古代中国の牛身の神、蚩尤

今回はこういうお題でいきます。妖怪談義です。過去記事で、
中国の幽霊、悪神、僵尸(キョンシー)などについて
取り上げてきましたが、妖怪については今回が初めてです。
では、中国の妖怪にはどのような特徴があるでしょうか。

まず、たいへんに数が多いということ。ざっとみても、千ちかくは
あると考えられます。日本も妖怪の数は多い国なんですが、
その何倍もあるでしょう。理由は簡単で、中国は歴史が古く、
国土も広く、少数民族もいますよね。各時代、各地域、
各民族の伝承が渾然一体となったのが中国の妖怪です。

次に、これは日本もそうなんですが、神、妖怪、幽霊、仙人の
区別がひじょうにありまいであること。例えば、黄帝と戦った
蚩尤(しゆう)という存在がいますが、神と見ればいいのか、
妖怪なのかはっきりしません。また、仙人の中にも、鳥のような
姿で翼があったり、両目が飛び出しているようなものもいます。

仙人、楊任
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さて、現代の中国は共産党支配下ですので、基本的に、
映画やテレビドラマに幽霊を出すことは禁じられています。
死後の世界や死者の怨念など、はっきりした根拠のないものは
国民に悪影響を与える悪い文化というわけです。

そのかわり、歴史劇で妖怪を出すのはかまわないんですね。
孫悟空などは、中国文化のヒーローとなっていて、
北京オリンピックのプロモーションにも登場しました。
ところで、孫悟空って妖怪なんでしょうか。もともとは
そうですよね。悪い猿の妖怪。

孫行者、別名、斉天大聖
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それが、三蔵法師の弟子にされて仏教修行者となりました。
そのため、中国では「孫行者」と呼ばれることが多いんです。
それにしても、もったいないと思うのは、中国には才能ある
映画監督が多数いるのに心霊映画がつくれないこと。もし
やれば、きっと怖いものができると思うんですが。

さて、こんなことを書いていると終わってしまうので、
「悪い妖怪」に話を進めたいと思います。妖怪のでき方には
いろいろあるんですが、一つは、人間に害をもらたす存在を
妖怪の姿で現したもの。具体的には、疾病や自然災害ですが、
今回は特にこれを取り上げていきます。

縊鬼 この絵は女性のようです
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まずは縊鬼(いき)。中国では人は死ねば冥界に行きますが、
冥界の人口は一定数に定められているので、死者が別の者に
生まれ変わろうと思った場合、現世に出て代わりのを一人
連れてこなくてはなりません。そこで、生者にとり憑いて首を吊らせる。

自殺の原因は、病苦、借金苦、人間関係などさまざまですが、
特にこれといった理由がないのに、ふっと首を吊りたくなる。
そういうときは縊鬼にそそのかされたと考えられます。まあ、
実際には心身症や鬱病などが多いんだと思いますが、妖怪の
せいとされました。縊鬼は別名、吊殺鬼とも言います。

疫鬼(えきき)、疫病を流行らせる鬼です。古代中国の帝の
一人である顓頊(せんぎょく)の子どものうち、3人が
疫鬼になったと古い書物に出てきます。日本の節分は、
もともとは中国から伝わった追儺(ついな)という行事で、
豆をぶつけられるのは疫鬼なんです。

瘧鬼をこらしめる鍾馗様 現代の絵なのでマスクをしています
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また、鍾馗様という道教系の神がいますが、唐の玄宗皇帝が
瘧(おこり)の病にかかったとき、夢の中に剣を持った
大男が現れ、疫鬼を退治しました。玄宗皇帝の病はすっかり
癒え、その者のことを調べると、科挙に不合格になったため
自殺した鍾馗という人物であることがわかります。

ここで、瘧の病を起こしていたのは瘧鬼(ぎゃくき)です。
瘧は間欠的に熱が出る病気で、おそらくマラリアのことだと
推定されています。中国では、瘧にかかった者は、発作が
起きる前に道観や廟などに避難して、瘧鬼が家を訪れるの
から逃れる「避瘧」という風習が行われていました。


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自然災害もまた悪い妖怪としてとらえれられます。
例えば、魃(ばつ)というのは旱魃の妖怪と考えられました。
黄帝の娘で体に大量の熱をたくわえており、その現れるところ、
たちまち大旱魃になってしまいます。

また、魃のために死んだ人間は、体がカラカラに乾いて
腐らず、そのまま埋葬すると殭屍となって蘇るため、
必ず火葬にする。もし殭屍が現れた場合は、黒犬の血や、
男児の尿をかける、生の餅米をぶつけると退散するとされ、
この設定は映画の『霊幻道士』で使われています。

キョンシー 実体があるのでゾンビに近いものです
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あ、もうスペースがなくなってきました。暴風雨の害は
雨師、風伯が起こすとされ、蚩尤の配下で暴れましたが、
これを倒したのが、上記の魃なんです。これらの中国の妖怪は
日本に伝わり、その過程で日本的に変化して今に
残っているものが多いんですね。

例えば、産鬼(さんき)は中国の妖怪で、難産で死んだ女がなり、
産婦の出産を妨げたり殺したりします。これと、やはり中国の
姑獲鳥(こかくちょう 子どもをさらう鳥の妖怪)が結びついて、
日本の妖怪産女(うぶめ)になったという具合です。
では、今回はこのへんで。

雨師と風伯
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