あ、どうも、よろしくお願いします。俺・・・いや、僕、ある大学の3回生で、
ミステリーサークルに入ってるんです。でね、このミステリーっていうのは、
推理小説のことじゃなく、ミステリーサークルとかに使うほうです。
つまり、謎ってことですね。これまで、いろんな活動をやってます。
テント持参で、青木ヶ原樹海の遊歩道を外れたところに泊まり込んだり、
去年の夏休みなんかは、北海道まで遠征して、UFOがよく見られると言われる
廃墟で夜明かししたりもしたんです。結果? いや、それが、
写真もビデオも撮ったんですが、おかしなことは何もありませんでした。
でね、すごく残念に思ってたんです。もうすぐ僕は就職活動でサークルを
引退しなくちゃなんないし、とうとう本物の怪異に巡りあうことは
できなかったなって思って。それで、先月の終わりごろのことです。

授業が終わってすぐ、サークル室に顔を出したんです。
僕らの大学はサークルの数が多いので、10人も入れないようなせまい部屋
なんですが、1、2回生が4人集まって、テーブルで何か見てたんです。
「何だ、面白いもんがあるのか」そう聞いたら、1人が、
「あ、○○先輩、この写真見覚えありますか?」って手渡してよこしたのが、
かなり古そうに見える白黒写真だったんです。「いや、知らんけど」
「僕がここに来たら、テーブルにあがってたんです。
でも、誰も知らないって言うし」で、その写真なんですけど、
フィルムを現像したもので、今はもうそんなことしてないですよね。
しかも白黒で、僕もよくわかりませんが、昭和の初めころのものじゃないかって
思いました。写っていたのは家の内部なんですが・・・

写真の構図が斜めにかしいでたんです。ほら、カメラをぶら下げてたときに、
間違ってシャッターが押されてしまったみたいな。
斜めに畳が写ってて、その上に箱、茶箱くらいの大きさのものが
何個かありました。画面から切れててはっきりしないけど、
見えてるだけでも3つはありましたね。「うーん、昔のもんだよなあ。
そこの棚に、卒業した先輩たちが活動してたころのファイルが入ってるから、
中から誰か出したんじゃないか」 「でも、こんな古いものがありますか」
「そうだなあ。あ、これでも、ちょっとしたミステリーじゃないか。
この写真は何で、誰がどこを写したもんなのか、みなで探ってみようぜ」
・・とは言ったものの、たんなるその場の思いつきで、実際は、
その場にいないメンバーが後で、「あ、僕の忘れものです」

ってオチだと思ってたんですけど。ともかく、その写真を視聴覚室に持ってって、
コピーしてみなに配りました。で、僕だけは実物を教科書に
はさんで持ち帰ったんです。その後、居酒屋のバイトに行って、
部屋に帰ってきました。翌日は授業がなかったん缶ビールを何本か飲み、
そのときにこの写真のことを思い出して出してみました。
そしたら、違和感を感じたんです。なんか大学で見たのと違う気がする。
でも、具体的にどう違うか言えないんですね。そもそもがそんなによく見た
わけでもないので、気のせいだとも思ったんですが。
写真に写ってるのは、さっき話したように畳があるので一般家屋でしょう。
箱はかなり大きく、表面は黒い木のように見えました。
あと、背景に和ダンスらしきものがちらっと写ってて、それだけ。

これじゃあ手がかりはないも同然ですよね。あきらめてシャワーを浴びて寝ました。
翌日、大学のサークル室に行きました。やはり後輩が何人かいて、
前日いなかったやつに写真のことを聞いても、「知りません」という返事。
そのうちに前日のメンバーのうち2人が来たんで、「何かわかったか」と
言ったんですが、首をふるだけでした。今はほら、ネット時代で、
画像検索すればすぐに出てきますよね。例えば写真を加工して、
幽霊やUMAを入れても、それが入ってない元画像が特定されちゃいます。
今度の東京オリンピックの最初のシンボルマークも、
画像検索から盗作疑惑が持ち上がったわけでしょ。ところが、
こういうフィルムの白黒写真って、どうやっても調べようがないんですよね。
ネット時代になって、謎や不思議がどんどん失われていってるんです。

そんな感じで、あきらめたというか、関心をなくしたというか、
写真のことは頭から消えてったんです。でね、最初に見てから5日目かな、
後輩から、「△△が授業に出てこないし部屋にもいないみたいだ」って

聞いたんです。そいつ、1回生で、あの写真をコピーして渡した一人なんです。
1回生は、僕らと違って毎日授業があるから、いないとすぐわかるんです。
「ちょっとマズいな」と思いました。僕らの大学はマンモス校で、
田舎から出てきたやつが、馴染めないでやめちゃったりすることも珍しくは
ないんです。「田舎に帰ったかとかかなあ、スマホで連絡取れるか?」
と聞いても、「できません」ってことでした。でも、それ以上どうにもできない
ですよね。僕らは身内じゃないから、捜索願いってわけにもいかないし。
いや、あの写真と関係があるとはまったく考えませんでした。

でね、その日もバイトから帰って酒飲んでるときに、ふっと写真のことを
思い出したんです。えっと、どこにやったか。あ、そうだ確か机の引き出しに・・・
出してみて、「え!」と思いました。ほら、箱があるって言ったでしょ。
その一番手前のやつのフタが、ほんの少しだけずれてたんです。
中は暗く、何が入ってるかはわかりませんでした。でもねえ、
写真が動くなんてありえないですよね。だから、自分の勘違いかと思って。
それで翌日、朝の9時前、最初に写真を見た後輩たちに連絡をとって
招集をかけたんです、4時にサークル室に写真のコピーを持って集まれって。
その時間になって4人ともやってきたんで、まず△△のことを聞いたら、
消息不明のままでした。それから、「なあ、この写真変だろ、フタが

ずれてるように見えないか」そう言って、それぞれのコピーと比べてみたんです。
やっぱり僕の持ってる1枚だけが違ってました。でもね、


それを元にコピーしたんだから、違うはずなんてないでしょ。そしたら、
1回生の一人がこんな話を始めたんです。「じつはですね、僕、進学塾が△△と

同じで、大学合格が決まった春休みに、心霊スポット探索に行ってて。そこ、
郊外にある民家の廃墟なんですけど、もしかしたらその写真かもしれないです」 

「え、箱があったのか」 「いえ、全部の部屋回ったんですが、

こんなのはなかったです。ただここ、ちょこっとタンス写ってますよね。

それがなんとなく見覚えあるような気も」
「うーん、お前ら、その民家、荒らしたりしたか」 「・・・僕はそうでも

なかったけど、土足で入ったのはそうだし、△△は大学合格でテンションが

上ってて、そこらの壁や障子、それから仏壇とかも蹴ったりしてました」 

「そこ、今もあるのか」 「それが地元に連絡取ったら、

もう取り壊されてなくなったみたいだって言うんです」

これだけだと何とも言えないですよね。とにかく、コピーは全部集めて

シュレッダーにかけたんです。で、手元に残ったのは僕が持ってる1枚だけ。
その後輩には、民家から写真を含めて何か持ち出したりしてないか聞いたんですが、
首を振るだけでした。・・・これでほとんど話は終わりなんです。
△△は、その後3日たっても消息不明で、僕らが大学の事務局に話をして、実家に

連絡をとってもらいました。驚いた両親が駆けつけてきて、部屋を確認して

警察に捜索願を出したんです。その過程で、僕も両親と話したんですが、
写真のことは言えなかったんです。だって、関係ないと考えるのが普通ですからね。
あとは、僕が持ってる写真だけです。その騒ぎの間にも、
フタは少しずつずれてったんです。いや、怖いは怖いですけど、
どうなるのかと思って、時間があると見てたんですよ。

僕が見てる間は写真が動くなんてことはないです。ただ、寝て起きたときに見ると、
やはり前日よりほんのわずかずれてる。で、この写真、右手のほうから

光が入ってて、フタがずれるたびに、中がぼんやり見えてきたんですよ。
これ、手に見えませんか。えーとあの、屈葬って言うんでしょうか、
両手で膝を抱えた状態で、上向きに箱の中に裸の人が入ってるような。
はい、あれからさらにずれて、もうすぐ胸の上が見えそうですよね。
これもし△△だったとしたら、僕はどうすればいいんでしょうか。
民家の廃墟のことは確認しました。たしかに解体されてて、
空地になってるそうです。だからもし、この写真がその家の中だとしても、
行くことはできないんです。え、写真をここに置いていけって。
・・・やっぱりそうですか、わかりました、後のことはよろしくお願いします。