今晩は、bigbossmanです。今回も、大阪市内のホテルのバーで
Kさんとお話した内容です。Kさんはご存知と思いますが、
いちおう初めて読まれる方のためにご紹介すると、本業は不動産関連、
飲食店経営などの実業家で、年収は数億と思われます。現在は沖縄県
石垣島在住。でも1年の半分以上は本土に出てこられてますね。
幼少時からその種の能力があったということで、すべてボランティアで
全国を回って数々の事件を解決されてるんです。
で、今からお話するのも、そういう中の一つです。
「bigbossman、お前、大学では考古学を専攻してたんだよな」
「あ、はい、まあ」 「けっこう有名な研究室にいたんだろ。
なんでそっち方面の仕事につかなかったんだ」 

「急に何をおっしゃるんですか。うーん、そうですね。大きく2つ
理由がありますかね。まず一つ目は、落ちこぼれ学生だったことです。
大学に残るなんて不可能だし、地元に帰って公務員の採用試験を
受けても、受かりそうにない」 「公務員?」
「はい、大学の先輩や同期で、地方の教育委員会に入ってるやつが
かなりいます。社教主事の資格を取って、その県の博物館に勤務したり、
教育委員会で緊急発掘に携わったり」 「で、もう一つの理由は?」
「はい、それは自分がアメリカに行ったことです。向こうで
占星術に出会って、がっぱりハマっちゃったんですね」 「ふーん」
「大学の同窓会報が送られてきますけど、職業占い師ってのは自分
しかいないと思います。もちろんみな、まっとうなというか、

世間にとおりのいい仕事してますよ」 「だろうな。ところで、
博物館とか資料館とか、そういうのって いろいろあるだろ。
どう違うんだ」 「うーん、なかなかいい質問ですよ、それ。
Kさん、博物館って言ったらどこを思い浮かべますか」
「そうだなあ、大英博物館」 「うん、有名どころというか、
あそこは世界一ですからね。博物館の前に何もつかないのはスゴイ
ことなんですよ」 「どういうことだ?」 「博物ってのは、この世の
すべてのものってことです。つまりロゼッタストーンとかエジプトの
ミイラなどの歴史・文化関係から、恐竜の骨格標本なんかの
自然科学関係まで、何でもここにありますっていう意思表示なんですね」
「なるほど」 「歴史が古いし、準国家機関だからそれができる。

でも、日本で博物館ができたのは明治以降。だから、収蔵品は 
どうしても小規模です。そこで、博物館の前に、歴史民俗とか
自然とかをつけることで、展示するものを限定する」 「ああ、そうか」
「あとね、自動車博物館とか放送史博物館とか、収集を一点に
しぼったものも多いですね。資料館は、一般的には博物館より小規模で、
ある地域のある時代に焦点をあてて収集してることが多い」
「よくわかったよ」 「Kさん、何かそれ関係の事件に関わった
んですね。話して聞かせてくださいよ」 「ああ、そのつもりだった」
「わくわく」 「そうだな、Uさんとしておこうか。ある県立博物館に
勤めてるんだよ」 「はい」 「でな、その県の地方の旧家が解体される
ことになって、現在の持ち主が思い出深い品々が散逸するのは

残念だということで、売らずに、一括して博物館に寄贈したんだ」 
「ああ、よくあることです」 「寄贈品が全部で80点ほど。
その分類整理をUさんが担当した。そのあたりはお前のほうが詳しいだろ」
「まずは個々のものの素性を明らかにします。用途、年代、美術品だったら
現在の価値。古美術品の鑑定家や地元の大学の応援を頼んだりもしますね。
その後に修復なんですが、もし貴重な美術品だったら修復できません」
「え、どうして」 「だってミロのヴィーナスに勝手に腕をつけるわけに
いかないでしょ」 「ああ、そうか。でな、半年近くその仕事にかかりきり
だったが、一つだけ何とも判別のつかないものがあった」 「何です?」
「面だよ」 「能面ですか」 「いや、ただの木彫りの薄っぺらい面。
表はな」 「というと」 「裏側が何とも異様でな、

びっしりとすき間なく、黒い短い毛が生えてたんだ」 「うわ、
それって顔にあてる側ってことですよね」 「そうだ。Uさんとしては、
その面は価値なしと判断してもよかったんだが、個人的に興味を
持ってしまった。それで、その博物館では限界があるんで、
他県の施設に炭素年代の測定と、裏の毛のDNA鑑定を依頼した。
年代測定は簡単にできるものなのか」 「AMS法というのが
開発されて、わずかなサンプルがあれば短時間で測定はできるように
なってます。でも、炭素法は誤差も大きいんで」 「そうか。出てきた結果は、
面は古いものではない。おそらく江戸時代後期から明治初頭。で、DNAの
ほうはヤバかった。毛は人毛で女性のもの、それも複数人のものということで、
さらにだ。毛髪は皮膚とともに面に貼りつけられてたんだ」 「う」 

「つまり髪の毛ごと頭の皮を剥がし、乾燥等の処理を加えてから
面の内側に貼った」 「何でそんなことを」 「もちろんその時点では
わからんかったが、Uさんはまずます興味をつのらせた」 「なるほど、
自分もそれは調べてみたくなります」 「歴史的、美術的価値は
ゼロと判断し、上司の許可を得て自宅に持ち帰ったそうだ」
「で」 「でな、自分の書斎の机の上に置いておいたのが、
数日後に見えなくなった」 「紛失したってことですか」
「そう。ただ、誰が取ったのかはすぐにわかったし、面も出てきた」
「誰が?」 「Uさんの娘さんだよ。中学2年生でバレー部だったのが、
部内のイジメが原因で不登校になり、家に引きこもってたんだな。
Uさんは、時間が解決してくれるものと考えて、
 
娘さんに学校に行けと強くは言わなかった。いずれ長引くようであれば、
カウンセラーに相談したり、転校も考えていたそうだが」
「それで」 「面がなくなった翌日、娘さんが家を出て終日帰ってこない。
で、夜になって警察から連絡が入った」 「で」
「娘さん、自分が不登校になったイジメのリーダーの家に行って
その子を呼び出し、出できたところを石で殴って昏倒させ、
馬乗りになって髪の毛を引き抜いた」 「うう」 「たまたま通り
ががりの人が見つけ、警察を呼んで補導されたんだよ」 
「そのとき面は?」 「顔につけていたそうだよ。ただ、不思議なのは、
その面にはヒモも何もついてないんだ。それなのに警察官が
剥がそうとしても、しばらく取れなかったということだ」

「うーん、不可思議な話ですね。それで、面の正体はわかったんですか」
「少しだけな。旧家は解体されてしまったが、面につながるようなものは
何も出てこなかった。けど、蔵だけは残しておいたんだ。雰囲気が
よかったんで、改装して何かの店にしようと考えてたらしい」 「で」
「その蔵の二階で、天井から下がっている荒縄が数本見つかった。
もうかなり朽ちてたが、どれも縄の下のほうの結び目に長い髪の毛が
わずかに残ってたんだな。女性の髪を縛って吊り下げていたようだ」
「・・・・」 「でな、その面は文字どおりお蔵入りになったのよ。
展示はせず、それ専用の部屋に保管しておく。・・・そういうのはどこの
博物館にもあるのか」 「だいたいありますね。あるいは、近隣の
神社と契約してて、そこに預かってもらうとか」 「ああ、なるほど」