会社員の山根さんが帰宅途中の駅で電車を待っていて、
ホームに滑り込んできた快速の窓に、
山根さんの背後で不自然に動く手が写り込んだ。
「ん?」と思った山根さんが後ろをふり向くと、
背の高い西洋人の神父さんがいて、さかんに胸の前で十字を切っていた。

山根さんが驚くと、神父は、とがったアゴで下のほうを指し示すような

仕草をし、そちらを目で追ったら、電車の下部とホームの間のすき間から、
血まみれの女が顔をのぞかせていた。「うわっ!」と思った山根さんは、
後退りして神父さんの体にドンとぶつかった。
神父さんは山根さんの耳元で「ニッポン、コワイ トコロデス」と言い、
もう一度下を見ると、女の顔はなくなっていた。


法務省に勤務している石原さんが中学校1年生のときの初めての定期テスト。
1時間目は社会だったが、問題をすべて解き終わっても20分ほど
時間があまった。見直しをしたが、間違ってると思えるところはない。
そのままぼうっとしていて、あと数分で終了というとき、
ふとテスト用紙の裏を見て愕然とした。なんと、用紙の裏半分ほどに
まだ問題が印刷されていたからだ。「あ、あ、あ、間に合わない」
あせった石原さんだったが、そのとき、目の前がぐにゃんとゆがんだ。

目をこすりながら顔をあげると、黒板の横の時計が目に入ったが、
「え?」テスト終了時間まで、まだ20分残ってた。
何度も確認したが、それは変わらない。石原さんは、

わけわからないながらもテストの答えを最後まで書いて提出した。
数日後、テストは帰ってきたが、点数は62点。裏を見ると、
答えの欄はすべて埋められていたものの、そこに書かれているのは、
見なこともない、異国の古代文字のようなものだったという。


フルーツパーラーでバイトしている岸本さんが小学生のとき、
通学路を歩いて帰宅していると、曲がり角の塀の陰から猫が顔を出した。
岸本さんが近づいていっても猫は逃げない。
「頭をなでよう」そう思って、そっと猫のところまでいき、
おそるおそる手を出した。猫はなでられるままだったが、
そのうちニャンと鳴いて、塀の陰から出てきた。その胴体が・・・長い長い。

「3m以上はあったと思います」しかも気味の悪いことに、
足が10本以上ついていたそうだ。驚いて尻もちをついてしまった岸本さんの前を、
猫はゆうゆうと通り過ぎ、民家の生け垣をくぐって消えた。
「その後ですね、この話を家族にしたんですが、誰も信じてくれませんでした。
それと、猫をなでた手が赤くなってブツブツが出てきたんです。
2週間ぐらいで治りましたけど」
この後、岸本さんはその道を通るのをやめたそうだ。


証券会社に勤める飯田さんが、なじみの小料理屋で遅くまで酒を飲み、
いい機嫌になって帰ろうとし、店にタクシーを呼んでもらった。
しばらくして、店の前でブッと短いクラクションが鳴り、
戸を開けて出てみると、なんと、黒塗りに金の飾りがついた霊柩車が停まっていた。
「ええ?!」飯田さんが驚くと、ひとりでに後部座席のドアが開いた。
「これは乗ってはいけない」そう思って、数歩後ろに下がると、
「お客さん、乗らないんですか?」という声が聞こえてきた。

見ると普通のタクシーで、運転手がイラついた顔で窓から顔を出していた。
「あれれ?、そこまで酔っ払ってるのか、俺?」
そう考えて少し恥ずかしくなりながらタクシーに乗り込んだら、
何事もなく自宅に着いた。ただ・・・それから2週間のうちに、
同居していた飯田さんの両親が立て続けに急病で亡くなったとのことだ。


アメリカで不法就労していた岩城さんが、ニューメキシコの農場での
長期バイトが終わって、同じ農場で働いてた白人男性に車に乗せてもらい、
根城にしている安ホテルに戻る途中、
車のまったく通らない、夜のハイウエイを走っていると、
ピックアップトラックの窓に何かがドンとぶつかってきた。
岩城さんが乗っている側だ。かなりの重量感がある黒い鳥のように思えた。
白人男性は「チッ」と舌打ちをし、車を停めてダッシュボードから拳銃を出した。

岩城さんが驚いていると、男性は岩城さんに窓を開けるように言い、
言われたとおり開けたところへ、さっきの鳥のようなものがまた飛んできた。
姿は、暗くてはっきりとはわからなかったが、叫び声は、
英語で「death、death」と聞こえた。男性は身を乗り出し、
岩城さんの体の前で窓の外に2度発砲し、急いで車を発進させた。

ホテルについて、岩城さんは礼を言って車を降りたが、
そのときに「さっきのは何なんです?」と聞いてみた。白人男性は嫌そうな顔をし、
答えなかったかわりに、拳銃を入れてあったダッシュボードを開け、
何かをつかんで、岩城さんにつき出した。
見ると、十字架がついた安物のペンダントで、
くれるということみたいだった。岩城さんが受け取り、
それ以上の質問する前に、白人男性は走り去っていった。


雑誌社専属のカメラマンをしている三木本さんが、写真の専門学校時代、
仲間と数人で、心霊スポットとされる林の中の民家に探索に行った。
そこは一般家庭が住んでいたと思われる日本家屋で、
落書きなどもなく、家の中には生活臭がまだ残っていた。
1階の奥にある部屋までいくと、巨大な仏壇があった。

扉が閉まっていたので、誰かから「開けてみろよ」という声がかかり、
一番近くにいた三木本さんが、観音開きの扉を一気に開け放つと・・・
中に、横向きに体育座りをした白い着物のじいさんがいた。
「わあ!!」という声が上がり、全員が走って逃げたので、
その後どうなったかはわからない。「でね、そのじいさん、懐中電灯の光で、
ちらっと見ただけなんですけど、両手に箸と茶碗を持ってたような
気がするんですよね」という三木本さんの話。


その当時、高級割烹で皿洗いのバイトをしていた西崎さんが、
必死で働いていると、調理場のほうで「わっ!」という声が上がった。
そちらを見ると、板前さんの一人が、「まただよ」と言いながら、
さばいている途中の大きなサバを皆に向かってかかげていた。
「ああ、嫌だ、嫌だ。こんなの店じゃ捨てられない」板前さんはそう言って、
西田さんを呼び「これ、どっかに持ってって捨ててこい」と命じた。

みると、半身におろしかけたサバの体から黒く長いものが無数に出ていて、
西崎さんには髪の毛のように思えた。どうすればいいか聞けばしかられると
思ったので、髪の毛にさわらないよう新聞紙でつつみ、
近くにある地下鉄の駅に持ってって、ゴミ箱に投げ込んできた。
それが何だったか西崎さんは聞かなかったが、
その割烹は西崎さんがバイトを辞めて数ヶ月してつぶれたそうだ。