにしてたのかもしれません。

自分たちの手品はみんなで協力してなんかやることはしないんです。
ただ1人ずつ前に出ていって、それぞれの手品をやって戻ってくる。
だからU君も気楽だったと思います。

彼がいつもやるのはマトリョーシカの手品でした。何のことだか

わかりますか。ロシアの民芸品で、20cmくらいの人形の中に、

同じ形の少し小さい人形が入ってて、その中にもまた・・・
マトリョーシカって女の子の人形が多いみいですけど、
U君が持ってくるのは、フクロウか仏像の人形のように見えました。
でもロシアに仏像があるわけはないし・・・
ただ、今思うと普通のフクロウとはかなり違ってましたね。
最初の回でU君は、まず全部の人形を出してみせて、
それからもう一度しまってまた開ける。そしたら、
何も入ってなかったはずの最後のフクロウから花が飛び出したんです。
 

きれいな赤と青の薔薇の花でした。・・・でも、あんまり受けが

よくなかったんです。そういう風にできてる、買ってきた

セットだとみんな思ったようでした。2学期もほとんど同じで、

一番小さいマトリョーシカから出てきたのは白いネズミでした。
いや、ぬいぐるみだと思いましたよ。
毛がふわふわだったし、U君はつかんでネズミの背中をみんなに見せると、
すぐポケットにしまっちゃいましたから。
ただ・・・終わった後でU君に「タネを教えろ」って聞いてみたんですが、

そのマトリョーシカを手渡されて、全部開けてみたんですが、

仕掛けらしきものが見つからなかったんです。

U君は「手品やるってことだったから父さんから借りてきたけど、
何が出てくるか自分ではわからないんだ」って言ってました。

そのときはもちろん信じませんでしたけどね。

だってタネのない手品って、魔法ってことになるじゃないですか。で、

3学期ですね。もうすぐ卒業式ってときに、最後のお楽しみ会があったんです。

U君はどうやら、この市の中学校には進学しないみたいでした。
自分たちはもちろんまた手品で、最初にU君が出たんです。
いつものフクロウのマトリョーシカを出して、最初に全部開けてみせ、
中に何もないのを確認する。ここで今回はちょっと手が込んでて、
最後の小さいやつを前に座ってた女の子に渡して確認させたんです。

女の子は窓際に持っていって日の光にすかしたり、手をつっこんで

みたりしてましたが、「何もない」と言ってU君に戻しました。全部をしまって、

また一つずつ開けていく・・・最後のを開けてU君が逆さにしたとき、
ぼとっと割った卵の中身が落ちたようになりました。

生卵の白身のようなどろどろした液体・・・その中に栗みたいなのが入ってました。
色は真っ黒で、栗のイガに見えたのはびっしりと生えた毛だと思いました。
それが机の白布の上でグルングルン動き回り・・・
向きを変えたときに目玉がついてるのが見えたんですよ。
それはスーパーボールみたいに飛び上がって天井にぶつかり、跳ね返って、
さっきマトリョーシカを確認した子の背中に落ちたんです。
女の子は悲鳴をあげて払いのけようとしましたが、
そのときにはその気持ち悪いものはなくなってたんですよ。

U君は礼をして、人形をかたづけて下がりました。後ろのほうの

やつはよく見えなかったみたいで、あんまり騒ぎにはなりませんでした。

 

まあ、特に実害とかはなかったですからね。ただ、あの気持ち悪い

生き物がぶつかった天井には、うっすらと黒く丸い跡が残ってました。

ま、こんな話なんですが、後日談がいくつかあります。
一つ目は、小学校を卒業した春休み中に港でUFO騒ぎがあったんです。
大きな緑の光りを出す円盤が、回転しながら宙に浮かんでたのを、
何人かの釣り師が見たんです。それが1つのグループじゃなくて、

別々のところにいた互いに関係のない釣り師の証言だったので、信憑性が

あるってことで、地元の新聞に載ったんです。コラムの記事でしたけど。

それと、小学校を卒業して15年目・・・自分が27歳のときですね。
U君から突然はがきが来たんです。

内容は「結婚することになった」という報告で、相手の名前が記憶にあったので、
小学校のアルバムを出して確認してみたら、あの最後のお楽しみ会で、
変な生き物が背中に落ちた女の子だったんです。
住所は東京になってましたので、返信したんですがそれっきりです。
電話番号はなかったし、その後の連絡もなく、噂も聞こえてこなかったですよ。
それと、自分は中学校に入ってオカルトフアンになったんです。
あんまり運動が得意じゃなかったんで部活には入らず、
家でオカルト雑誌とかSF小説を読んでることが多かったですが、
ある号の「ムー」という本で、1枚の挿絵を見ました。
それが、U君の持ってきたマトリョーシカにそっくりだったんです。
ほらこれです。(下の画像)

あと、もう2つあります。自分は早く結婚してずっとこの街に住んでますが、
息子が小学1年生になったときに、入学式で母校を訪れたんです。

校舎は同じでした。それから自由業だからいいだろうと思われたのか、投票で

PTAの役員になってしまって、ちょくちょく放課後に訪問するようになりました。

で、懐かしく思ってあちこち生徒のいない教室を覗いてみたんです。
そしたら、6年生のときの教室だけ天井がはりかえられているように思えました。
教頭先生に聞いてみたんですが、古いことで学校には記録は残ってないし、
その当時の先生も一人もいないのでわからない。市には記録があるはずだ、
ということでした。「調べてみましょうか」と言われましたが、
何か文句をつけてるようにとられるのも困るし、遠慮したんです。
 

それとこの間、5年ぶりにU君からはがきがきました。それが

リトアニアという国に現在住んでいるみたいなんです。旧ソ連の国ですよね。

はがきは「赤ちゃんが産まれた」という知らせで、写真がついてました。
いや、赤ちゃんは普通で、というか目の大きい可愛い子でしたよ。
ただ、夫婦2人が寄り添って奥さんが赤ちゃんを抱いている背後の窓ですね。
外は絵のようにきれいな湖と森林でしたが、
ガラスの隅に、小学校のときにお楽しみ会で見たあの生物・・・
粘液にまみれた毛の生えた目玉・・・らしきものがはりついてたんです。

でね、他の同級生何人かに確認してみました。手品のグループだった

やつらですが、みな結婚のときも今回もはがきはもらってないそうなんです。

なぜ自分のところだけに来たのか不思議で。